サブスク聖女と偽装婚約、始めました 〜婚約は、サブスクできないのでお断りです〜

ふわふわ

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21話 合法手段を試しなさい

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21話 合法手段を試しなさい

 控えの間は、異様な静けさに包まれていた。

 椅子に座らされた数名の男たちは、包帯を巻かれ、簡易処置を受けている。
 誰も重傷ではない。
 だが、全員が明らかに――心が折れていた。

 そこに、シャマルがいる。

 怒鳴らない。
 詰め寄らない。
 腕も組まない。

 ただ、静かに立っているだけだ。

「……」

 沈黙が長くなり、耐えきれなくなったのは相手の方だった。

「な、なぜ……殺さなかった……」

 震える声での問い。

 シャマルは、少しだけ首を傾げた。

「殺す理由がありません」

 即答だった。

「あなた方は、誘拐を“試みた”だけです」
「失敗し、止められ、今ここにいる」

「それ以上でも、それ以下でもありません」

 淡々とした言い方が、かえって恐ろしい。

「で、ですが……我々は……」

「分かっています」

 言い訳を遮る。

「命令があった」
「評価が欲しかった」
「このまま帰れば、何も残らないと思った」

「よくある話です」

 男たちは、息を呑んだ。

 理解されている。
 だからこそ、逃げ道がない。

 シャマルは、ゆっくりと視線を巡らせた。

「ですが」

 そこで、声の調子がわずかに変わる。

「手段が、最悪です」

 責める口調ではない。
 叱責というより、呆れに近い。

「外交には、合法手段があります」

「正式要請」
「交渉」
「条件提示」
「契約」

 一つひとつ、指を折るように挙げる。

「時間はかかります」
「拒否されることもあります」

「でも、それが“正規ルート”です」

 男の一人が、唇を噛んだ。

「……待っていたら、機会を失うと……」

 シャマルは、はっきりと言った。

「失ってください」

 即答だった。

「機会は、
 “合法な手段を踏んだ者”にだけ残ります」

「踏まなかった者には、
 失う権利しかありません」

 その言葉は、冷たく、正確だった。


---

 少し間を置いて、シャマルはため息をついた。

「……正直に言います」

 珍しく、前置きが入る。

「私は、誘拐される気はありません」
「説得される気もありません」

「ですが」

 一瞬だけ、視線が鋭くなる。

「話を聞く気はあります」

 男たちが、顔を上げた。

「だからこそ」

 シャマルは、きっぱりと告げる。

「合法手段を試しなさい」

「正式に要請し、
 条件を揃え、
 契約を持って来てください」

「それが出来ないなら」

 間を置く。

「最初から、交渉相手ではありません」


---

 部屋の空気が、完全に変わった。

 怒りでも、恐怖でもない。
 これは――理解だ。

 彼女は感情で動かない。
 奇跡で脅さない。
 だが、線は絶対に越えさせない。

 それを、全員が悟った。

「……我々は」

 誰かが、震えながら口を開く。

「帰れば、切り捨てられるでしょう」

 シャマルは、少し考えてから答えた。

「それは、あなた方の国の問題です」

 淡々と。

「私が関与することではありません」

 情けも、追い打ちもない。
 ただの事実。

「ただし」

 最後に、ひと言だけ付け加える。

「次に来る時は、
 今日のような形では来ないでください」

「……話が、長くなりますから」

 その言葉に、男たちは一様にうなだれた。


---

 シャマルは、部屋を出る前に振り返った。

「誘拐未遂は、失敗しました」

「でも、外交はまだ失敗していません」

「失敗にするかどうかは、
 これからの行動次第です」

 それだけ言って、扉を閉める。

 廊下を歩きながら、彼女は小さく呟いた。

「……本当に」

「最初から、そうすればいいのに」

 その言葉は、誰にも聞かれなかった。

 だが、この一件で、
 “奇跡を起こす聖女”よりも厄介な存在として、
 シャマルは深く刻み込まれた。

 ――感情で動かず、
 制度と契約でしか動かない聖女。

 それこそが、
 最も扱いづらい相手だということを。
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