『婚約破棄されたので王太子女となります。殿下より上位です』

ふわふわ

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第十一話 初めての政務

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第十一話 初めての政務

 王太子女としての初の政務は、祝賀でも演説でもなかった。

 財務報告の閲覧。

 それが最初だった。

 王宮西棟、政務室。

 重厚な机の上に積まれた書類は、祝意とは無縁の数字で埋め尽くされている。

 王太子女には閲覧権がある。

 だが実際に目を通す者は少ない。

 かつての王太子レオンも、要点のみを聞き取ることが常だったと聞く。

 わたくしは椅子に座り、最初の報告書を開いた。

 国庫収支。

 今年度、南部港湾税収が減少。

 理由は輸出量の停滞。

「原因は?」

 財務卿が一瞬、言葉を探す。

「第一王子殿下の主導による新規関税案が、商会側に警戒を与えたと推測されます」

 静かな告白。

 その案は、数か月前に提出されたもの。

 貿易保護を目的とした高関税。

 だが議会は採用しなかった。

 商人たちは動きを止めた。

 影響は数字に出ている。

「現行案の撤回は?」

「正式な撤回はされておりません」

 未処理。

 それが問題。

「本件、議会に再提示いたします」

 財務卿の目がわずかに動く。

「撤回の方向で、ですか」

「影響が出ている以上、修正が妥当かと」

 即断ではない。

 だが判断は示す。

 政務室の空気が変わる。

 王太子女が、数字を読んでいる。

 それだけで評価は動く。

 午後は軍務報告。

 北方の駐屯兵糧備蓄が減少。

 理由は輸送遅延。

「原因は?」

 軍務卿が答える。

「冬季の河川凍結と、補給計画の見直し遅延」

 遅延。

 誰の?

 報告書の末尾に署名がある。

 第一王子レオン。

 王太子時代に提出された補給計画。

 承認後、実行が滞っている。

「代替案は?」

「現状ではございません」

 わたくしは地図を広げる。

 河川が凍るなら陸路を増やす。

 負担は増すが、兵糧は優先。

「三割を陸送へ転換。商会への発注を前倒し」

 軍務卿が一瞬、目を見開く。

「即時実行可能でございます」

 迷いはない。

 実行。

 それだけ。

 会議が終わると、重臣たちの視線が明らかに変わっていた。

 期待。

 安堵。

 比較。

 それは口に出されない。

 だが積み重なる。

 夕刻、第一王子レオンが政務室を訪れた。

「何をしている」

 問いは短い。

「財務と軍務の確認です」

「それは私の役目だった」

「王太子女の権限内にございます」

 事実だけを述べる。

 彼は机上の書類を見下ろす。

 数字。

 地図。

 決裁印。

 すでに動いている。

「焦る必要はない」

 彼は言う。

「国王はまだ退位していない」

「承知しております」

「ならば急ぐ理由はない」

 急いではいない。

 ただ、止めていないだけ。

「王国は待ってくれません」

 静かな返答。

 彼の目が揺れる。

「私は失敗していない」

 独り言のような声。

「婚約は私の選択だった」

「はい」

「王太子位は一時的なものだ」

 彼はまだ信じている。

 流れが戻ると。

 わたくしは否定しない。

 否定は必要ない。

 評価は積み重なる。

 夜、王宮の回廊は静かだ。

 今日の政務は小さな修正ばかり。

 だがそれが国を支える。

 王太子女は初日から動いた。

 第一王子は立っている。

 だが動いていない。

 それだけで差は広がる。

 逆転は終わった。

 固定は始まった。

 そして評価は、誰にも止められない。
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