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第九話 王太子女叙任
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第九話 王太子女叙任
王宮の大広間は、かつてない緊張に包まれていた。
王太子が空位となったまま一日が過ぎた。
王統順位第一位が王太子位を兼ねる。
それがこの王国の制度。
つまり――空位は仮の状態でしかない。
本日、その空白が埋められる。
重臣、教会代表、軍の最高位、貴族議会代表。
全員が列席している。
玉座の前に設えられた壇上には、金糸の縁取りが施された深紅の外套。
王太子位の象徴。
かつてはレオンが纏っていたもの。
今は空席。
第一王子レオンは、列の後方に立っていた。
位置が違う。
それだけで、距離が生まれる。
国王が立ち上がる。
「本日、王統順位第一位アリアベルを、王太子女に叙する」
ざわめきはない。
誰もが理解している。
だが理解と、実際に見ることは別だ。
わたくしは一歩前へ進む。
裾が石床を滑る。
重臣たちの視線が集まる。
教会代表が進み出る。
「王統順位第一位としての資格、血統、教会承認、すべて確認済み」
簡潔な宣言。
国王が外套を手に取る。
一瞬だけ、父の顔がそこに浮かぶ。
だが次の瞬間、王の表情に戻る。
「アリアベル」
「はい、陛下」
「王太子女として、王国を支える覚悟はあるか」
「ございます」
迷いはない。
それは勝利ではない。
責任。
外套が肩にかけられる。
重みが伝わる。
会場の空気が変わる。
「本日より、アリアベルは王太子女である」
宣言。
拍手は起きない。
だが全員が一礼する。
それが承認。
第一王子レオンは、動かない。
視線は前を向いているが、焦点が定まっていない。
彼はまだ信じている。
これは一時的な措置だと。
国王が続ける。
「王太子女は、議会出席権、軍務閲覧権、外交同席権を有する」
権限の宣言。
それは実務。
重臣たちが一斉にわたくしを見る。
未来を見る視線。
式典は静かに終わった。
廊下に出ると、空気が違う。
侍従の礼が深い。
騎士の敬礼が正式。
言葉遣いが変わる。
「王太子女殿下」
呼称が確定する。
第一王子レオンは、その後ろを歩く。
誰も彼に話しかけない。
否、話しかけられない。
序列は明確だ。
王太子女は第一位。
第一王子は第二位。
差は一つ。
だが重みは桁違い。
王宮の庭園に出る。
冬の空気が冷たい。
父が静かに近づく。
「重いか」
「はい」
正直に答える。
「だが逃げぬ」
「それでよい」
父はそれ以上言わない。
遠くで、第一王子が立ち止まる。
彼はまだ折れていない。
だが確実に、足場は失われている。
婚約破棄。
新婚約宣言。
教会審査。
血統開示。
そして叙任。
すべてが繋がっている。
彼は気づき始めている。
だが認めない。
王宮の空は静かだ。
逆転は終わった。
ここからは評価。
王太子女は立った。
第一王子は立っている。
だが立場は違う。
そしてその差は、これから広がる。
王宮の大広間は、かつてない緊張に包まれていた。
王太子が空位となったまま一日が過ぎた。
王統順位第一位が王太子位を兼ねる。
それがこの王国の制度。
つまり――空位は仮の状態でしかない。
本日、その空白が埋められる。
重臣、教会代表、軍の最高位、貴族議会代表。
全員が列席している。
玉座の前に設えられた壇上には、金糸の縁取りが施された深紅の外套。
王太子位の象徴。
かつてはレオンが纏っていたもの。
今は空席。
第一王子レオンは、列の後方に立っていた。
位置が違う。
それだけで、距離が生まれる。
国王が立ち上がる。
「本日、王統順位第一位アリアベルを、王太子女に叙する」
ざわめきはない。
誰もが理解している。
だが理解と、実際に見ることは別だ。
わたくしは一歩前へ進む。
裾が石床を滑る。
重臣たちの視線が集まる。
教会代表が進み出る。
「王統順位第一位としての資格、血統、教会承認、すべて確認済み」
簡潔な宣言。
国王が外套を手に取る。
一瞬だけ、父の顔がそこに浮かぶ。
だが次の瞬間、王の表情に戻る。
「アリアベル」
「はい、陛下」
「王太子女として、王国を支える覚悟はあるか」
「ございます」
迷いはない。
それは勝利ではない。
責任。
外套が肩にかけられる。
重みが伝わる。
会場の空気が変わる。
「本日より、アリアベルは王太子女である」
宣言。
拍手は起きない。
だが全員が一礼する。
それが承認。
第一王子レオンは、動かない。
視線は前を向いているが、焦点が定まっていない。
彼はまだ信じている。
これは一時的な措置だと。
国王が続ける。
「王太子女は、議会出席権、軍務閲覧権、外交同席権を有する」
権限の宣言。
それは実務。
重臣たちが一斉にわたくしを見る。
未来を見る視線。
式典は静かに終わった。
廊下に出ると、空気が違う。
侍従の礼が深い。
騎士の敬礼が正式。
言葉遣いが変わる。
「王太子女殿下」
呼称が確定する。
第一王子レオンは、その後ろを歩く。
誰も彼に話しかけない。
否、話しかけられない。
序列は明確だ。
王太子女は第一位。
第一王子は第二位。
差は一つ。
だが重みは桁違い。
王宮の庭園に出る。
冬の空気が冷たい。
父が静かに近づく。
「重いか」
「はい」
正直に答える。
「だが逃げぬ」
「それでよい」
父はそれ以上言わない。
遠くで、第一王子が立ち止まる。
彼はまだ折れていない。
だが確実に、足場は失われている。
婚約破棄。
新婚約宣言。
教会審査。
血統開示。
そして叙任。
すべてが繋がっている。
彼は気づき始めている。
だが認めない。
王宮の空は静かだ。
逆転は終わった。
ここからは評価。
王太子女は立った。
第一王子は立っている。
だが立場は違う。
そしてその差は、これから広がる。
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