『婚約破棄されたので王太子女となります。殿下より上位です』

ふわふわ

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第三十二話 退位の宣言

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第三十二話 退位の宣言

 王宮大広間には、久しく見ぬほどの重臣が集められていた。

 公爵、侯爵、伯爵、司教、軍務卿、宰相。
 誰もが知っている。

 今日は曖昧では終わらない。

 国王はゆっくりと壇上に立つ。

 その背筋はまだ伸びている。

「本日、正式に告げる」

 ざわめきはない。

「わしは年内をもって退位する」

 言葉は明瞭。

 逃げ道はない。

 空気が張り詰める。

 誰も反対しない。

 誰も動かない。

 それが現実。

 国王は続ける。

「王国は安定している。ゆえに今が時だ」

 理由は穏やか。

 敗北でも衰弱でもない。

 移行。

 次の世代へ。

 視線が王太子女ルシアへ向く。

 彼女は一礼する。

「陛下のご決断を、支えます」

 第一王子レオンは立っている。

 顔色は変わらない。

 だが拳はわずかに固い。

 退位は正式。

 これで曖昧さは消えた。

 午後、継承準備委員会が設けられる。

 形式的なもの。

 儀式日程、王冠の整備、各国への通達。

 第一王子も構成員に名を連ねる。

 外されてはいない。

 だが役割は限定的。

 宰相が確認する。

「即位式は三か月後」

 三か月。

 時間はある。

 レオンはそう考える。

 まだ三か月。

 何かが起きるかもしれない。

 会議が終わると、若い貴族が廊下で言う。

「いよいよだな」

「新しい時代だ」

 その言葉に彼の名は含まれない。

 夜、自室でレオンは退位宣言の写しを読む。

 文面は簡潔。

 継承の名は記されていない。

 だが明記する必要はない。

 皆が理解している。

「制度はまだ変わっていない」

 彼は呟く。

 退位は決まった。

 だが即位はまだ。

 王位は空白になるわけではない。

 移る。

 その間に。

 外交問題でも起これば。

 財政が揺らげば。

 王太子女の判断に綻びが出れば。

 自分の出番が来る。

 焦りはある。

 だが希望もある。

 廃嫡はされていない。

 王子のまま。

 部屋も権威もある。

 王宮の灯りが落ちていく。

 王太子女の執務室は、今夜も最後まで灯っている。

 準備は進む。

 誰も急がない。

 だが止まらない。

 第一王子は窓辺に立つ。

 退位は確定した。

 それでも彼は思う。

 ――まだ、間に合う。

 その確信が、最後の支えだった。
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