『「君は飾りだ」と言われた公爵令嬢、契約通りに王太子を廃嫡へ導きました』

ふわふわ

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第十四話 義妹の苛立ち

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第十四話 義妹の苛立ち

王宮の一室。

鏡の前に立つミレイアは、いつもよりも強く唇を結んでいた。

淡い桃色のドレス。 完璧な巻き髪。 揺れる真珠の耳飾り。

見た目は、何一つ変わらない。

だが、空気が違う。

「……どうして」

鏡の中の自分に問いかける。

昨日の茶会で、三家が欠席した。 一昨日は、侯爵令嬢が途中退席。 今日は、伯爵夫人が視線を逸らした。

以前なら、中心だったはず。

王太子の隣に立つ、未来の王太子妃。

それなのに。

侍女が小声で告げる。

「本日の招待状ですが、数件辞退が……」

「理由は?」

「体調不良とのことです」

体調不良。

便利な言葉。

ミレイアは鏡台を強く掴む。

「私が悪いの?」

侍女は黙る。

その沈黙が、答えのように重い。

同じ頃、王宮の執務室。

アルヴィオンは帳簿を睨んでいた。

「なぜ、今さら公表する」

側近が静かに言う。

「公表ではございません。財務部への正式報告です」

「結果は同じだ!」

噂は既に広がっている。

軍備改革は公爵家の資金で支えられていた。

港湾整備も同様。

功績の名義が、揺らいでいる。

その揺れは、王太子妃候補にも影響する。

「殿下」

側近が慎重に告げる。

「ミレイア嬢への風当たりが強くなっております」

アルヴィオンは眉をひそめる。

「なぜだ」

「殿下の選択の象徴と見られております」

象徴。

その言葉は冷たい。

一方、カーディス公爵邸。

午後の陽光が穏やかに差し込む応接室。

アデルフィーナは招かれた侯爵夫人と向かい合っていた。

「お嬢様は、実にお強い」

侯爵夫人は紅茶を口にしながら言う。

「殿下が戻られたとか」

「ええ」

「お断りに?」

「はい」

短い答え。

そこに迷いはない。

侯爵夫人は目を細める。

「社交界は、賢い令嬢を求めております」

その意味は明白だ。

王太子妃候補は、一人ではない。

アデルフィーナは微笑む。

「私は、求められる立場ではございませんわ」

穏やかに、だがはっきりと。

「選ぶ立場です」

侯爵夫人は静かに頷く。

風向きは、変わっている。

王宮。

ミレイアはアルヴィオンの私室を訪れていた。

「殿下」

甘い声。

だがどこか尖っている。

「最近、周囲の態度が……」

「気にするな」

短い返答。

「でも」

彼女は一歩近づく。

「皆、お姉さまの話ばかり」

その一言に、アルヴィオンの表情が硬くなる。

「今はその話はするな」

「どうして?」

声が高くなる。

「私が隣にいるのよ? 私を選んだのでしょう?」

空気が張り詰める。

アルヴィオンは視線を逸らす。

「選んだ」

だがその声には確信がない。

「なら、どうしてお姉さまの帳簿なんて出回るの?」

苛立ちが滲む。

「私の立場が揺らぐじゃない!」

その言葉に、アルヴィオンの眉が寄る。

「立場?」

「王太子妃よ!」

沈黙。

以前なら、彼はその言葉に酔った。

だが今は違う。

「今は、国の問題だ」

「私も関係あるわ!」

声が鋭い。

アルヴィオンは初めて、彼女を真正面から見る。

甘さの奥に、焦り。 不安。 そして、苛立ち。

それは、アデルフィーナにはなかったもの。

「落ち着け」

冷たい声。

ミレイアの目が揺れる。

「……殿下?」

距離が、わずかに広がる。

その夜。

王都では囁きが広がる。

「王太子の選択は正しかったのか」 「公爵令嬢の方が有能では」

噂は止まらない。

カーディス邸。

アデルフィーナは月明かりの下、静かに立つ。

「お嬢様、義妹様が苛立っておられるようです」

執事が告げる。

「そうでしょうね」

彼女は穏やかだ。

「立場とは、与えられるものではなく、積み重ねるものです」

風が薔薇を揺らす。

棘が光る。

苛立ちは、やがて判断を誤らせる。

そしてその誤りは、静かに積み重なっていく。

歯車は、さらに軋みを増していた。
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