婚約破棄ですか? では契約通りに――王太子も聖女も教会も、まとめて破綻させていただきます

ふわふわ

文字の大きさ
31 / 33

第三十話 剥奪

しおりを挟む
第三十話 剥奪

 王城の中庭に、冷たい風が吹いていた。

 廃嫡の宣告から三日。

 まだ王族の居住区に留め置かれていたカイルベルトは、ようやく正式な処分を告げられることになった。

 石畳の中央。

 近衛騎士が左右に並ぶ。

 その前に立つのは、元王太子。

 もはや誰も「殿下」とは呼ばない。

 国王の名代として現れた宰相が、淡々と書状を読み上げる。

「王位継承権剥奪に続き、王籍を除籍する」

 ざわり、と空気が揺れる。

 王籍剥奪。

 それは、血筋以外のすべてを失うこと。

「なお、王族称号の使用を禁ずる」

 冷たい声が続く。

「本日をもって、カイルベルトは王家の一員ではない」

 その言葉は、刃より鋭い。

「国外追放とする」

 宣告は簡潔だった。

 弁明の余地はない。

「……父上は、ここまでなさるのか」

 掠れた声。

 宰相は目を伏せる。

「陛下は国を選ばれました」

 それが答え。

 王家は血より国を優先する。

 王太子であった男は、ただ立ち尽くす。

 かつては命令ひとつで道が開いた。

 今は、足元の石さえ冷たい。

「荷は最小限とする。王家の資産持ち出しは禁止」

 近衛が一歩前に出る。

 剣は抜かない。

 だが、明確な線引き。

 カイルベルトは拳を握る。

「俺は……王家の血だぞ」

「血は残ります」

 宰相は静かに言う。

「ですが、地位は残りません」

 王籍を失うとは、そういうこと。

 王城の門が開く。

 外には馬車が一台。

 飾りはない。

 旗もない。

 ただの移送車。

 見送りは、いない。

 公爵邸。

「王籍剥奪と国外追放が決まりました」

 アーヴィンが報告する。

 私は頷く。

「王は、国を選ばれましたのね」

「はい」

 紅茶の湯気がゆらりと揺れる。

 私は静かに窓の外を見る。

 かつて王太子と並んで歩いた庭園。

 今は穏やかだ。

 ざまぁとは、怒号ではない。

 淡々とした結果。

 王位。  称号。  財産。  未来。

 ひとつずつ剥がれ落ちた。

 残るのは、選択の責任だけ。

 王城の外。

 馬車の扉が閉まる。

 カイルベルトは最後に振り返る。

 高い塔。

 玉座の間。

 自分のものだったはずの場所。

 今は、遠い。

 馬車が動く。

 砂煙が上がる。

 それが、王子の終わり。

 国境へ向かう道は長い。

 誰も呼び止めない。

 誰も泣かない。

 王籍を失った男は、ただの一人の追放者。

 かつて叫んだ言葉が、頭をよぎる。

「俺は悪くない」

 だがその言葉を聞く者は、もういない。

 王家の紋章は、彼の背から消えた。

 ざまぁは、静かに完成へと近づいていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...