『「君は飾りだ」と言われた公爵令嬢、契約通りに王太子を廃嫡へ導きました』

ふわふわ

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第十三話 暴かれる帳簿

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第十三話 暴かれる帳簿

王宮の財務室に、異様な緊張が走っていた。

長机の上に広げられた帳簿。 分厚い革表紙のそれは、カーディス公爵家から正式に提出された写しである。

「……これが、過去五年の資金補填記録か」

筆頭財務官が、静かに頁をめくる。

そこには、整然とした数字。 緻密な注釈。 そして、必ず記されている署名。

――アデルフィーナ・カーディス。

「軍備改革の不足分、三度補填」 「港湾整備の資材前払い保証」 「外交使節の滞在費一部肩代わり」

赤い印が、淡々と示す。

“公爵家一時立替”。

財務官たちは顔を見合わせる。

「殿下は、ご存じだったのか」

誰も答えない。

その頃、執務室。

アルヴィオンは机に肘をつき、額を押さえていた。

「何だと?」

側近が帳簿を差し出す。

「本日、公爵家より正式な報告が届きました」

ページをめくるたびに、胸が重くなる。

知らなかった。

いや、気にしていなかった。

予算が足りないと報告が上がれば、次には解決していた。 遅延が出れば、翌週には整っていた。

それを“自分の手腕”だと信じていた。

だが実際は。

「立替……?」

低い声が漏れる。

「はい。殿下の改革案を実現するため、公爵家が不足分を一時的に補填しておりました」

アルヴィオンは言葉を失う。

「なぜ、報告が上がらなかった」

「公爵家より“殿下の功績を損なわぬように”との配慮が」

空気が凍る。

それは、守られていたという事実。

そして、自分は。

守られていたことにすら、気づかなかった。

「……公にするな」

低く言う。

「既に、財務部内では共有されております」

それは止められない流れ。

帳簿は真実だ。

そして真実は、重い。

同じ頃、カーディス公爵邸。

書斎では、アデルフィーナが新たな書簡を整えていた。

「王宮へ帳簿の写しを提出いたしました」

執事が報告する。

「ええ」

彼女は穏やかだ。

「求められましたので」

侍女が不安げに尋ねる。

「公に……なるのでしょうか」

「いずれ」

淡々とした答え。

「帳簿は嘘をつきませんもの」

窓の外では、風が強まっている。

薔薇の花びらが舞う。

「お嬢様は、悔しくはないのですか」

侍女の問い。

「功績を横取りされていたのに」

アデルフィーナは少し考える。

「横取りとは思っておりません」

「では……」

「婚約者の功績は、共有でございます」

静かな声。

「ただ、婚約が終了した以上、共有も終了するだけです」

線引き。

それだけ。

王宮。

国王は帳簿を読み終え、ゆっくりと閉じた。

「……賢い娘だ」

その評価は、低く重い。

側近が問う。

「公にいたしますか」

「必要があれば」

国王の目が細まる。

「アルヴィオンは、自らの立場を理解していなかった」

王太子の私室。

アルヴィオンは帳簿を握りしめている。

胸の奥に、言葉にならないものが渦巻く。

怒りか。 羞恥か。 焦りか。

「……私の功績だ」

呟きは弱い。

だが帳簿は否定する。

署名は彼女のもの。

設計も、補填も。

彼女が担っていた。

扉が叩かれる。

「殿下、南方領主が再び抗議を」

返事ができない。

外では、噂が広がり始めていた。

「軍備改革は公爵家の資金で支えられていた」 「王太子は名義だけだった」

囁きは静かだ。

だが確実に広がる。

カーディス邸。

アデルフィーナは月明かりの下、静かに立っている。

「お嬢様、王宮が揺れております」

「でしょうね」

彼女は振り返らない。

「帳簿は、正直ですから」

夜風が吹き抜ける。

歯車は、さらに軋む。

暴かれたのは数字だけではない。

名義の虚構。

そして、王太子の立脚点。

それはゆっくりと、崩れ始めていた。
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