17 / 30
第17話 私にできることは?
しおりを挟む
第17話 私にできることは?
アルフェッタは、庭と屋内をつなぐ回廊の途中で足を止めた。
外は明るい。
風が通り、木々が静かに揺れている。
一方、屋内は落ち着いた空気で、時間がゆっくり流れている。
(……どちらも、心地いいですわね)
そう思えたこと自体が、少し不思議だった。
前世では、「どちらか」しか選べなかった。
仕事か休みか。
動くか止まるか。
曖昧な場所は、許されなかった。
だが今は、回廊という中間に立っている。
外でも中でもない。
そして、それが悪くない。
(私にできること……)
昨日、はっきりと認めた。
前世知識で世界を変えるような力は、自分にはない。
革命も、技術も、経済も。
それらを語れるほどの知識はなかった。
(でも)
アルフェッタは、回廊の窓から庭を見下ろす。
芝生に置かれた椅子。
木陰。
焚き火台。
どれも、元からあったものだ。
彼女が作ったわけではない。
けれど――
(使い方を、変えましたわね)
誰も使っていなかった場所を、使う。
特別にしなかったものを、日常にする。
それだけで、世界の印象は変わった。
アルフェッタは歩き出し、昨日作った読書部屋へ向かう。
扉を開けると、静かな空気が迎えてくれた。
本棚。
低い椅子。
光の入り方。
どれも、完璧ではない。
だが、落ち着く。
(ここで、何かを“しなければ”と思わない)
それが、何より大切だった。
椅子に腰を下ろし、しばらく何もせずにいる。
本を取るわけでもなく、考え事をするわけでもない。
ただ、そこにいる。
(……ああ)
(これですわ)
唐突に、腑に落ちた。
自分にできることは、
何かを生み出すことでも、
何かを教えることでもない。
(“落ち着ける場所”を、作ること)
それも、大掛かりなものではない。
豪華である必要もない。
気合を入れなくていい。
評価されなくていい。
成果を求められない。
そんな場所。
アルフェッタは、庭のベンチを思い出す。
焚き火の前で、何も考えずに過ごした時間。
川辺で釣り糸を垂らした午後。
(あの時間)
(あれは、才能ではありませんわ)
けれど、
誰にでもできることでもない。
忙しさに慣れた人ほど、
「何もしない」を許せない。
(私は、それを許せますわね)
前世で疲れ切ったからこそ。
頑張りすぎたからこそ。
アルフェッタは、くすりと笑った。
「……ずいぶん、遠回りしましたわね」
だが、無駄ではない。
もし前世で順風満帆だったら、
ここまで「余白」の価値は分からなかっただろう。
(私ができるのは)
(楽しいと思える場所を、ただ置いておくこと)
誰かが使ってもいい。
使わなくてもいい。
来てもいいし、来なくてもいい。
その自由さこそが、
一番の価値だ。
アルフェッタは立ち上がり、庭へ出た。
風が、髪を揺らす。
芝生に腰を下ろし、空を見る。
(……これ、商売向きではありませんわね)
売り物にすると、途端に縛られる。
成果を求められ、回転率を問われる。
(でも)
(趣味なら、できますわ)
自分のために。
楽しむために。
それが、誰かの役に立つなら、なおいい。
立たなくても、構わない。
アルフェッタは、ゆっくりと息を吐いた。
胸の奥に、静かな確信がある。
(私は、何かを“成す”必要はありませんの)
(ただ、“在る”だけでいい)
その在り方が、
誰かの呼吸を楽にするかもしれない。
異世界転生生活十七日目。
アルフェッタは今日も、何も始めていない。
けれど確かに――
自分にできることの輪郭を、はっきりと掴んだ。
それは、
これから始まる「マンガ喫茶」という遊びの、
静かな土台になっていく。
アルフェッタは、庭と屋内をつなぐ回廊の途中で足を止めた。
外は明るい。
風が通り、木々が静かに揺れている。
一方、屋内は落ち着いた空気で、時間がゆっくり流れている。
(……どちらも、心地いいですわね)
そう思えたこと自体が、少し不思議だった。
前世では、「どちらか」しか選べなかった。
仕事か休みか。
動くか止まるか。
曖昧な場所は、許されなかった。
だが今は、回廊という中間に立っている。
外でも中でもない。
そして、それが悪くない。
(私にできること……)
昨日、はっきりと認めた。
前世知識で世界を変えるような力は、自分にはない。
革命も、技術も、経済も。
それらを語れるほどの知識はなかった。
(でも)
アルフェッタは、回廊の窓から庭を見下ろす。
芝生に置かれた椅子。
木陰。
焚き火台。
どれも、元からあったものだ。
彼女が作ったわけではない。
けれど――
(使い方を、変えましたわね)
誰も使っていなかった場所を、使う。
特別にしなかったものを、日常にする。
それだけで、世界の印象は変わった。
アルフェッタは歩き出し、昨日作った読書部屋へ向かう。
扉を開けると、静かな空気が迎えてくれた。
本棚。
低い椅子。
光の入り方。
どれも、完璧ではない。
だが、落ち着く。
(ここで、何かを“しなければ”と思わない)
それが、何より大切だった。
椅子に腰を下ろし、しばらく何もせずにいる。
本を取るわけでもなく、考え事をするわけでもない。
ただ、そこにいる。
(……ああ)
(これですわ)
唐突に、腑に落ちた。
自分にできることは、
何かを生み出すことでも、
何かを教えることでもない。
(“落ち着ける場所”を、作ること)
それも、大掛かりなものではない。
豪華である必要もない。
気合を入れなくていい。
評価されなくていい。
成果を求められない。
そんな場所。
アルフェッタは、庭のベンチを思い出す。
焚き火の前で、何も考えずに過ごした時間。
川辺で釣り糸を垂らした午後。
(あの時間)
(あれは、才能ではありませんわ)
けれど、
誰にでもできることでもない。
忙しさに慣れた人ほど、
「何もしない」を許せない。
(私は、それを許せますわね)
前世で疲れ切ったからこそ。
頑張りすぎたからこそ。
アルフェッタは、くすりと笑った。
「……ずいぶん、遠回りしましたわね」
だが、無駄ではない。
もし前世で順風満帆だったら、
ここまで「余白」の価値は分からなかっただろう。
(私ができるのは)
(楽しいと思える場所を、ただ置いておくこと)
誰かが使ってもいい。
使わなくてもいい。
来てもいいし、来なくてもいい。
その自由さこそが、
一番の価値だ。
アルフェッタは立ち上がり、庭へ出た。
風が、髪を揺らす。
芝生に腰を下ろし、空を見る。
(……これ、商売向きではありませんわね)
売り物にすると、途端に縛られる。
成果を求められ、回転率を問われる。
(でも)
(趣味なら、できますわ)
自分のために。
楽しむために。
それが、誰かの役に立つなら、なおいい。
立たなくても、構わない。
アルフェッタは、ゆっくりと息を吐いた。
胸の奥に、静かな確信がある。
(私は、何かを“成す”必要はありませんの)
(ただ、“在る”だけでいい)
その在り方が、
誰かの呼吸を楽にするかもしれない。
異世界転生生活十七日目。
アルフェッタは今日も、何も始めていない。
けれど確かに――
自分にできることの輪郭を、はっきりと掴んだ。
それは、
これから始まる「マンガ喫茶」という遊びの、
静かな土台になっていく。
0
あなたにおすすめの小説
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない
ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。
公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。
旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。
そんな私は旦那様に感謝しています。
無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。
そんな二人の日常を書いてみました。
お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m
無事完結しました!
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
旦那様、政略結婚ですので離婚しましょう
おてんば松尾
恋愛
王命により政略結婚したアイリス。
本来ならば皆に祝福され幸せの絶頂を味わっているはずなのにそうはならなかった。
初夜の場で夫の公爵であるスノウに「今日は疲れただろう。もう少し互いの事を知って、納得した上で夫婦として閨を共にするべきだ」と言われ寝室に一人残されてしまった。
翌日から夫は仕事で屋敷には帰ってこなくなり使用人たちには冷たく扱われてしまうアイリス……
(※この物語はフィクションです。実在の人物や事件とは関係ありません。)
巻き込まれて婚約破棄になった私は静かに舞台を去ったはずが、隣国の王太子に溺愛されてしまった!
ユウ
恋愛
伯爵令嬢ジゼルはある騒動に巻き込まれとばっちりに合いそうな下級生を庇って大怪我を負ってしまう。
学園内での大事件となり、体に傷を負った事で婚約者にも捨てられ、学園にも居場所がなくなった事で悲しみに暮れる…。
「好都合だわ。これでお役御免だわ」
――…はずもなかった。
婚約者は他の女性にお熱で、死にかけた婚約者に一切の関心もなく、学園では派閥争いをしており正直どうでも良かった。
大切なのは兄と伯爵家だった。
何かも失ったジゼルだったが隣国の王太子殿下に何故か好意をもたれてしまい波紋を呼んでしまうのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる