サブスク聖女と偽装婚約、始めました 〜婚約は、サブスクできないのでお断りです〜

ふわふわ

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33話 シナリオ外発言の予感

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33話 シナリオ外発言の予感

 その予感は、根拠がないくせに妙に確信めいていた。

「……これ、絶対に台本どおりにならないわね」

 シャマルは、窓辺で紅茶を飲みながら、ぽつりと呟いた。

 向かいのソファでは、ウィットンが書類をぱらぱらとめくっている。
 内容は、例の“入口だけ決めた”婚約破棄の進行メモだ。

「今さら?」

 顔も上げずに、軽く返ってくる。

「最初から、そういう前提だろ」

「ええ。でもね」

 シャマルは、カップを置いた。

「今回は、“いつものズレ”じゃ済まない気がするの」

「大丈夫だよ」

 ウィットンは、ようやく顔を上げ、にやりと笑った。

「壊れなければ成功、だろ?」

「その“壊れない”の基準が、あなたと私で微妙に違うのよ」

「そう?」

「ええ」

 シャマルは即答した。

「あなたは“場がひっくり返らなければセーフ”だけど、私は“制度として成立していればセーフ”」

「似たようなもんじゃないか」

「ぜんぜん違うわ」


---

 本番は、翌日。

 公式の場。
 立会人も、記録官も、傍聴もいる。

 形式だけ見れば、
 よくある“円満な婚約解消”になる予定だった。

 予定、では。


---

「台詞、確認しておく?」

 ウィットンが聞く。

「いいえ」

 シャマルは首を振った。

「確認すると、守らなきゃいけない気がするから」

「それはそう」

 ウィットンはあっさり同意する。


---

 沈黙。

 しばらくして、シャマルが言った。

「ねえ、ウィットン」

「ん?」

「もし、あなたが場の空気で何か言い出したら」

「言い出したら?」

「私は、止めないわ」

 ウィットンは、少しだけ目を見開いた。

「……へえ」

「その代わり」

 シャマルは、淡々と続ける。

「私も、好きに言う」

 数秒。

 そして、ウィットンは吹き出した。

「それ、
 一番危ない組み合わせじゃないか」

「ええ」

 シャマルは、穏やかに微笑む。

「だから、予感がするの」


---

 二人は似ている。

 計算はできる。
 空気も読める。
 だが――

 “必要ないと思った瞬間に、全部切る”。

 そこが、そっくりだ。


---

「まあ」

 ウィットンが肩をすくめる。

「アルジーナとの婚約は回避できた」

「偽装の目的も果たした」

「なら、
 多少はみ出しても問題ない」

「制度的には?」

「成立すればOK」

「……本当に雑ね」

「今さら?」


---

 シャマルは、窓の外を見た。

 庭は静かだ。
 何事も起きていない。

 だが、
 嵐の前って、だいたいこういうものだ。


---

「ねえ」

 シャマルは、ふと思いついたように言った。

「もし私が」

「“この婚約は、最初から役目のためでした”って言ったら?」

 ウィットンは、即答した。

「それは止める」

「でしょうね」

「政治的に面倒だ」

「じゃあ」

 シャマルは、少し首を傾げる。

「“もう必要なくなったので終わります”なら?」

「……ギリギリ」

「“自由になりたいので解消します”は?」

「アウト」

「基準が雑すぎるわ」

「感覚だからな」


---

 シャマルは、軽く息を吐いた。

「……やっぱり、
 何か起きるわ」

「起きるね」

 ウィットンは、楽しそうに言った。


---

 その時。

 廊下の向こうから、
 ステルヴィオの声が飛んできた。

「おい」

「本番前だぞ」

「余計な打ち合わせ、増やすな」

 二人は、同時に顔を見合わせた。

「……余計、だって」

「失礼ね」

 シャマルが小声で言う。

「これは、心の準備よ」

「その準備が一番危ないんだよ!」


---

 扉が閉まり、足音が遠ざかる。

 再び、二人きり。


---

「結論」

 ウィットンが言った。

「何か言う?」

「ええ」

「俺も?」

「ええ」

「台本通り?」

「入口だけ」

「出口は?」

 シャマルは、静かに笑った。

「その場で考えましょう」


---

 予感は、確信に近づいていた。

 これは、
 “円満な婚約破棄”にはならない。

 かといって、
 失敗でもない。

 二人にとっては、予定どおりの終わり方。

 ただし――
 周囲にとっては、
 少しばかり、想定外になる。

 それだけだ。

 そして翌日。

 その“シナリオ外発言”は、
 確実に、
 公の場で放たれることになる。
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