『婚約破棄されたので王太子女となります。殿下より上位です』

ふわふわ

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第十三話 軍の忠誠

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第十三話 軍の忠誠

 王太子女としての初の軍視察は、北門駐屯地だった。

 王宮から馬車で半刻。石造りの城壁と、整然と並ぶ兵舎。冬の冷たい空気の中、整列した兵士たちの吐く息が白く立ち上る。

 かつて王太子レオンが主導していた軍務は、形式上は第一王子のままだ。
 だが実務は、王太子女の閲覧権と提言権のもとで動き始めている。

 視察の通達が出たとき、軍務卿は即座に準備を整えた。

 その速さが、すでに答えだった。

 城門前で、最高司令官が一礼する。

「王太子女殿下、北門駐屯地へようこそ」

 呼称に迷いはない。

「本日は補給体制と冬季警備の確認を」

「承知しております」

 兵糧庫の帳簿が差し出される。

 先日の陸送転換案は、すでに実行されていた。
 輸送車列が増え、商会との契約は締結済み。滞りはない。

「凍結期における補給遅延は解消されつつあります」

 軍務卿が報告する。

 わたくしは帳簿を確認し、地図を広げる。

「北東側の予備倉庫は」

「三割増しで確保済み」

「よろしい」

 兵士たちが静かにこちらを見る。

 恐れではない。

 測る視線。

 やがて司令官が口を開く。

「殿下の決断は迅速でした」

「軍は止められません」

 それだけを返す。

 司令官は深く頷いた。

「我らは王統第一位に忠誠を誓う」

 その言葉は儀礼ではない。

 宣言。

 王統第一位。

 王太子女。

 兵たちは一斉に槍を打ち鳴らす。

 乾いた音が空に響く。

 その瞬間、軍の忠誠の向きが明確になった。

 王宮へ戻る途中、第一王子レオンの馬車とすれ違う。

 彼は軍務視察の予定を後日入れていた。

 だが今日、兵士たちは既に評価を下している。

 王宮に戻ると、軍務卿が報告書を提出する。

「北門、忠誠確認済み」

 短い文言。

 だが重い。

 夕刻、第一王子が軍務卿を呼び出した。

「なぜ私より先に視察を」

「王太子女殿下の命により」

「私は第一王子だ」

「はい」

 軍務卿は姿勢を崩さない。

「軍は王統順位第一位に従います」

 静かな返答。

 レオンは言葉を失う。

 命令権はまだある。

 だが軍の視線は未来へ向いている。

 夜、王宮の廊下。

 第一王子は一人で立っていた。

「軍は私を軽んじたのか」

 誰に向けるでもない問い。

 軽んじていない。

 ただ、従った。

 王統順位に。

 わたくしは書斎で軍報告を読み終える。

 忠誠は奪うものではない。

 示すもの。

 今日、軍は示した。

 誰に従うのか。

 逆転は終わっている。

 評価が積み上がる。

 軍は静かに未来を選んだ。

 第一王子はまだ立っている。

 だが兵の槍は、別の方向を向いている。

 その音は、誰にも覆せない。
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