婚約破棄ですか? では契約通りに――王太子も聖女も教会も、まとめて破綻させていただきます

ふわふわ

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第二十八話 王太子激昂

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第二十八話 王太子激昂

 王城の執務室。

 重厚な机の上には、断罪報告書が積み上げられている。

 聖女拘束。  司祭断罪。  義妹教育停止。

 そのすべてに、ひとつの名が繋がっている。

 ――王太子カイルベルト。

「……ふざけるな」

 低い声。

 次の瞬間、机が叩かれる。

「俺は悪くない!」

 書面が床に散る。

 側近たちは視線を伏せたまま動かない。

「奇跡を信じたのは俺だけではない! 司祭が嘘をついたのだ!」

 怒鳴り声が壁に反響する。

「ミリアも被害者だ! エレシアが裏で糸を引いているに決まっている!」

 だが、誰も同意しない。

 沈黙。

「何か言え!」

 側近のひとりが、慎重に口を開く。

「殿下……供給停止は、契約終了によるものでございます」

「だから何だ!」

「婚約破棄を宣言なさったのは……殿下でございます」

 言葉が、空気を裂く。

 カイルベルトの顔が赤く染まる。

「俺は王太子だぞ!」

「はい」

 短い返答。

「ですが、国庫の使用は国王陛下の承認が必要です」

 怒りが一瞬で凍る。

 現実。

 王太子であっても、王ではない。

「……俺を責めるのか」

「事実を申し上げております」

 重い沈黙。

 その頃。

 王城の廊下では、貴族たちが小声で話していた。

「廃嫡は時間の問題だ」 「陛下は決断なさるだろう」 「次期後継はどうなる」

 王太子の耳にも、その噂は届いている。

 夜。

 カイルベルトは酒杯を握りしめていた。

「俺は国のために動いた……」

 聖女を希望に据え。  奇跡祭を開き。  王家の威信を高めようとした。

 だが結果は、崩壊。

 扉が開く。

 国王が入室する。

「父上」

 その声に、かすかな期待が混じる。

「お前の言い分を聞こう」

 重い言葉。

「俺は騙されたのです!」

 即答。

「司祭が、聖女が、嘘をついた!」

「確認はしたか」

「……信じていた」

「国は信仰で回るのか」

 沈黙。

「国は契約と責任で回る」

 その言葉は、重い。

「お前は婚約破棄を公に宣言した」

「それは当然の判断でした!」

「結果は?」

 問いは簡潔。

 だが答えはない。

 奇跡は虚偽。  教会は断罪。  国庫は揺らぎ。  貴族は離反。

 王太子は歯を食いしばる。

「俺は悪くない……」

 その声は、先ほどより小さい。

 国王は静かに告げる。

「王は、結果で責任を負う」

 それだけ言って、背を向ける。

 扉が閉まる音が、重く響く。

 カイルベルトは一人残される。

 怒りは、虚しく空回りする。

 誰も守らない。  誰も庇わない。

 怒鳴れば従う時代は終わった。

 公爵邸。

「殿下は激昂なさったようです」

 アーヴィンが報告する。

「当然ですわね」

 私は淡く微笑む。

「怒りは、最後の防壁」

「防壁?」

「崩れる前に、人は叫びます」

 王太子はまだ理解していない。

 責任は、信じたかどうかではない。

 選んだかどうか。

 そして宣言したかどうか。

 舞踏会での一言。

 “婚約破棄だ”。

 あの瞬間から、契約は切れた。

 供給は止まり。  奇跡は消え。  支えは崩れた。

 王太子殿下。

 あなたは叫びます。

 「俺は悪くない」と。

 ですが王位は、叫ぶ者に与えられるものではございません。

 次に響くのは、あなたの怒声ではなく。

 決定の宣告でございます。
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