婚約破棄された公爵令嬢は、禁断の魔導書で華麗に復讐する ~王太子の後悔と新たな恋の始まり~

ふわふわ

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第8話 初の実技授業と、冷たい視線

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第8話 初の実技授業と、冷たい視線

王立魔導アカデミーの二日目。  
朝の鐘が鳴り響く中、アリーナはリアと一緒に講義棟へ向かっていた。

新入生の制服である黒ローブに、首席の銀バッジが朝陽を反射してきらめく。  
キャンパスの石畳を踏む音が、軽やかに響く。

「今日から本格的な授業だね! 楽しみ~」

リアがスキップするように歩きながら言った。

「一番最初は、ルクシオ教授の基礎魔法実践だって聞いたよ。  
もうドキドキしちゃう!」

アリーナは少し緊張した笑みを浮かべた。

「……私も」

昨夜の研究室での会話が、まだ頭に残っている。

『明日から、私の特別指導を受ける』

あの金色の瞳でまっすぐに見つめられた瞬間、胸がざわついた。  
怖い人だと思ったのに、なぜか嫌な感じはしなかった。

むしろ、期待しているような――。

講義棟の一番広い実技室に入ると、すでに三十人ほどの新入生が集まっていた。

部屋は円形で、中央に巨大な魔法陣が描かれ、周囲を結界が囲んでいる。  
壁には観察用の鏡が並び、上級生や教授が覗けるようになっている。

生徒たちはざわついていた。

「ルクシオ教授、遅れてるみたい」  
「でも、来たら一気に静かになるんだろうな」  
「あ、ミランもいるよ」

アリーナの視線が、自然とミランに引き寄せられた。

ミランは取り巻きの令嬢たちに囲まれ、優雅に笑っている。

アリーナと目が合うと、にこやかに手を振った。

「あら、アリーナさん。おはよう」

声は明るいが、目は笑っていない。

アリーナは軽く会釈した。

「おはよう、ミランさん」

ミランは少し近づいてきて、小声で囁いた。

「首席の特別指導、聞いたわよ?  
ルクシオ教授に目をつけられるなんて、珍しいわね。  
……でも、調子に乗らない方がいいわ」

取り巻きの一人が、くすくす笑った。

アリーナは静かに答えた。

「アドバイス、ありがとう」

そのとき、部屋の扉が静かに開いた。

全員が息を呑む。

ルクシオ・ヴァン・クロイツ教授が入ってきた。

黒ローブをはためかせ、金色の瞳で室内を一瞥。

一瞬で、部屋が凍りついたように静かになった。

「着席」

低い声が響き、生徒たちは慌てて指定の位置に立つ。

実技授業は座学ではなく、円形魔法陣の周りに立って行う。

ルクシオは中央に立ち、淡々と授業を始めた。

「今日の課題は、魔力の精密制御だ。  
的を壊すだけの荒い魔法は、三流以下。  
魔力を最小限に抑え、正確に操れ」

壁に、三つの小さな的が出現。

直径十センチの浮遊する球体。

「順番に、一人ずつ前に出ろ。  
的を、魔法で静止させる。  
触れず、壊さず、ただ止めるだけだ」

簡単そうに聞こえるが、実は高度な技術。

浮遊する的は微妙に動き、魔力を均等にかけ続けなければすぐに逸れる。

最初に呼ばれた生徒が、緊張しながら前に出る。

風魔法で止めようとしたが、すぐに的が揺れて失敗。

「次」

ルクシオの声は冷たい。

次々と生徒が挑戦するが、ほとんどが失敗。

ミランが呼ばれた。

「ミラン」

ミランは優雅に前に出る。

「フレイム・ホールド」

炎の薄い膜で的を包み、完全に静止させた。

時間は三十秒。

観察席から、小さな拍手が起こる。

ルクシオは無表情で頷いた。

「合格点。次」

ミランは満足げに退場し、アリーナに勝ち誇った視線を送った。

やがて――。

「アリーナ・フォン・エルドリア」

呼ばれた瞬間、部屋がざわついた。

首席の挑戦。

みんなの視線が集中する。

アリーナは静かに中央へ進んだ。

ルクシオの金色の瞳が、まっすぐに見つめている。

「始めろ」

アリーナは深呼吸し、魔力を意識した。

魔導書の知識で、精密制御は得意分野。

だが、ここでは力を抑えすぎてもいけない。

「アクア・ヴェール」

薄い水の膜を、的の周囲に張る。

的が、ぴたりと止まった。

完全に静止。

しかも、三つ同時に。

時間は一分を超えても、微動だにしない。

部屋がどよめいた。

「え……三つ同時に!?」  
「首席、ヤバい……」

ルクシオの目が、少し細められた。

興味が深まったような。

「十分だ。退がれ」

アリーナが下がると、ルクシオが続けた。

「残りの課題。  
ペアを組み、互いの魔法を相殺せよ。  
攻撃と防御を同時に行い、結界にダメージを与えるな」

生徒たちがざわつく。

これは難しい。

相手の魔法を正確に読み、逆相の魔力をぶつける必要がある。

ルクシオがペアを指定していく。

ミランは取り巻きの一人と。

そして――。

「アリーナは、私と」

部屋が一瞬、凍りついた。

「え……教授と!?」  
「初日に!?」

ミランが、明らかに動揺した顔をした。

アリーナも驚いた。

「……私と、ですか?」

ルクシオは無表情で頷いた。

「特別指導の予行演習だ。  
他の生徒は、観察しろ」

生徒たちが円形に広がり、中央にアリーナとルクシオだけ。

ルクシオが、静かに言った。

「攻撃してこい。  
本気で」

アリーナの心臓が、高鳴る。

本気――どれくらい出せばいい?

魔導書の力、どこまで見せてもいい?

ルクシオの瞳が、挑戦的に輝いている。

アリーナは、決意した。

中級くらいで。

「イグニス・アロー」

五本の炎の矢を、ルクシオに向かって放つ。

ルクシオは動かず、指を軽く振っただけ。

「ウィンド・リフレクト」

風の壁が矢をすべて弾き返す。

だが、アリーナの矢は軌道を曲げ、風をすり抜けようとする。

ルクシオの眉が、少し上がった。

「面白い」

今度はルクシオが攻撃。

「ライトニング・チェイン」

雷の鎖が、アリーナを狙う。

速い!

アリーナは咄嗟に。

「アクア・バリア」

水の障壁を張り、雷を吸収。

さらに、余った魔力を逆流させる。

雷がルクシオに向かって跳ね返る。

ルクシオは、初めて小さく笑った。

「やるな」

二人の魔法が、激しくぶつかり合う。

炎と風、水と雷。

結界がきしむ音がするが、ダメージはゼロ。

生徒たちが、息を呑んで見ている。

ミランは、唇を噛んでいた。

五分が経過。

ルクシオが手を下げた。

「終わり」

部屋が、遅れて大歓声に包まれた。

「すごい……教授と互角!?」  
「首席、本物だ……」

ルクシオはアリーナに近づき、小声で言った。

「放課後、研究室に来い。  
特別指導、本格的に始める」

アリーナは頷いた。

「はい、教授」

授業が終わり、生徒たちが退室していく。

ミランが、アリーナに近づいてきた。

「……まぐれよ。  
教授が、手加減しただけ」

アリーナは静かに答えた。

「そうかもしれないわね」

ミランが、苛立ったように去っていく。

リアが駆け寄ってきた。

「アリーナ、すごかった! 教授とあんなにやり合えるなんて!」

アリーナは、少し疲れた笑みを浮かべた。

「……ありがとう」

放課後、研究室。

ルクシオは机に座り、アリーナを待っていた。

「座れ」

アリーナが椅子に座ると、ルクシオが言った。

「君の魔力、普通じゃない。  
どこから来た力だ?」

また、その質問。

アリーナは、慎重に答えた。

「生まれつきのもの、です。  
ただ、これまで隠していただけで」

ルクシオは、じっと見つめてきた。

「隠していた……か。  
王太子との婚約のためか?」

アリーナが、ぎくりとした。

ルクシオは知っていた。

婚約破棄の噂を。

「関係ない」

アリーナは、初めて強く言った。

ルクシオは、少し目を細めた。

「なら、いい。  
これからは、私が君を鍛える。  
その力、暴走させないためにも」

アリーナの胸が、熱くなった。

「……ありがとうございます」

ルクシオは、初めて柔らかい声で言った。

「君は、強い。  
でも、まだ未熟だ。  
一緒に、極めよう」

その言葉に、アリーナの心が揺れた。

冷たいと思っていた人なのに、優しさを感じる。

研究室を出た頃、夕陽がキャンパスを赤く染めていた。

寮に戻る道で、アリーナは空を見上げた。

アカデミー生活、楽しいかもしれない。

ルクシオ教授との時間。

新しい友人。

そして、ミランとの対立。

まだまだ、これから。

夜、リアと部屋で話しながら、アリーナは呟いた。

「明日も、特別指導だって」

リアが目を輝かせた。

「キュンキュンしちゃうね!」

アリーナは、頰を赤らめて笑った。

少しずつ、心が軽くなっていく。

レコルトの影は、まだあるけど。

もう、引きずらない。

私は、私の道を歩く。

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