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第二十一話 距離という選択
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第二十一話 距離という選択
侯爵家の当主が、正式に王宮を訪れたのは、男爵令嬢の退去から三日後のことだった。
大広間ではなく、小会議室。
儀礼を伴わぬ、しかし記録に残る訪問。
それ自体が、意思表示だった。
第一王子レオンは、呼ばれていない。
席にいるのは国王、王太子女ルシア、宰相、そして侯爵家当主。
侯爵家は側室の実家。
つまり第一王子の母の家。
この家の動向は、長らく王宮の均衡を左右してきた。
侯爵は深く頭を下げる。
「陛下。王太子女殿下」
言葉は慎重に選ばれる。
「我が家は、今後、王統問題について中立を保つ所存でございます」
中立。
それは撤退の宣言。
第一王子派ではない。
だが対立もしない。
距離を取る。
国王は短く答える。
「理解した」
それ以上は言わない。
宰相が確認する。
「議会においても、その立場を維持なさると?」
「左様に」
侯爵の声は揺れない。
だがその目は、わずかに疲れている。
血統発覚の瞬間から、侯爵家は守勢に回った。
第一王子が婚約破棄をした時点で、貴族の支持は揺らぎ。
腹違いの事実が明るみに出た時点で、道は閉ざされた。
侯爵家は理解している。
これ以上、王子に賭けるのは損失だと。
会談は短く終わる。
侯爵が去った後、宰相が静かに言う。
「これで、派閥は事実上解体されました」
わたくしは頷く。
派閥が崩れたのではない。
支えが消えた。
第一王子の執務室。
侍従が報告を伝える。
「侯爵様が中立を表明されました」
レオンは目を閉じる。
「そうか」
怒鳴らない。
机を叩かない。
ただ、理解する。
侯爵家は彼の母の実家。
幼少期から支えられてきた。
だが政治は情では動かない。
「母上は……」
「ご静養中にございます」
側室は表に出ない。
動かない。
王宮は冷静だ。
午後の会議。
議題は港湾整備の第二期計画。
王太子女が説明し、重臣が補足し、国王が決裁する。
第一王子は列席している。
だが、発言しない。
意見を求められない。
終始、静観。
かつては彼の一言で議場が動いた。
今は動かない。
会議後、若い伯爵が第一王子に礼をする。
「ご機嫌麗しゅう」
形式的。
続く言葉はない。
その伯爵は、そのまま王太子女の側へ向かう。
距離。
それは明確だ。
夜、第一王子は母の肖像画の前に立つ。
「私は、間違っていない」
言葉は静か。
婚約破棄も、男爵令嬢との選択も。
彼にとっては正義だった。
血統の問題は、知らなかった。
だが知らなかったことは罪ではないと、彼は思っている。
王宮の灯りは、王太子女の執務室で最後まで残る。
侯爵家は距離を取った。
男爵家は去った。
公爵家は揺るがない。
教会は支持を示す。
軍は忠誠を誓う。
制度は変わらない。
第一王子の肩書きも変わらない。
だが、支える輪は解けた。
彼はまだ王宮にいる。
立場も部屋もある。
だが、背後に立つ家はもうない。
距離という選択は、音を立てない。
しかし確実に、彼をひとりへと近づけていった。
侯爵家の当主が、正式に王宮を訪れたのは、男爵令嬢の退去から三日後のことだった。
大広間ではなく、小会議室。
儀礼を伴わぬ、しかし記録に残る訪問。
それ自体が、意思表示だった。
第一王子レオンは、呼ばれていない。
席にいるのは国王、王太子女ルシア、宰相、そして侯爵家当主。
侯爵家は側室の実家。
つまり第一王子の母の家。
この家の動向は、長らく王宮の均衡を左右してきた。
侯爵は深く頭を下げる。
「陛下。王太子女殿下」
言葉は慎重に選ばれる。
「我が家は、今後、王統問題について中立を保つ所存でございます」
中立。
それは撤退の宣言。
第一王子派ではない。
だが対立もしない。
距離を取る。
国王は短く答える。
「理解した」
それ以上は言わない。
宰相が確認する。
「議会においても、その立場を維持なさると?」
「左様に」
侯爵の声は揺れない。
だがその目は、わずかに疲れている。
血統発覚の瞬間から、侯爵家は守勢に回った。
第一王子が婚約破棄をした時点で、貴族の支持は揺らぎ。
腹違いの事実が明るみに出た時点で、道は閉ざされた。
侯爵家は理解している。
これ以上、王子に賭けるのは損失だと。
会談は短く終わる。
侯爵が去った後、宰相が静かに言う。
「これで、派閥は事実上解体されました」
わたくしは頷く。
派閥が崩れたのではない。
支えが消えた。
第一王子の執務室。
侍従が報告を伝える。
「侯爵様が中立を表明されました」
レオンは目を閉じる。
「そうか」
怒鳴らない。
机を叩かない。
ただ、理解する。
侯爵家は彼の母の実家。
幼少期から支えられてきた。
だが政治は情では動かない。
「母上は……」
「ご静養中にございます」
側室は表に出ない。
動かない。
王宮は冷静だ。
午後の会議。
議題は港湾整備の第二期計画。
王太子女が説明し、重臣が補足し、国王が決裁する。
第一王子は列席している。
だが、発言しない。
意見を求められない。
終始、静観。
かつては彼の一言で議場が動いた。
今は動かない。
会議後、若い伯爵が第一王子に礼をする。
「ご機嫌麗しゅう」
形式的。
続く言葉はない。
その伯爵は、そのまま王太子女の側へ向かう。
距離。
それは明確だ。
夜、第一王子は母の肖像画の前に立つ。
「私は、間違っていない」
言葉は静か。
婚約破棄も、男爵令嬢との選択も。
彼にとっては正義だった。
血統の問題は、知らなかった。
だが知らなかったことは罪ではないと、彼は思っている。
王宮の灯りは、王太子女の執務室で最後まで残る。
侯爵家は距離を取った。
男爵家は去った。
公爵家は揺るがない。
教会は支持を示す。
軍は忠誠を誓う。
制度は変わらない。
第一王子の肩書きも変わらない。
だが、支える輪は解けた。
彼はまだ王宮にいる。
立場も部屋もある。
だが、背後に立つ家はもうない。
距離という選択は、音を立てない。
しかし確実に、彼をひとりへと近づけていった。
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