『婚約破棄されたので王太子女となります。殿下より上位です』

ふわふわ

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第七話 腹違いの告白

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第七話 腹違いの告白

 王宮の空気が、変わった。

 昨日までのざわめきは、驚愕へと姿を変えている。
 正妃エレノアの実子が生存していた。

 その事実は、瞬く間に王都を駆け巡った。

 だが本当に重いのは噂ではない。
 王統順位の再計算。

 王子レオンは、もはや唯一の継承者ではない。

 大聖堂の審問室には再び人が集められていた。

 教会側は最終確認を行うため、当事者の立会いを求めたのだ。

 国王。
 側室マルグリット。
 王子レオン。
 公爵。
 そして、わたくし。

 大司教がゆっくりと口を開く。

「王統確認の最終段階に入る」

 机上には、三つの印章。

 王家。教会。公爵家。

 文書の整合は既に確認された。

 残るは、公的宣言のみ。

 王子レオンは、昨日よりも顔色が悪い。

 だがまだ、信じていない。

「父上」

 低い声で国王を呼ぶ。

「これは形式の問題に過ぎません。私は側室の子であっても、長子です」

 国王は息子を見た。

「長子であることは否定せぬ」

「ならば問題はないはずだ」

 大司教が静かに言う。

「問題は“嫡出”でございます」

 嫡出。

 その言葉が、決定打だった。

「正妃の子は嫡出子。側室の子は庶出」

 石のような事実。

 王子の拳が震える。

「それは……古い慣習だ」

「王統は慣習で成り立つ」

 国王の声は冷たい。

「そして慣習こそが、秩序だ」

 沈黙が落ちる。

 大司教が文書を読み上げる。

「正妃エレノアの嫡出子、アリアベル」

 わたくしの名が再び響く。

「よって、王統順位第一位」

 空気が裂ける。

 王子レオンは一歩前へ出た。

「そんなはずはない」

 その視線が、わたくしに向く。

「お前は……」

 言葉を探している。

 否定したい。

 だが記録は否定できない。

 わたくしは静かに一礼する。

「殿下」

 その呼称はまだ変えていない。

 だが次の言葉で、全てが変わる。

「あなたと、わたしは、腹違いの兄妹です」

 石造りの壁に、声が静かに響く。

 王子の目が見開かれる。

「……何を」

「正妃エレノアは、わたくしの母」

 わたくしは真っ直ぐに立つ。

「王と正式婚姻を結び、教会の承認を得た正妃」

 言葉は穏やか。

 だが逃げ道はない。

「お兄様と婚約など、成立いたしません」

 静かな宣告。

 それは恋の拒絶ではない。

 血の拒絶。

 王子は言葉を失う。

 側室マルグリットが椅子を握る。

「そんな……」

 国王がゆっくりと立ち上がる。

「これにより、レオンとアリアベルの婚約は無効」

 元より破棄されていた。

 だが今、それは“禁忌”となる。

 近親婚は教会が認めない。

 王子は蒼白のまま、立ち尽くす。

「父上……」

「お前は知らなかった」

 国王の声は、怒りではない。

 事実の確認。

「だが知らなかったでは済まぬ」

 王子の視線が揺れる。

 昨日まで自分が優位に立っていたと信じていた男が、
 今日、血統で逆転された。

 しかもその原因は、自らの婚約破棄宣言。

 静かに、だが確実に、王宮の視線が変わる。

 重臣たちは既に計算を始めている。

 王統順位第一位。

 それは即位を意味しない。

 だが未来を意味する。

 大司教が最終宣言を行う。

「王統順位を正式に再計算する。アリアベルを第一位、レオンを第二位とする」

 第二位。

 その一言が、王子の背を折る。

 彼はまだ王太子だ。

 だが順位は変わった。

 形式は重い。

 国王が告げる。

「王位継承に関する最終決定は後日」

 だが誰もが理解している。

 流れは決まった。

 審問室を出ると、廊下の空気が違う。

 侍従の視線。

 衛兵の姿勢。

 わたくしに向けられる敬意。

 王子レオンは動けない。

 彼はまだ、自分が王になると信じている。

 だが今日、初めて理解した。

 婚約破棄は恋の問題ではなかった。

 王統を揺らした。

 そして自らの地位を。

 王宮の高窓から光が差す。

 その光は、昨日と同じ。

 だが序列は違う。

 わたくしは歩く。

 静かに。

 血は動かない。

 だが立場は変わる。

 王都は、次の発表を待っている。

 そして王子は、初めて知った。

 自分には越えられない一線があることを。
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