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第13話 優勝の余韻と、近づく距離
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第13話 優勝の余韻と、近づく距離
大会から三日が経ち、王立魔導アカデミーはまだ興奮の余韻に包まれていた。
掲示板には優勝者のアリーナ・フォン・エルドリアの名前が大きく掲示され、新入生たちの話題はそれ一色。
食堂や廊下、図書館のどこに行っても、「あの決勝戦、すごかった」「ミランが不正使ってたなんて」「首席、本当に強いわね」という声が聞こえてくる。
アリーナはリアと一緒に食堂で昼食を取っていた。
「アリーナ、もう完全に学内のヒーローだよ!
上級生から話しかけられるようになったでしょ?」
リアが目を輝かせて言う。
確かに、最近は知らない生徒から挨拶されることが増えた。
昨日など、二年生の男子生徒が「一緒に勉強しませんか?」と誘ってきたくらいだ。
アリーナは少し照れくさそうに笑った。
「……ちょっと、慣れないわ」
でも、心の中は晴れやかだった。
ミランの不正は正式に処分が下され、停学一ヶ月と魔力増幅具の没収。
取り巻きたちも距離を置き始め、ミランは寮の部屋に引きこもっているらしい。
王宮からも、何か動きがあるという噂。
レコルトが、報告を受けて動揺している、と。
アリーナはフォークを置いて、胸元のペンダントに触れた。
ルクシオからもらった水晶が、優しく温かい。
あの大会で、確かに役立った。
教授の魔力が、私を守ってくれた。
午後の授業が終わり、アリーナはいつものように研究室へ向かった。
扉をノックすると、中から低い声。
「入れ」
ルクシオは今日も、実験器具を弄っていた。
黒髪が少し乱れ、金色の瞳が器具に集中している。
アリーナが入ると、ルクシオは顔を上げた。
「大会の後処理で、忙しかったな」
アリーナが頭を下げる。
「教授、審査員お疲れ様でした。
そして……ペンダント、本当にありがとうございました」
ルクシオは、無表情のまま小さく頷いた。
「役に立ったなら、いい」
アリーナは椅子に座り、今日の指導を待った。
だが、ルクシオは器具を片付け始め、意外な言葉を口にした。
「今日は、指導を休みにする」
「……え?」
アリーナが驚いて顔を上げる。
ルクシオは、窓の外を見ながら続けた。
「大会で、君は十分に証明した。
もう、基礎は必要ない」
アリーナの胸が、ざわついた。
指導が、終わる……?
それが、なぜか寂しい。
ルクシオは、アリーナを振り返った。
金色の瞳が、いつもより柔らかく見える。
「だが、君の魔力はまだ不安定だ。
これからは、もっと高度なものを教える」
アリーナの顔が、ぱっと明るくなった。
「……はい! お願いします!」
ルクシオは、初めて小さく笑った。
「その前に、少し休め。
優勝のご褒美だ」
ご褒美。
その言葉に、アリーナの頰が熱くなった。
ルクシオは机の上に、小さな箱を置いた。
「開けろ」
アリーナが箱を開けると、中には美しい青い花の髪飾り。
水晶のような透明な花弁で、魔力が込められているのがわかる。
「……これ、教授が?」
「私が作った。
君の魔力に、共鳴するように調整してある」
アリーナの目が、潤んだ。
大会のペンダントに続き、またプレゼント。
これは、もうただの師弟じゃない。
「ありがとうございます……大切にします」
アリーナは髪飾りを手に、そっと髪に挿した。
ルクシオの視線が、少し熱を帯びた。
「……似合う」
小さな呟き。
アリーナの心臓が、どきどき鳴る。
二人は、しばらく無言でいた。
夕陽が部屋を橙色に染め、静かな時間が流れる。
ルクシオが、珍しく自分から口を開いた。
「学内の噂は、変わったな」
アリーナが頷く。
「はい。
ミランさんのことが、みんな知って……私を見てくれる目が、優しくなりました」
ルクシオは、静かに言った。
「王宮からも、動きがあるらしい」
アリーナの体が、固まった。
「……レコルト殿下が?」
「視察の名目で、アカデミーに来るかもしれない。
ミランの処分を、軽くしようとしている」
アリーナの瞳に、強い光が宿った。
「来るなら、来ればいい。
もう、私は怖くない」
ルクシオが、アリーナをまっすぐ見た。
「君は、変わった。
強くなった」
その言葉に、アリーナは微笑んだ。
「教授のおかげです」
ルクシオは、少し視線を逸らした。
「……私の過去も、君に似ている。
裏切られ、力を隠していた時期があった」
アリーナは、静かに聞いた。
大会以来、ルクシオは少しずつ、自分のことを話してくれるようになった。
「だから、君の気持ちがわかる。
復讐したい気持ちも」
アリーナは、首を振った。
「復讐だけじゃないんです。
今は……自分のために、強くなりたい」
ルクシオの目が、優しく細められた。
「それでいい」
二人の距離が、また少し縮まった。
研究室を出たアリーナは、キャンパスの庭園を歩いた。
新しい髪飾りが、夕陽に輝く。
学内の生徒たちが、遠くから手を振ってくる。
「アリーナさん、優勝おめでとう!」
「髪飾り、綺麗!」
アリーナは、みんなに笑顔で返した。
もう、孤立じゃない。
友達がいる。
認めてもらえている。
そして、ルクシオ教授がいる。
寮に戻ると、リアが飛びついてきた。
「髪飾り、教授からもらったんでしょ!?
もう、完全に両想い確定!!」
アリーナは真っ赤になって否定した。
「ち、違うよ! 指導の一環だって……」
でも、心の中では、少し期待していた。
夜、ベッドでペンダントと髪飾りを眺めながら、アリーナは呟いた。
「レコルトが来ても、いい。
私は、もう昔の私じゃない」
王宮では、レコルトが苛立っていた。
ミランの処分を軽くしようとしたが、アカデミーの教授陣が頑として認めない。
特に、ルクシオ・ヴァン・クロイツの名前が、報告書に大きく書かれていた。
「……アリーナを、守っているのか」
レコルトの胸に、後悔が広がる。
あの破棄の夜、アリーナの涙を見たとき。
もう遅い、と思っていたのに。
今、アリーナは輝いている。
自分が見捨てた女が、こんなに強くなっている。
ミランは、部屋で泣いていた。
「殿下、私……ごめんなさい」
レコルトは、冷たく言った。
「お前は、もういい」
初めて、ミランに冷たい視線を向けた。
アカデミーの噂は、王都中に広がっていた。
『婚約破棄された公爵令嬢が、圧倒的な才能を開花』
『王太子の新しい婚約者は、不正で敗北』
貴族社会の風向きが、変わり始めている。
アリーナは、窓の外の星空を見上げた。
これから、もっと大きな試練が来るかもしれない。
王国に魔物の脅威が迫っている、という噂も聞く。
でも、今は怖くない。
ルクシオ教授と、一緒に。
新しい恋の予感と、確かな絆。
私の物語は、まだ半分も進んでいない。
明日から、また特別指導。
もっと、教授に近づけるかな。
アリーナは、髪飾りに触れて、幸せな溜息をついた。
優勝の余韻は、甘く、心を満たしていた。
大会から三日が経ち、王立魔導アカデミーはまだ興奮の余韻に包まれていた。
掲示板には優勝者のアリーナ・フォン・エルドリアの名前が大きく掲示され、新入生たちの話題はそれ一色。
食堂や廊下、図書館のどこに行っても、「あの決勝戦、すごかった」「ミランが不正使ってたなんて」「首席、本当に強いわね」という声が聞こえてくる。
アリーナはリアと一緒に食堂で昼食を取っていた。
「アリーナ、もう完全に学内のヒーローだよ!
上級生から話しかけられるようになったでしょ?」
リアが目を輝かせて言う。
確かに、最近は知らない生徒から挨拶されることが増えた。
昨日など、二年生の男子生徒が「一緒に勉強しませんか?」と誘ってきたくらいだ。
アリーナは少し照れくさそうに笑った。
「……ちょっと、慣れないわ」
でも、心の中は晴れやかだった。
ミランの不正は正式に処分が下され、停学一ヶ月と魔力増幅具の没収。
取り巻きたちも距離を置き始め、ミランは寮の部屋に引きこもっているらしい。
王宮からも、何か動きがあるという噂。
レコルトが、報告を受けて動揺している、と。
アリーナはフォークを置いて、胸元のペンダントに触れた。
ルクシオからもらった水晶が、優しく温かい。
あの大会で、確かに役立った。
教授の魔力が、私を守ってくれた。
午後の授業が終わり、アリーナはいつものように研究室へ向かった。
扉をノックすると、中から低い声。
「入れ」
ルクシオは今日も、実験器具を弄っていた。
黒髪が少し乱れ、金色の瞳が器具に集中している。
アリーナが入ると、ルクシオは顔を上げた。
「大会の後処理で、忙しかったな」
アリーナが頭を下げる。
「教授、審査員お疲れ様でした。
そして……ペンダント、本当にありがとうございました」
ルクシオは、無表情のまま小さく頷いた。
「役に立ったなら、いい」
アリーナは椅子に座り、今日の指導を待った。
だが、ルクシオは器具を片付け始め、意外な言葉を口にした。
「今日は、指導を休みにする」
「……え?」
アリーナが驚いて顔を上げる。
ルクシオは、窓の外を見ながら続けた。
「大会で、君は十分に証明した。
もう、基礎は必要ない」
アリーナの胸が、ざわついた。
指導が、終わる……?
それが、なぜか寂しい。
ルクシオは、アリーナを振り返った。
金色の瞳が、いつもより柔らかく見える。
「だが、君の魔力はまだ不安定だ。
これからは、もっと高度なものを教える」
アリーナの顔が、ぱっと明るくなった。
「……はい! お願いします!」
ルクシオは、初めて小さく笑った。
「その前に、少し休め。
優勝のご褒美だ」
ご褒美。
その言葉に、アリーナの頰が熱くなった。
ルクシオは机の上に、小さな箱を置いた。
「開けろ」
アリーナが箱を開けると、中には美しい青い花の髪飾り。
水晶のような透明な花弁で、魔力が込められているのがわかる。
「……これ、教授が?」
「私が作った。
君の魔力に、共鳴するように調整してある」
アリーナの目が、潤んだ。
大会のペンダントに続き、またプレゼント。
これは、もうただの師弟じゃない。
「ありがとうございます……大切にします」
アリーナは髪飾りを手に、そっと髪に挿した。
ルクシオの視線が、少し熱を帯びた。
「……似合う」
小さな呟き。
アリーナの心臓が、どきどき鳴る。
二人は、しばらく無言でいた。
夕陽が部屋を橙色に染め、静かな時間が流れる。
ルクシオが、珍しく自分から口を開いた。
「学内の噂は、変わったな」
アリーナが頷く。
「はい。
ミランさんのことが、みんな知って……私を見てくれる目が、優しくなりました」
ルクシオは、静かに言った。
「王宮からも、動きがあるらしい」
アリーナの体が、固まった。
「……レコルト殿下が?」
「視察の名目で、アカデミーに来るかもしれない。
ミランの処分を、軽くしようとしている」
アリーナの瞳に、強い光が宿った。
「来るなら、来ればいい。
もう、私は怖くない」
ルクシオが、アリーナをまっすぐ見た。
「君は、変わった。
強くなった」
その言葉に、アリーナは微笑んだ。
「教授のおかげです」
ルクシオは、少し視線を逸らした。
「……私の過去も、君に似ている。
裏切られ、力を隠していた時期があった」
アリーナは、静かに聞いた。
大会以来、ルクシオは少しずつ、自分のことを話してくれるようになった。
「だから、君の気持ちがわかる。
復讐したい気持ちも」
アリーナは、首を振った。
「復讐だけじゃないんです。
今は……自分のために、強くなりたい」
ルクシオの目が、優しく細められた。
「それでいい」
二人の距離が、また少し縮まった。
研究室を出たアリーナは、キャンパスの庭園を歩いた。
新しい髪飾りが、夕陽に輝く。
学内の生徒たちが、遠くから手を振ってくる。
「アリーナさん、優勝おめでとう!」
「髪飾り、綺麗!」
アリーナは、みんなに笑顔で返した。
もう、孤立じゃない。
友達がいる。
認めてもらえている。
そして、ルクシオ教授がいる。
寮に戻ると、リアが飛びついてきた。
「髪飾り、教授からもらったんでしょ!?
もう、完全に両想い確定!!」
アリーナは真っ赤になって否定した。
「ち、違うよ! 指導の一環だって……」
でも、心の中では、少し期待していた。
夜、ベッドでペンダントと髪飾りを眺めながら、アリーナは呟いた。
「レコルトが来ても、いい。
私は、もう昔の私じゃない」
王宮では、レコルトが苛立っていた。
ミランの処分を軽くしようとしたが、アカデミーの教授陣が頑として認めない。
特に、ルクシオ・ヴァン・クロイツの名前が、報告書に大きく書かれていた。
「……アリーナを、守っているのか」
レコルトの胸に、後悔が広がる。
あの破棄の夜、アリーナの涙を見たとき。
もう遅い、と思っていたのに。
今、アリーナは輝いている。
自分が見捨てた女が、こんなに強くなっている。
ミランは、部屋で泣いていた。
「殿下、私……ごめんなさい」
レコルトは、冷たく言った。
「お前は、もういい」
初めて、ミランに冷たい視線を向けた。
アカデミーの噂は、王都中に広がっていた。
『婚約破棄された公爵令嬢が、圧倒的な才能を開花』
『王太子の新しい婚約者は、不正で敗北』
貴族社会の風向きが、変わり始めている。
アリーナは、窓の外の星空を見上げた。
これから、もっと大きな試練が来るかもしれない。
王国に魔物の脅威が迫っている、という噂も聞く。
でも、今は怖くない。
ルクシオ教授と、一緒に。
新しい恋の予感と、確かな絆。
私の物語は、まだ半分も進んでいない。
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優勝の余韻は、甘く、心を満たしていた。
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