34 / 41
33話 シナリオ外発言の予感
しおりを挟む
33話 シナリオ外発言の予感
その予感は、根拠がないくせに妙に確信めいていた。
「……これ、絶対に台本どおりにならないわね」
シャマルは、窓辺で紅茶を飲みながら、ぽつりと呟いた。
向かいのソファでは、ウィットンが書類をぱらぱらとめくっている。
内容は、例の“入口だけ決めた”婚約破棄の進行メモだ。
「今さら?」
顔も上げずに、軽く返ってくる。
「最初から、そういう前提だろ」
「ええ。でもね」
シャマルは、カップを置いた。
「今回は、“いつものズレ”じゃ済まない気がするの」
「大丈夫だよ」
ウィットンは、ようやく顔を上げ、にやりと笑った。
「壊れなければ成功、だろ?」
「その“壊れない”の基準が、あなたと私で微妙に違うのよ」
「そう?」
「ええ」
シャマルは即答した。
「あなたは“場がひっくり返らなければセーフ”だけど、私は“制度として成立していればセーフ”」
「似たようなもんじゃないか」
「ぜんぜん違うわ」
---
本番は、翌日。
公式の場。
立会人も、記録官も、傍聴もいる。
形式だけ見れば、
よくある“円満な婚約解消”になる予定だった。
予定、では。
---
「台詞、確認しておく?」
ウィットンが聞く。
「いいえ」
シャマルは首を振った。
「確認すると、守らなきゃいけない気がするから」
「それはそう」
ウィットンはあっさり同意する。
---
沈黙。
しばらくして、シャマルが言った。
「ねえ、ウィットン」
「ん?」
「もし、あなたが場の空気で何か言い出したら」
「言い出したら?」
「私は、止めないわ」
ウィットンは、少しだけ目を見開いた。
「……へえ」
「その代わり」
シャマルは、淡々と続ける。
「私も、好きに言う」
数秒。
そして、ウィットンは吹き出した。
「それ、
一番危ない組み合わせじゃないか」
「ええ」
シャマルは、穏やかに微笑む。
「だから、予感がするの」
---
二人は似ている。
計算はできる。
空気も読める。
だが――
“必要ないと思った瞬間に、全部切る”。
そこが、そっくりだ。
---
「まあ」
ウィットンが肩をすくめる。
「アルジーナとの婚約は回避できた」
「偽装の目的も果たした」
「なら、
多少はみ出しても問題ない」
「制度的には?」
「成立すればOK」
「……本当に雑ね」
「今さら?」
---
シャマルは、窓の外を見た。
庭は静かだ。
何事も起きていない。
だが、
嵐の前って、だいたいこういうものだ。
---
「ねえ」
シャマルは、ふと思いついたように言った。
「もし私が」
「“この婚約は、最初から役目のためでした”って言ったら?」
ウィットンは、即答した。
「それは止める」
「でしょうね」
「政治的に面倒だ」
「じゃあ」
シャマルは、少し首を傾げる。
「“もう必要なくなったので終わります”なら?」
「……ギリギリ」
「“自由になりたいので解消します”は?」
「アウト」
「基準が雑すぎるわ」
「感覚だからな」
---
シャマルは、軽く息を吐いた。
「……やっぱり、
何か起きるわ」
「起きるね」
ウィットンは、楽しそうに言った。
---
その時。
廊下の向こうから、
ステルヴィオの声が飛んできた。
「おい」
「本番前だぞ」
「余計な打ち合わせ、増やすな」
二人は、同時に顔を見合わせた。
「……余計、だって」
「失礼ね」
シャマルが小声で言う。
「これは、心の準備よ」
「その準備が一番危ないんだよ!」
---
扉が閉まり、足音が遠ざかる。
再び、二人きり。
---
「結論」
ウィットンが言った。
「何か言う?」
「ええ」
「俺も?」
「ええ」
「台本通り?」
「入口だけ」
「出口は?」
シャマルは、静かに笑った。
「その場で考えましょう」
---
予感は、確信に近づいていた。
これは、
“円満な婚約破棄”にはならない。
かといって、
失敗でもない。
二人にとっては、予定どおりの終わり方。
ただし――
周囲にとっては、
少しばかり、想定外になる。
それだけだ。
そして翌日。
その“シナリオ外発言”は、
確実に、
公の場で放たれることになる。
その予感は、根拠がないくせに妙に確信めいていた。
「……これ、絶対に台本どおりにならないわね」
シャマルは、窓辺で紅茶を飲みながら、ぽつりと呟いた。
向かいのソファでは、ウィットンが書類をぱらぱらとめくっている。
内容は、例の“入口だけ決めた”婚約破棄の進行メモだ。
「今さら?」
顔も上げずに、軽く返ってくる。
「最初から、そういう前提だろ」
「ええ。でもね」
シャマルは、カップを置いた。
「今回は、“いつものズレ”じゃ済まない気がするの」
「大丈夫だよ」
ウィットンは、ようやく顔を上げ、にやりと笑った。
「壊れなければ成功、だろ?」
「その“壊れない”の基準が、あなたと私で微妙に違うのよ」
「そう?」
「ええ」
シャマルは即答した。
「あなたは“場がひっくり返らなければセーフ”だけど、私は“制度として成立していればセーフ”」
「似たようなもんじゃないか」
「ぜんぜん違うわ」
---
本番は、翌日。
公式の場。
立会人も、記録官も、傍聴もいる。
形式だけ見れば、
よくある“円満な婚約解消”になる予定だった。
予定、では。
---
「台詞、確認しておく?」
ウィットンが聞く。
「いいえ」
シャマルは首を振った。
「確認すると、守らなきゃいけない気がするから」
「それはそう」
ウィットンはあっさり同意する。
---
沈黙。
しばらくして、シャマルが言った。
「ねえ、ウィットン」
「ん?」
「もし、あなたが場の空気で何か言い出したら」
「言い出したら?」
「私は、止めないわ」
ウィットンは、少しだけ目を見開いた。
「……へえ」
「その代わり」
シャマルは、淡々と続ける。
「私も、好きに言う」
数秒。
そして、ウィットンは吹き出した。
「それ、
一番危ない組み合わせじゃないか」
「ええ」
シャマルは、穏やかに微笑む。
「だから、予感がするの」
---
二人は似ている。
計算はできる。
空気も読める。
だが――
“必要ないと思った瞬間に、全部切る”。
そこが、そっくりだ。
---
「まあ」
ウィットンが肩をすくめる。
「アルジーナとの婚約は回避できた」
「偽装の目的も果たした」
「なら、
多少はみ出しても問題ない」
「制度的には?」
「成立すればOK」
「……本当に雑ね」
「今さら?」
---
シャマルは、窓の外を見た。
庭は静かだ。
何事も起きていない。
だが、
嵐の前って、だいたいこういうものだ。
---
「ねえ」
シャマルは、ふと思いついたように言った。
「もし私が」
「“この婚約は、最初から役目のためでした”って言ったら?」
ウィットンは、即答した。
「それは止める」
「でしょうね」
「政治的に面倒だ」
「じゃあ」
シャマルは、少し首を傾げる。
「“もう必要なくなったので終わります”なら?」
「……ギリギリ」
「“自由になりたいので解消します”は?」
「アウト」
「基準が雑すぎるわ」
「感覚だからな」
---
シャマルは、軽く息を吐いた。
「……やっぱり、
何か起きるわ」
「起きるね」
ウィットンは、楽しそうに言った。
---
その時。
廊下の向こうから、
ステルヴィオの声が飛んできた。
「おい」
「本番前だぞ」
「余計な打ち合わせ、増やすな」
二人は、同時に顔を見合わせた。
「……余計、だって」
「失礼ね」
シャマルが小声で言う。
「これは、心の準備よ」
「その準備が一番危ないんだよ!」
---
扉が閉まり、足音が遠ざかる。
再び、二人きり。
---
「結論」
ウィットンが言った。
「何か言う?」
「ええ」
「俺も?」
「ええ」
「台本通り?」
「入口だけ」
「出口は?」
シャマルは、静かに笑った。
「その場で考えましょう」
---
予感は、確信に近づいていた。
これは、
“円満な婚約破棄”にはならない。
かといって、
失敗でもない。
二人にとっては、予定どおりの終わり方。
ただし――
周囲にとっては、
少しばかり、想定外になる。
それだけだ。
そして翌日。
その“シナリオ外発言”は、
確実に、
公の場で放たれることになる。
0
あなたにおすすめの小説
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
婚約破棄されたので、隠していた聖女の力で聖樹を咲かせてみました
Megumi
恋愛
偽聖女と蔑まれ、婚約破棄されたイザベラ。
「お前は地味で、暗くて、何の取り柄もない」
元婚約者である王子はそう言い放った。
十年間、寡黙な令嬢を演じ続けた彼女。
その沈黙には、理由があった。
その夜、王都を照らす奇跡の光。
枯れた聖樹が満開に咲き誇り、人々は囁いた。
「真の聖女が目覚めた」と——
捨てられた私は遠くで幸せになります
高坂ナツキ
恋愛
ペルヴィス子爵家の娘であるマリー・ド・ペルヴィスは来る日も来る日もポーションづくりに明け暮れている。
父親であるペルヴィス子爵はマリーの作ったポーションや美容品を王都の貴族に売りつけて大金を稼いでいるからだ。
そんな苦しい生活をしていたマリーは、義家族の企みによって家から追い出されることに。
本当に家から出られるの? だったら、この機会を逃すわけにはいかない!
これは強制的にポーションを作らせられていた少女が、家族から逃げて幸せを探す物語。
8/9~11は7:00と17:00の2回投稿。8/12~26は毎日7:00に投稿。全21話予約投稿済みです。
遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)
スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」
唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。
四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。
絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。
「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」
明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは?
虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!
【完結】婚約破棄して泥を投げつけた元婚約者が「無能」と笑う中、光り輝く幼なじみの王子に掠め取られました。
ムラサメ
恋愛
「お前のような無能、我が家には不要だ。今すぐ消えろ!」
婚約者・エドワードのために身を粉にして尽くしてきたフィオナは、卒業パーティーの夜、雨の中に放り出される。
泥にまみれ、絶望に沈む彼女の前に現れたのは、かつての幼なじみであり、今や国中から愛される「黄金の王子」シリルだった。
「やっと見つけた。……ねえ、フィオナ。あんなゴミに君を傷つけさせるなんて、僕の落ち度だね」
汚れを厭わずフィオナを抱き上げたシリルは、彼女を自分の屋敷へと連れ帰る。
「自分には価値がない」と思い込むフィオナを、シリルは異常なまでの執着と甘い言葉で、とろけるように溺愛し始めて――。
一方で、フィオナを捨てたエドワードは気づいていなかった。
自分の手柄だと思っていた仕事も、領地の繁栄も、すべてはフィオナの才能によるものだったということに。
ボロボロになっていく元婚約者。美しく着飾られ、シリルの腕の中で幸せに微笑むフィオナ。
「僕の星を捨てた報い、たっぷりと受けてもらうよ?」
圧倒的な光を放つ幼なじみによる、最高に華やかな逆転劇がいま始まる!
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる