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第二十八話 容認の言葉
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第二十八話 容認の言葉
教会は、滅多に政治に踏み込まない。
踏み込むときは、既に流れが定まっているときだけだ。
王都大聖堂に、各地の司教が集められたのは初夏の終わり。
表向きは年次総会。
だが王宮の者は知っている。
退位示唆の後、教会が沈黙を保っている意味を。
沈黙は中立ではない。
観察だ。
会合は三日に及んだ。
そして最終日、教会は短い声明を出す。
「王統において、性別は継承の妨げとならず」
続く文。
「正統なる血統と、国を治める徳を備えし者が、王位に就くことは教義に反せず」
名は出ない。
だが十分だ。
“女王容認”。
それが広まるまで半日もかからなかった。
王宮の回廊で、若い貴族が囁く。
「これで、障害はない」
「教会が認めた」
第一王子レオンも、その写しを受け取る。
羊皮紙の文字は淡々としている。
否定はない。
だが彼の名もない。
彼はゆっくりと文を読み終え、机に置いた。
「教会は、私を否定していない」
それは事実。
だが支持もしていない。
午後、王太子女ルシアは国王と面会する。
「教会の声明、いかがいたしましょう」
「何もせぬ」
国王は言う。
「容認は追い風だが、命令ではない」
制度は変わらない。
強制もない。
ただ、空気が整う。
夕刻、王宮広場で司教が民に語る。
「徳ある統治こそ、神の望み」
民は拍手する。
誰の名も出ない。
だが民は理解する。
干ばつを乗り切った。
税は安定した。
戦は起きていない。
成果は目に見える。
夜、第一王子は庭園を歩く。
月光が石畳を照らす。
教会が反対してくれれば、話は違った。
性別を理由に継承を否定すれば、自分に道が残る。
だが教会はそうしなかった。
否定も支持もせず、ただ容認。
それは評価の追認。
彼は立ち止まり、空を見上げる。
「徳……か」
自分に徳がないとは思わない。
慎重であること。
急がぬこと。
守ること。
それも徳だ。
だが王宮は、動く者を徳と呼ぶ。
執務室に戻ると、侍従が報告する。
「軍より、忠誠確認の書状が届いております」
宛先は王太子女。
形式上は王家全体。
だが筆致は明確。
第一王子は微笑を浮かべる。
苦笑ではない。
まだ諦めていない。
「まだ決まっていない」
教会は容認しただけ。
王位は未確定。
退位も正式ではない。
制度は動いていない。
彼は王子だ。
その事実は変わらない。
王宮の灯りが一つ、また一つと消えていく。
教会は道を開いた。
軍は沈黙しない。
民は受け入れ始める。
第一王子は今日も王宮にいる。
そして今日も、まだ終わっていないと信じている。
教会は、滅多に政治に踏み込まない。
踏み込むときは、既に流れが定まっているときだけだ。
王都大聖堂に、各地の司教が集められたのは初夏の終わり。
表向きは年次総会。
だが王宮の者は知っている。
退位示唆の後、教会が沈黙を保っている意味を。
沈黙は中立ではない。
観察だ。
会合は三日に及んだ。
そして最終日、教会は短い声明を出す。
「王統において、性別は継承の妨げとならず」
続く文。
「正統なる血統と、国を治める徳を備えし者が、王位に就くことは教義に反せず」
名は出ない。
だが十分だ。
“女王容認”。
それが広まるまで半日もかからなかった。
王宮の回廊で、若い貴族が囁く。
「これで、障害はない」
「教会が認めた」
第一王子レオンも、その写しを受け取る。
羊皮紙の文字は淡々としている。
否定はない。
だが彼の名もない。
彼はゆっくりと文を読み終え、机に置いた。
「教会は、私を否定していない」
それは事実。
だが支持もしていない。
午後、王太子女ルシアは国王と面会する。
「教会の声明、いかがいたしましょう」
「何もせぬ」
国王は言う。
「容認は追い風だが、命令ではない」
制度は変わらない。
強制もない。
ただ、空気が整う。
夕刻、王宮広場で司教が民に語る。
「徳ある統治こそ、神の望み」
民は拍手する。
誰の名も出ない。
だが民は理解する。
干ばつを乗り切った。
税は安定した。
戦は起きていない。
成果は目に見える。
夜、第一王子は庭園を歩く。
月光が石畳を照らす。
教会が反対してくれれば、話は違った。
性別を理由に継承を否定すれば、自分に道が残る。
だが教会はそうしなかった。
否定も支持もせず、ただ容認。
それは評価の追認。
彼は立ち止まり、空を見上げる。
「徳……か」
自分に徳がないとは思わない。
慎重であること。
急がぬこと。
守ること。
それも徳だ。
だが王宮は、動く者を徳と呼ぶ。
執務室に戻ると、侍従が報告する。
「軍より、忠誠確認の書状が届いております」
宛先は王太子女。
形式上は王家全体。
だが筆致は明確。
第一王子は微笑を浮かべる。
苦笑ではない。
まだ諦めていない。
「まだ決まっていない」
教会は容認しただけ。
王位は未確定。
退位も正式ではない。
制度は動いていない。
彼は王子だ。
その事実は変わらない。
王宮の灯りが一つ、また一つと消えていく。
教会は道を開いた。
軍は沈黙しない。
民は受け入れ始める。
第一王子は今日も王宮にいる。
そして今日も、まだ終わっていないと信じている。
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