婚約破棄された公爵令嬢は、禁断の魔導書で華麗に復讐する ~王太子の後悔と新たな恋の始まり~

ふわふわ

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第9話 特別指導の始まりと、隠された過去

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第9話 特別指導の始まりと、隠された過去

王立魔導アカデミーの三日目、放課後。

アリーナは研究棟の最上階、ルクシオ教授の研究室の前で立ち止まり、深呼吸をした。

黒いローブの袖を軽く握り、ノックする。

「……どうぞ」

中から聞こえた低い声に、扉を開ける。

部屋の中は昨日と同じく、無数の魔導書と奇妙な器具が並んでいる。  
夕陽が窓から差し込み、埃の粒子を金色に輝かせていた。

ルクシオは大きな机の向こうで、古い巻物を広げていた。  
黒髪が少し乱れ、金色の瞳が巻物に集中している。

アリーナが入ると、ルクシオは顔を上げた。

「遅かったな」

「す、すみません。前の授業が少し延びて……」

アリーナが頭を下げると、ルクシオは小さく鼻を鳴らした。

「座れ。今日から本格的な特別指導だ」

指定された椅子に座る。  
机の上には、魔法陣が描かれた羊皮紙と、いくつかの水晶が置かれていた。

ルクシオは巻物を畳み、アリーナをまっすぐに見つめた。

「まず、君の魔力の性質を正確に把握する。  
手のひらをここに出せ」

机の中央に、淡く光る魔法陣がある。

アリーナは言われた通りに右手を差し出した。

ルクシオが、自分の手を重ねる。

――瞬間、温かさが伝わってきた。

ルクシオの手に、微かな魔力が流れ込む。

アリーナの体を、優しく探るように。

「っ……」

アリーナの頰が、少し熱くなった。

ルクシオは無表情のまま、目を閉じている。

「……異常だ」

数分後、ルクシオが手を離し、呟いた。

「魔力の総量は、通常の魔導師の十倍以上。  
しかも、流れが古い……古代魔法の系統に近い」

アリーナの心臓が、どきりと鳴った。

バレた……?

でも、ルクシオは追求しなかった。

「どうやってこの力を手に入れたかは、聞かない。  
ただ、制御が不十分だ。  
暴走したら、周囲を巻き込む」

アリーナは、ほっと息をついた。

「……はい。ですから、教授にご指導いただきたいんです」

ルクシオは、初めて小さく頷いた。

「なら、今日の課題だ。  
この水晶に、魔力を均等に注ぎ込め。  
一時間、揺るがせずに保て」

水晶は拳大の透明なもの。  
魔力を注ぐと、光を帯びる。

簡単そうに見えるが、実際は難しい。  
魔力の波を完全に平らに保つ必要がある。

アリーナは水晶を手に取り、魔力を流し始めた。

最初は安定していた。

光が柔らかく広がる。

だが、五分ほどで、少し揺らぎ始めた。

魔導書の力は強大すぎて、細かい調整が難しい。

「……集中しろ」

ルクシオの声が、すぐ横から聞こえた。

いつの間にか、ルクシオが後ろに立っていた。

「魔力を、川だと思うな。  
糸だ。一本の細い糸を、ゆっくりと巻き取るように」

アリーナは目を閉じ、言われた通りに意識を変えた。

魔力が、細く、滑らかに流れる。

水晶の光が、完璧に安定した。

「……できた」

三十分経過。

まだ揺らがない。

ルクシオが、静かに言った。

「いいぞ。  
だが、まだ本質に触れていない」

アリーナが目を開けると、ルクシオは自分の手を水晶に添えていた。

二人の魔力が、共鳴する。

水晶が、より強い光を放つ。

「教授……?」

「君の魔力は、孤独だ」

ルクシオの声が、少し低くなった。

「他人の魔力と混ざることを、拒んでいる」

アリーナは驚いた。

そんなこと、初めて言われた。

「だから、暴走しやすい。  
他人と協力する魔法が、苦手になる」

アリーナは、思い出した。

試験では単独でしか魔法を使っていない。

確かに、ペアの授業ではまだ本気を出していない。

ルクシオは手を離した。

「今日の指導はここまで。  
だが、毎日来い。  
君の力を、完全に制御できるまで」

アリーナは頷いた。

「……はい。ありがとうございます」

研究室を出ようとすると、ルクシオが呼び止めた。

「アリーナ」

初めて、名前で呼ばれた。

振り返ると、ルクシオは窓の外を見ていた。

夕陽が、彼の横顔を赤く染めている。

「君は……王太子に、婚約を破棄されたな」

アリーナの体が、固まった。

ルクシオは続けた。

「私も、似た経験がある」

「……え?」

ルクシオは、静かに語り始めた。

「五年前、私は王宮の魔導師候補だった。  
王家の信頼を得て、将来を約束されていた」

金色の瞳に、遠い記憶が映る。

「だが、ある貴族の陰謀で、すべてを失った。  
禁忌の魔法を使ったと冤罪を着せられ、アカデミーに左遷された」

アリーナは、息を呑んだ。

ルクシオ・ヴァン・クロイツの過去――誰も知らない話。

「だから、わかる。  
裏切られた痛みが」

ルクシオは、アリーナを振り返った。

「だが、それで終わるな。  
君は、強い。  
その力を、復讐のためだけに使うな」

アリーナの胸が、熱くなった。

「……教授は、どうしたんですか?」

ルクシオは、少し自嘲的な笑みを浮かべた。

「私は、魔法を極めた。  
今、王宮の誰よりも強い。  
いつか、見返してやる」

その言葉に、アリーナは共感した。

同じだ。

私も、見返したい。

でも――復讐だけじゃない。

ルクシオの言葉が、心に染みる。

「ありがとうございます、教授」

アリーナは、深く頭を下げた。

ルクシオは、無表情に戻った。

「明日も来い。  
遅れるな」

研究室を出たアリーナは、廊下で立ち止まった。

夕陽が、キャンパスを美しい橙色に染めている。

「……教授も、傷ついてたんだ」

冷たいと思っていた人が、実は自分と同じ痛みを抱えていた。

それが、なぜか嬉しかった。

寮に戻ると、リアが待っていた。

「どうだった? 特別指導!」

アリーナは、少し照れながら答えた。

「……厳しかったけど、勉強になった」

リアが目を輝かせた。

「教授、かっこいいよね~。  
あの金色の目、ドキドキする!」

アリーナは、頰を赤らめた。

「そ、そうかな……」

夜、ベッドで魔導書の知識を復習しながら、アリーナは考えた。

ルクシオ教授は、私の力を認めてくれている。

そして、過去を少しだけ明かしてくれた。

これから、もっと近づけるかもしれない。

でも、今はまだ。

まずは、強くなる。

ミランに負けない。

レコルトに、後悔させる。

そして――ルクシオ教授に、認められる。

その夜、アリーナは久しぶりに穏やかな夢を見た。

夢の中では、ルクシオと一緒に、巨大な魔法陣を描いていた。

二人の魔力が、美しく共鳴する。

朝、目覚めたアリーナの瞳は、ますます強い光を宿していた。

特別指導は、まだ始まったばかり。

アカデミーでの日々が、少しずつ甘く、熱を帯びていく。

ミランの影も、近づいているけど。

今は、それさえも恐くない。

私は、変わっている。

(第9話 終わり)

(文字数:約3300文字)

第9話では、特別指導の詳細とルクシオの過去の一端を明かし、二人の距離が少し縮まる回にしました。  
アリーナの内面的成長と、ルクシオへの微かな恋心の芽生えを丁寧に描き、女子読者がキュンとするシーンを意識しています。  
次はもっと甘いシーンやミランの妨害を強めてもいいかも。

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