『「君は飾りだ」と言われた公爵令嬢、契約通りに王太子を廃嫡へ導きました』

ふわふわ

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第七話 功績の名義

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第七話 功績の名義

王宮の演説台の前で、アルヴィオンは原稿を握りしめていた。

今日は、軍備改革の進捗を報告する日。

本来なら、称賛を浴びる場だった。

「殿下、原稿を……」

側近が差し出す書類を受け取り、アルヴィオンは眉をひそめる。

妙に短い。

「詳細は?」

「……確認が取れておりません」

「何だと?」

「各工程の実務報告が、未提出です」

アルヴィオンは舌打ちする。

「担当官は何をしている!」

「それが……」

側近は言いにくそうに続ける。

「担当官は、カーディス家から派遣されておりました」

空気が冷える。

「今は?」

「撤収済みでございます」

アルヴィオンの胸に、重いものが落ちる。

そうだ。

軍備改革の書類整理、予算配分、工程管理。

そのほとんどを、アデルフィーナが調整していた。

だが彼は、それを“当然”と思っていた。

演説が始まる。

貴族たちの視線が集まる。

アルヴィオンは口を開く。

「軍備改革は順調に――」

言葉が止まる。

数字が、曖昧だ。

工程が、説明できない。

質疑が飛ぶ。

「具体的な達成率は?」 「予算配分の内訳は?」

側近が慌てて耳打ちするが、資料は未整理。

会場の空気が、微妙に変わる。

かつては称賛だった視線が、今は疑念を含む。

「……詳細は後日報告する」

それが精一杯だった。

演説は拍手の少ないまま終わる。

控室に戻るや否や、アルヴィオンは机を叩いた。

「なぜ準備されていない!」

「保証停止に伴い、補助人員が全員引き上げられました」

側近の声は冷静だ。

「補助人員?」

「アデルフィーナ嬢の管理下にあった実務官たちです」

アルヴィオンは言葉を失う。

自分の功績だと信じていたもの。

それは、彼女の采配の上に成り立っていた。

一方、カーディス公爵邸。

書斎では、アデルフィーナが新たな報告書に目を通していた。

「王太子殿下の演説は、不調だったようです」

執事が静かに告げる。

「そうですか」

彼女は特に驚かない。

「進捗管理が不十分だったのでしょう」

「お嬢様が関与なさらないと、混乱が目立ちます」

アデルフィーナは紅茶を口にする。

「私はもう、関与しておりません」

それだけ。

侍女が小さく問う。

「殿下は、気づかれていなかったのでしょうか」

「おそらく」

彼女は淡々と答える。

「功績とは、名義だけで成立するものではありません」

書棚に並ぶ帳簿。

そこには、彼女の手で整えられた無数の記録。

「殿下は、名義を持っていらした」

視線を上げる。

「実務は、私が担っておりました」

夜。

王宮の執務室で、アルヴィオンは過去の資料を漁っていた。

そこには、整然とした報告書。

流れるような筆跡。

アデルフィーナの署名。

その署名が、今はない。

代わりに、空白。

空白が、これほど重いとは思わなかった。

「……戻れば、解決する」

彼は呟く。

「婚約を戻せば」

だがその言葉は、虚しい。

公に破棄したものを、どう戻す。

扉が叩かれる。

「陛下がお呼びです」

再び、父のもとへ。

謁見室に入ると、国王は一枚の書類を差し出した。

「これを読め」

それは、軍備改革の初期提案書。

提案者名。

アデルフィーナ・カーディス。

アルヴィオンの喉が鳴る。

「……これは」

「お前の功績とされていたものだ」

国王の声は静かだ。

「実際の設計者は誰だ」

答えは明白。

アルヴィオンは、初めて真正面から現実を見た。

功績の名義。

それは、自分のものではなかった。

夜風が王宮の窓を叩く。

カーディス邸では、薔薇が揺れている。

アデルフィーナは窓辺で月を見上げる。

静かな夜。

歯車は、さらに軋みを増していた。

止まりかけているのは、事業だけではない。

王太子という名義そのものが、

少しずつ、剥がれ始めていた。
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