婚約破棄ですか? では契約通りに――王太子も聖女も教会も、まとめて破綻させていただきます

ふわふわ

文字の大きさ
30 / 33

第二十九話 廃嫡決定

しおりを挟む
第二十九話 廃嫡決定

 王城の大広間。

 重い空気が、天井の高みまで張りつめていた。

 国王の玉座の前には、主要貴族と重臣が並ぶ。

 その中央に立つのは――王太子カイルベルト。

 かつては祝福の視線を浴びたその場所で、今は静かな断罪の視線を受けている。

「本日の議題は明白である」

 国王の声は、低く、揺るがない。

「王太子による国庫の無断使用、教会との癒着、そして婚約破棄に端を発した混乱」

 ざわめきはない。

 すでに結論は共有されている。

「弁明はあるか」

 カイルベルトは顔を上げる。

「……私は、国の威信を高めるために動いたのです」

 声は以前より小さい。

「聖女は希望でした。民は奇跡を求めていた」

「奇跡は虚偽だった」

 重臣のひとりが静かに言う。

「司祭は横領を行い、聖女は仕込みをしていた」

「私は騙されたのです!」

 言葉が跳ねる。

「王太子が“騙された”で済むのか」

 別の声。

「確認を怠った責任は誰が負う」

 沈黙。

「婚約破棄の宣言も、軽率であった」

 国王が続ける。

「公爵家との契約を破棄した結果、支援は止まり、物流は鈍り、民は苦しんだ」

 その事実は否定できない。

 港の停滞。  施療院の混乱。  市場の不満。

 すべては連鎖した。

「私は王太子です!」

 最後の叫び。

「そうだ」

 国王は頷く。

「王太子であるからこそ、責任は重い」

 言葉が落ちる。

 重臣たちが一斉に頭を下げる。

「陛下、決断を」

 静かな合意。

 国王は立ち上がる。

「王太子カイルベルト」

 名を呼ばれた瞬間、広間の空気が凍る。

「本日をもって、お前を王太子の位より解く」

 息を呑む音。

「……な」

「王位継承権を剥奪する」

 廃嫡。

 その二文字が、現実となる。

「待ってください! 父上!」

 カイルベルトは前へ出る。

「私は王家の血を引く!」

「血は免罪符ではない」

 冷ややかな言葉。

「国は遊びではない」

 沈黙。

 誰も彼を支えない。

 かつて取り巻いていた貴族たちは、視線を逸らしている。

 王太子の座は、空席となった。

 その瞬間。

 カイルベルトは理解する。

 怒りも、弁明も、もう意味を持たない。

 廃嫡された王子。

 それは、ただの貴族未満。

 王家の庇護を失った者。

 広間の扉が開き、近衛が控える。

 形式的な護衛ではない。

 監視だ。

「処分の詳細は後日通達する」

 国王の声が締めくくる。

「以上だ」

 玉座の間に重い沈黙が落ちる。

 公爵邸。

「廃嫡が正式決定しました」

 アーヴィンが報告する。

 私は紅茶を置いた。

「予定通りですわね」

「救済の動きはありません」

「当然です」

 王太子を守る理由は、もう誰にもない。

 婚約破棄の宣言。

 それが最初の引き金。

 奇跡に縋り。  契約を軽んじ。  責任を他者に押し付けた。

 そして今。

 王位は遠のいた。

 夜。

 城の一室。

 カイルベルトは窓の外を見つめる。

 かつて自分の未来だと思っていた王城の塔。

 今はただの石の塊。

 誰も訪れない。

 怒鳴っても、命じても、戻らない。

 王太子ではない。

 ただの、失脚した王子。

 その名は、歴史に残るだろう。

 愚かさの象徴として。

 ざまぁは、もう終盤。

 次に剥がれるのは、王籍そのもの。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...