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第5話 試験直前の嵐と、秘めたる決意
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第5話 試験直前の嵐と、秘めたる決意
婚約破棄から三週間が過ぎ、王立魔導アカデミーの入学試験まで残りわずか一週間となっていた。
エルドリア公爵邸の訓練場は、朝から晩までアリーナの魔法の音が響いていた。
「アクア・ランス!」
鋭く研ぎ澄まされた水の槍が、空中を切り裂いて的に突き刺さる。
的は木製から鉄製に変わり、それでも一撃で貫通する威力だ。
「イグニス・ボール!」
次は炎の玉。
手のひらサイズの火球が、連続で五つ放たれ、すべてが的の中心を焦がす。
汗が銀色の髪を濡らし、息が上がる。
それでも、アリーナは止まらない。
魔導書の力は日ごとに馴染み、制御が上手くなっていた。
最初は暴走しそうだった魔力が、今では自分の手足のように動く。
「ふう……」
一息ついて、訓練場のベンチに座る。
エマがタオルと水を持って駆け寄ってきた。
「お嬢様、もう三時間になります。少しお休みください」
「ありがとう、エマ。もう少しだけ」
アリーナは水を飲みながら、空を見上げた。
青い空に、白い雲がゆっくりと流れている。
平和な景色なのに、心の中はざわついていた。
試験が近づくにつれ、王都の噂はさらに過熱していた。
『エルドリア家の令嬢、アカデミーを受けるらしいわ』
『魔法の才能がないのに、無理よ』
『落ちたら、完全に笑いものね』
ミランの手によるものだと、すぐにわかった。
ミランは王宮の力を背景に、サロンを回り、アリーナの悪口を巧妙に広めていた。
「可哀想だけど、殿下の決定は正しかったわ。アリーナ様は本当に退屈で……」
そんな言葉が、貴族令嬢たちの口から口へ伝わり、アリーナを孤立させていく。
屋敷に届く手紙も、減っていた。
かつての友人たちからの茶会招待は、ぴたりと止まった。
アリーナは、それでも笑顔を保っていた。
家族の前では、弱さを見せない。
だが、夜一人になると、胸が痛む。
「……私、本当にやれるのかな」
魔導書のページをめくる手が、止まる。
祖母の書き込みが、また目に入った。
『力は、孤独を招くこともある。
それでも、信じる道を進め』
アリーナは本を閉じ、立ち上がった。
「やれる。やるしかない」
その日、父から呼び出しがあった。
書斎に入ると、父だけでなく、兄のエリオットもいた。
「アリーナ、座れ」
父の表情は、いつもより厳しい。
「試験の件で、話がある」
アリーナの心臓が、どきりと鳴った。
「もしかして……推薦状が、無効に?」
父は首を振った。
「いや、それはない。
だが、王宮から圧力がかかっているらしい」
エリオットが、怒りを抑えた声で続けた。
「レコルトの奴……いや、王太子殿下が、アカデミーの理事会に口を利いたらしい。
『エルドリア家の令嬢の試験は、厳正に審査せよ』って」
アリーナは息を呑んだ。
厳正に――つまり、甘く見てくれるな、ということ。
普通の受験生なら、貴族の推薦で多少の加点がある。
だが、アリーナにはそれがない。
むしろ、厳しく見られる。
「ミランの入れ知恵だな」
エリオットが拳を握った。
「平民の娘が、こんなに王宮を動かせるなんて……あいつ、何か裏がある」
父が静かに言った。
「噂では、ミランは隣国の貴族と繋がりがあるらしい。
レコルト殿下を操って、王国を不安定にしたいのかもしれん」
アリーナの目が見開かれた。
「そんな……」
「証拠はない。
だが、気をつけろ。
試験当日、何か妨害があるかもしれない」
アリーナは、ゆっくりと頷いた。
「……わかりました。
それでも、私は試験を受けます」
父が、少し微笑んだ。
「それでいい。
エルドリア家の娘は、逃げない」
その夜、アリーナは屋敷の屋上に出た。
星空の下、魔導書を開く。
これまで避けていたページ――中級魔法の領域。
「試験で、どこまで見せよう」
魔力の量は圧倒的だが、制御が完璧でないと暴走の危険がある。
だが、圧力がかかっている今、普通の成績では合格できないかもしれない。
「……少し、冒険しよう」
アリーナは、魔導書が示す新しい魔法陣に指を置いた。
「ウィンド・ストーム」
周囲の風が、急に強くなった。
髪がなびき、ドレスがはためく。
小さな竜巻が、アリーナの周囲に発生する。
制御が難しい。
風が暴れ、屋上の柵を揺らす。
「落ち着いて……私の意志で」
アリーナは目を閉じ、魔力を絞る。
竜巻が徐々に小さくなり、完璧な円を描いて回る。
「……できた」
開けた目には、自信が宿っていた。
この魔法なら、試験で目立てる。
だが、禁断の力だとバレないよう、注意が必要だ。
翌日、さらなる妨害が来た。
屋敷に、一通の手紙が届いた。
差出人は、匿名。
『アリーナ・フォン・エルドリア様
試験を受けるのはおやめなさい。
落ちた姿を、王都中に見せたくないでしょう?
レコルト殿下も、悲しむわ』
明らかに、ミランの筆跡を模したもの。
エマが怒って破り捨てようとしたが、アリーナは止めた。
「残しておいて。
証拠になるかもしれない」
アリーナは手紙を机に置き、魔導書を開いた。
妨害があればあるほど、燃えてくる。
「……ミランさん、あなたの思惑通りにはさせない」
試験まで残り三日。
アリーナは、家族と相談し、最終調整に入った。
兄のエリオットが、模擬試験官役を買って出た。
訓練場で、エリオットが剣を構える。
「来い、アリーナ。
本気でかかってこい」
アリーナは頷き、魔法を構えた。
「アクア・シールド!」
水の膜が体を覆う。
エリオットの剣撃を、完璧に防ぐ。
「イグニス・アロー!」
炎の矢が、エリオットの剣に絡みつく。
エリオットが笑った。
「やるな! 昔のお前じゃ、こんなの無理だった」
二人は何度もスパーリングを繰り返した。
夕方、汗だくで休憩していると、母が弁当を持って来た。
「二人とも、すごはどはどね」
家族四人で、訓練場のベンチに座って食事をした。
久しぶりの、穏やかな時間。
母が優しく言った。
「アリーナ、あなたが変わったわ。
強くなった」
父が頷く。
「試験、自信はあるか?」
アリーナは、家族を見回した。
「うん。
絶対、合格する」
エリオットが頭を撫でてくれた。
「落ちたら、俺が王宮に乗り込むぞ」
みんなが笑った。
夜、アリーナは最後の確認をした。
魔導書に、新たな書き込みを加える。
『私、アリーナ・フォン・エルドリアは、
自分の力で道を切り開くことを誓う。
誰にも、負けない』
試験前日。
王都は、試験の話題で持ちきりだった。
『エルドリア家の令嬢、落ちるらしいわ』
『王太子殿下も、期待していないって』
そんな噂が飛び交う中、アリーナは静かに荷物をまとめた。
制服用のローブ、筆記用具、そして――魔導書は、絶対に持って行かない。
力は、もう自分のものだ。
馬車でアカデミーに向かう朝。
家族が見送りに出た。
父が言った。
「行ってこい。アリーナ」
母が抱きしめた。
「頑張ってね」
エリオットが、照れくさそうに言った。
「合格したら、祝いの酒を飲もう」
アリーナは馬車に乗り、窓から手を振った。
王都の門をくぐり、アカデミーの高い塔が見えてくる。
そこに、どんな試練が待っているか。
ミランやレコルトの妨害が、あるか。
でも、もう怖くない。
私は、変わった。
試験会場に、数百人の受験生。
その中に、アリーナの姿があった。
試験官の声が響く。
「では、王立魔導アカデミー入学試験、開始!」
アリーナの瞳に、強い光が宿った。
ここから、本当の反撃が始まる。
婚約破棄から三週間が過ぎ、王立魔導アカデミーの入学試験まで残りわずか一週間となっていた。
エルドリア公爵邸の訓練場は、朝から晩までアリーナの魔法の音が響いていた。
「アクア・ランス!」
鋭く研ぎ澄まされた水の槍が、空中を切り裂いて的に突き刺さる。
的は木製から鉄製に変わり、それでも一撃で貫通する威力だ。
「イグニス・ボール!」
次は炎の玉。
手のひらサイズの火球が、連続で五つ放たれ、すべてが的の中心を焦がす。
汗が銀色の髪を濡らし、息が上がる。
それでも、アリーナは止まらない。
魔導書の力は日ごとに馴染み、制御が上手くなっていた。
最初は暴走しそうだった魔力が、今では自分の手足のように動く。
「ふう……」
一息ついて、訓練場のベンチに座る。
エマがタオルと水を持って駆け寄ってきた。
「お嬢様、もう三時間になります。少しお休みください」
「ありがとう、エマ。もう少しだけ」
アリーナは水を飲みながら、空を見上げた。
青い空に、白い雲がゆっくりと流れている。
平和な景色なのに、心の中はざわついていた。
試験が近づくにつれ、王都の噂はさらに過熱していた。
『エルドリア家の令嬢、アカデミーを受けるらしいわ』
『魔法の才能がないのに、無理よ』
『落ちたら、完全に笑いものね』
ミランの手によるものだと、すぐにわかった。
ミランは王宮の力を背景に、サロンを回り、アリーナの悪口を巧妙に広めていた。
「可哀想だけど、殿下の決定は正しかったわ。アリーナ様は本当に退屈で……」
そんな言葉が、貴族令嬢たちの口から口へ伝わり、アリーナを孤立させていく。
屋敷に届く手紙も、減っていた。
かつての友人たちからの茶会招待は、ぴたりと止まった。
アリーナは、それでも笑顔を保っていた。
家族の前では、弱さを見せない。
だが、夜一人になると、胸が痛む。
「……私、本当にやれるのかな」
魔導書のページをめくる手が、止まる。
祖母の書き込みが、また目に入った。
『力は、孤独を招くこともある。
それでも、信じる道を進め』
アリーナは本を閉じ、立ち上がった。
「やれる。やるしかない」
その日、父から呼び出しがあった。
書斎に入ると、父だけでなく、兄のエリオットもいた。
「アリーナ、座れ」
父の表情は、いつもより厳しい。
「試験の件で、話がある」
アリーナの心臓が、どきりと鳴った。
「もしかして……推薦状が、無効に?」
父は首を振った。
「いや、それはない。
だが、王宮から圧力がかかっているらしい」
エリオットが、怒りを抑えた声で続けた。
「レコルトの奴……いや、王太子殿下が、アカデミーの理事会に口を利いたらしい。
『エルドリア家の令嬢の試験は、厳正に審査せよ』って」
アリーナは息を呑んだ。
厳正に――つまり、甘く見てくれるな、ということ。
普通の受験生なら、貴族の推薦で多少の加点がある。
だが、アリーナにはそれがない。
むしろ、厳しく見られる。
「ミランの入れ知恵だな」
エリオットが拳を握った。
「平民の娘が、こんなに王宮を動かせるなんて……あいつ、何か裏がある」
父が静かに言った。
「噂では、ミランは隣国の貴族と繋がりがあるらしい。
レコルト殿下を操って、王国を不安定にしたいのかもしれん」
アリーナの目が見開かれた。
「そんな……」
「証拠はない。
だが、気をつけろ。
試験当日、何か妨害があるかもしれない」
アリーナは、ゆっくりと頷いた。
「……わかりました。
それでも、私は試験を受けます」
父が、少し微笑んだ。
「それでいい。
エルドリア家の娘は、逃げない」
その夜、アリーナは屋敷の屋上に出た。
星空の下、魔導書を開く。
これまで避けていたページ――中級魔法の領域。
「試験で、どこまで見せよう」
魔力の量は圧倒的だが、制御が完璧でないと暴走の危険がある。
だが、圧力がかかっている今、普通の成績では合格できないかもしれない。
「……少し、冒険しよう」
アリーナは、魔導書が示す新しい魔法陣に指を置いた。
「ウィンド・ストーム」
周囲の風が、急に強くなった。
髪がなびき、ドレスがはためく。
小さな竜巻が、アリーナの周囲に発生する。
制御が難しい。
風が暴れ、屋上の柵を揺らす。
「落ち着いて……私の意志で」
アリーナは目を閉じ、魔力を絞る。
竜巻が徐々に小さくなり、完璧な円を描いて回る。
「……できた」
開けた目には、自信が宿っていた。
この魔法なら、試験で目立てる。
だが、禁断の力だとバレないよう、注意が必要だ。
翌日、さらなる妨害が来た。
屋敷に、一通の手紙が届いた。
差出人は、匿名。
『アリーナ・フォン・エルドリア様
試験を受けるのはおやめなさい。
落ちた姿を、王都中に見せたくないでしょう?
レコルト殿下も、悲しむわ』
明らかに、ミランの筆跡を模したもの。
エマが怒って破り捨てようとしたが、アリーナは止めた。
「残しておいて。
証拠になるかもしれない」
アリーナは手紙を机に置き、魔導書を開いた。
妨害があればあるほど、燃えてくる。
「……ミランさん、あなたの思惑通りにはさせない」
試験まで残り三日。
アリーナは、家族と相談し、最終調整に入った。
兄のエリオットが、模擬試験官役を買って出た。
訓練場で、エリオットが剣を構える。
「来い、アリーナ。
本気でかかってこい」
アリーナは頷き、魔法を構えた。
「アクア・シールド!」
水の膜が体を覆う。
エリオットの剣撃を、完璧に防ぐ。
「イグニス・アロー!」
炎の矢が、エリオットの剣に絡みつく。
エリオットが笑った。
「やるな! 昔のお前じゃ、こんなの無理だった」
二人は何度もスパーリングを繰り返した。
夕方、汗だくで休憩していると、母が弁当を持って来た。
「二人とも、すごはどはどね」
家族四人で、訓練場のベンチに座って食事をした。
久しぶりの、穏やかな時間。
母が優しく言った。
「アリーナ、あなたが変わったわ。
強くなった」
父が頷く。
「試験、自信はあるか?」
アリーナは、家族を見回した。
「うん。
絶対、合格する」
エリオットが頭を撫でてくれた。
「落ちたら、俺が王宮に乗り込むぞ」
みんなが笑った。
夜、アリーナは最後の確認をした。
魔導書に、新たな書き込みを加える。
『私、アリーナ・フォン・エルドリアは、
自分の力で道を切り開くことを誓う。
誰にも、負けない』
試験前日。
王都は、試験の話題で持ちきりだった。
『エルドリア家の令嬢、落ちるらしいわ』
『王太子殿下も、期待していないって』
そんな噂が飛び交う中、アリーナは静かに荷物をまとめた。
制服用のローブ、筆記用具、そして――魔導書は、絶対に持って行かない。
力は、もう自分のものだ。
馬車でアカデミーに向かう朝。
家族が見送りに出た。
父が言った。
「行ってこい。アリーナ」
母が抱きしめた。
「頑張ってね」
エリオットが、照れくさそうに言った。
「合格したら、祝いの酒を飲もう」
アリーナは馬車に乗り、窓から手を振った。
王都の門をくぐり、アカデミーの高い塔が見えてくる。
そこに、どんな試練が待っているか。
ミランやレコルトの妨害が、あるか。
でも、もう怖くない。
私は、変わった。
試験会場に、数百人の受験生。
その中に、アリーナの姿があった。
試験官の声が響く。
「では、王立魔導アカデミー入学試験、開始!」
アリーナの瞳に、強い光が宿った。
ここから、本当の反撃が始まる。
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