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第6話 遠距離の始まりと、春の別れ
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第6話 遠距離の始まりと、春の別れ
3月、桜のつぼみが少しずつ膨らみ始める頃。
悠人の受験が、ようやく終わった。
共通テストは手応えがあり、私大の個別試験も一つずつクリア。第一志望の大学の合格発表の日、朝からあかりは授業に集中できなかった。スマホを握りしめて、休み時間に何度も画面を確認する。
昼休み、ようやくLINEが来た。
【合格した!! 第一志望の文学部!! 本当に信じられない……】
【おめでとう!! 本当に本当におめでとう!! すごいよ、悠人くん!! 頑張ったね!!】
あかりは教室の隅で小さくガッツポーズをし、涙がにじんだ。親友の美咲が「どうしたの? なんか泣きそうじゃん」と心配そうに声をかけてきたけど、「いいことあっただけ!」と笑ってごまかした。美咲にはまだ悠人のことを話していなかったけど、この喜びは誰かに伝えたくて仕方なかった。
その週末、二人は「モカ」で合格祝いをした。
あかりは少し早めに入店し、いつもの窓際の席を確保。ホットココアを注文して待つ。心臓がまだドキドキしていた。
悠人は少し遅れて現れた。やつれた顔に薄いクマができていたけど、笑顔が輝いていた。コートを脱いで席に座ると、すぐに手を握ってきた。
「本当に終わった……夢みたいだよ。あかりちゃんのおかげ」
「ううん、悠人くんが頑張ったんだよ。本当にお疲れ様」
あかりは用意していた小さなプレゼントを渡した。本型のキーホルダーで、中に『星の王子さま』の有名な一節を刻印したもの。
「かけがえのないものにするのは、費やした時間だ」
悠人はそれを見て、目を細めて優しく笑った。
「……ありがとう。一生大事にするよ。ポケットに入れて、大学に持ってく」
二人はいつもの注文をして、長く話した。
大学生活の想像、フランス文学の授業のこと、文芸サークルに入りたいこと、図書館の広さ、キャンパスの桜並木。
「入学式、桜の時期に合わせてあるんだって。満開の中で式やるらしいよ」
「いいなあ……写真、送ってね」
話題が未来になるたび、あかりの胸に小さな影が差す。
悠人は4月から大学生。あかりはまだ高校3年生。受験生になる。
物理的な距離だけでなく、生活のリズムも、友達の輪も、すべてが変わる。
「最初はオリエンテーションとかで忙しいと思うけど、落ち着いたらキャンパス案内するよ」
「……うん、楽しみ」
あかりが少し声を落とすと、悠人は気づいて手を強く握った。
「寂しくなるよね、俺も。でも、絶対会おう。週末は時間が取れるはずだし、LINEも電話も毎日するよ」
「私も、頑張る。受験生になるから勉強ばっかりだけど……悠人くんの大学、目指すから」
二人は笑顔を作ったけど、心のどこかで、変化の予感を感じていた。
桜が満開になった4月上旬。
悠人の入学式の日、二人は最後に「モカ」で会った。
外は春の陽射しが優しく、店内の窓から桜の花びらが舞い込むのが見えた。
悠人は新しい大学のジャケットを羽織って、少し大人っぽく見えた。髪も少し短く切って、爽やかだった。
「あかりちゃん、制服姿、最後かもね……可愛いよ」
「ばか……悠人くんこそ、大学生みたい」
二人はいつもの席で、ココアとコーヒーを飲んだ。
「明日から、一人暮らしのアパートに引っ越すんだ」
「え、もう?」
「うん、キャンパス近くのワンルーム。最初は不安だけど、楽しみでもある」
あかりは頷きながら、胸の奥が少し痛んだ。
店を出て、駅に向かう道。
桜の並木道を、並んで歩く。花びらがひらひらと舞い落ちて、肩に止まる。
悠人が立ち止まった。
「あかりちゃん」
「うん?」
「これから、少し離れちゃうけど……俺の気持ちは絶対変わらないよ。毎日会えなくても、あかりちゃんが一番だって、ずっと」
あかりの目が熱くなった。涙がこぼれそうになるのを堪えて。
「私も……絶対、変わらない。悠人くんのこと、ずっと好きだよ」
悠人はあかりを抱き寄せて、優しくキスをした。
初めての、深いキス。唇が触れ合い、温もりが伝わる。
桜の香りと、春の風に包まれて。少し長く、離れがたく。
周りの人なんて気にならなかった。
離れて、目を見つめ合う。
「大学行ったら、新しい友達もできるし、忙しくなるけど……あかりちゃんのこと、毎日思うよ」
「うん……信じてる。私も、受験頑張るから」
改札の前で、別れた。
悠人が電車に乗って去っていくのを、あかりは手を振って見送った。
振り返る悠人の笑顔が、最後に見えた。窓から手を振り返して。
電車が遠ざかるまで、見えなくなるまで。
あかりは一人、桜の道を家に向かって歩いた。
花びらが足元に積もる。
――遠距離の始まり。
少し寂しいけど、この気持ちがあれば、大丈夫。
首元の星のネックレスに触れて、深呼吸。
家に帰って、机に向かう。
高校3年生の教科書と、大学受験の参考書を広げて。
来年、自分もあのキャンパスへ。
悠人くんの隣に立つために。
受験勉強のスケジュールを立てながら、LINEを開いた。
【今日は入学式、おめでとう。新しいスタート、がんばってね】
【ありがとう。あかりちゃんも、受験がんばろう。一緒にファイト】
【うん! 絶対合格するよ】
桜の写真を添付して、送信。
窓の外、満開の桜が風に揺れていた。
少しの別れの予感を胸に、新しい季節が始まる。
3月、桜のつぼみが少しずつ膨らみ始める頃。
悠人の受験が、ようやく終わった。
共通テストは手応えがあり、私大の個別試験も一つずつクリア。第一志望の大学の合格発表の日、朝からあかりは授業に集中できなかった。スマホを握りしめて、休み時間に何度も画面を確認する。
昼休み、ようやくLINEが来た。
【合格した!! 第一志望の文学部!! 本当に信じられない……】
【おめでとう!! 本当に本当におめでとう!! すごいよ、悠人くん!! 頑張ったね!!】
あかりは教室の隅で小さくガッツポーズをし、涙がにじんだ。親友の美咲が「どうしたの? なんか泣きそうじゃん」と心配そうに声をかけてきたけど、「いいことあっただけ!」と笑ってごまかした。美咲にはまだ悠人のことを話していなかったけど、この喜びは誰かに伝えたくて仕方なかった。
その週末、二人は「モカ」で合格祝いをした。
あかりは少し早めに入店し、いつもの窓際の席を確保。ホットココアを注文して待つ。心臓がまだドキドキしていた。
悠人は少し遅れて現れた。やつれた顔に薄いクマができていたけど、笑顔が輝いていた。コートを脱いで席に座ると、すぐに手を握ってきた。
「本当に終わった……夢みたいだよ。あかりちゃんのおかげ」
「ううん、悠人くんが頑張ったんだよ。本当にお疲れ様」
あかりは用意していた小さなプレゼントを渡した。本型のキーホルダーで、中に『星の王子さま』の有名な一節を刻印したもの。
「かけがえのないものにするのは、費やした時間だ」
悠人はそれを見て、目を細めて優しく笑った。
「……ありがとう。一生大事にするよ。ポケットに入れて、大学に持ってく」
二人はいつもの注文をして、長く話した。
大学生活の想像、フランス文学の授業のこと、文芸サークルに入りたいこと、図書館の広さ、キャンパスの桜並木。
「入学式、桜の時期に合わせてあるんだって。満開の中で式やるらしいよ」
「いいなあ……写真、送ってね」
話題が未来になるたび、あかりの胸に小さな影が差す。
悠人は4月から大学生。あかりはまだ高校3年生。受験生になる。
物理的な距離だけでなく、生活のリズムも、友達の輪も、すべてが変わる。
「最初はオリエンテーションとかで忙しいと思うけど、落ち着いたらキャンパス案内するよ」
「……うん、楽しみ」
あかりが少し声を落とすと、悠人は気づいて手を強く握った。
「寂しくなるよね、俺も。でも、絶対会おう。週末は時間が取れるはずだし、LINEも電話も毎日するよ」
「私も、頑張る。受験生になるから勉強ばっかりだけど……悠人くんの大学、目指すから」
二人は笑顔を作ったけど、心のどこかで、変化の予感を感じていた。
桜が満開になった4月上旬。
悠人の入学式の日、二人は最後に「モカ」で会った。
外は春の陽射しが優しく、店内の窓から桜の花びらが舞い込むのが見えた。
悠人は新しい大学のジャケットを羽織って、少し大人っぽく見えた。髪も少し短く切って、爽やかだった。
「あかりちゃん、制服姿、最後かもね……可愛いよ」
「ばか……悠人くんこそ、大学生みたい」
二人はいつもの席で、ココアとコーヒーを飲んだ。
「明日から、一人暮らしのアパートに引っ越すんだ」
「え、もう?」
「うん、キャンパス近くのワンルーム。最初は不安だけど、楽しみでもある」
あかりは頷きながら、胸の奥が少し痛んだ。
店を出て、駅に向かう道。
桜の並木道を、並んで歩く。花びらがひらひらと舞い落ちて、肩に止まる。
悠人が立ち止まった。
「あかりちゃん」
「うん?」
「これから、少し離れちゃうけど……俺の気持ちは絶対変わらないよ。毎日会えなくても、あかりちゃんが一番だって、ずっと」
あかりの目が熱くなった。涙がこぼれそうになるのを堪えて。
「私も……絶対、変わらない。悠人くんのこと、ずっと好きだよ」
悠人はあかりを抱き寄せて、優しくキスをした。
初めての、深いキス。唇が触れ合い、温もりが伝わる。
桜の香りと、春の風に包まれて。少し長く、離れがたく。
周りの人なんて気にならなかった。
離れて、目を見つめ合う。
「大学行ったら、新しい友達もできるし、忙しくなるけど……あかりちゃんのこと、毎日思うよ」
「うん……信じてる。私も、受験頑張るから」
改札の前で、別れた。
悠人が電車に乗って去っていくのを、あかりは手を振って見送った。
振り返る悠人の笑顔が、最後に見えた。窓から手を振り返して。
電車が遠ざかるまで、見えなくなるまで。
あかりは一人、桜の道を家に向かって歩いた。
花びらが足元に積もる。
――遠距離の始まり。
少し寂しいけど、この気持ちがあれば、大丈夫。
首元の星のネックレスに触れて、深呼吸。
家に帰って、机に向かう。
高校3年生の教科書と、大学受験の参考書を広げて。
来年、自分もあのキャンパスへ。
悠人くんの隣に立つために。
受験勉強のスケジュールを立てながら、LINEを開いた。
【今日は入学式、おめでとう。新しいスタート、がんばってね】
【ありがとう。あかりちゃんも、受験がんばろう。一緒にファイト】
【うん! 絶対合格するよ】
桜の写真を添付して、送信。
窓の外、満開の桜が風に揺れていた。
少しの別れの予感を胸に、新しい季節が始まる。
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