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第29話 均衡の自覚
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第29話 均衡の自覚
王都の貴族街は、いつもと変わらぬ華やかさを保っていた。
舞踏会も開かれている。
楽団も奏でている。
笑い声もある。
だが、話題が変わった。
「北へ投資を回そうかと」
「王都は様子を見るべきだ」
「流れが読めない」
恐怖ではない。
“慎重”という選択。
それが広がっている。
王城では、ついに正式な報告がまとめられた。
「三十日未満で、小規模事故三十七件」
財務官が淡々と告げる。
「全て軽微。しかし累積補修費は例年比二倍」
「死者は」
「なし」
「致命傷ではない」
宰相は首を横に振る。
「殿下。致命傷ではなく、慢性出血です」
その言葉が静かに刺さる。
王太子アシュレイは椅子に深く沈む。
「……均衡、か」
ついに、その言葉を口にした。
同じ頃、辺境伯領。
城下では豊穣祭の準備が進んでいる。
例年より収穫が早く、穂は重い。
「今年は当たり年だ!」
農夫が笑う。
事故報告は今日もゼロ。
商会はさらに二つ移転。
家令が報告する。
「王都の先物契約の一部が、こちらへ」
ディルクは地図の上で指を動かす。
「物流の中心が、完全に北寄りになった」
私は塔の上で空を見上げる。
胸の灯は、変わらず一定。
強くも弱くもない。
ただ、整っている。
私は初めて、はっきりと理解する。
これは祝福ではない。
奇跡でもない。
“整え”だ。
重ならぬよう、崩れぬよう、削られぬよう。
均衡を保つための静かな力。
王都では重なる。
辺境では重ならない。
それだけの差。
夜。
王妃はアシュレイに向き合う。
「迷信ではありません」
「……証明はない」
「だが、結果はある」
沈黙。
アシュレイは窓の外を見る。
王都はまだ立っている。
だが、削られている。
「彼女は戻らない」
彼は低く言う。
「ならば、どうする」
王妃の問いに、答えはない。
辺境の空は澄んでいる。
私は遠く王都の方角を見る。
あの日、断たれた縁。
戻らなかった書状。
それでも、私は揺れていない。
二十九日目。
王都はついに、自ら均衡を失ったことを自覚した。
王都の貴族街は、いつもと変わらぬ華やかさを保っていた。
舞踏会も開かれている。
楽団も奏でている。
笑い声もある。
だが、話題が変わった。
「北へ投資を回そうかと」
「王都は様子を見るべきだ」
「流れが読めない」
恐怖ではない。
“慎重”という選択。
それが広がっている。
王城では、ついに正式な報告がまとめられた。
「三十日未満で、小規模事故三十七件」
財務官が淡々と告げる。
「全て軽微。しかし累積補修費は例年比二倍」
「死者は」
「なし」
「致命傷ではない」
宰相は首を横に振る。
「殿下。致命傷ではなく、慢性出血です」
その言葉が静かに刺さる。
王太子アシュレイは椅子に深く沈む。
「……均衡、か」
ついに、その言葉を口にした。
同じ頃、辺境伯領。
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「今年は当たり年だ!」
農夫が笑う。
事故報告は今日もゼロ。
商会はさらに二つ移転。
家令が報告する。
「王都の先物契約の一部が、こちらへ」
ディルクは地図の上で指を動かす。
「物流の中心が、完全に北寄りになった」
私は塔の上で空を見上げる。
胸の灯は、変わらず一定。
強くも弱くもない。
ただ、整っている。
私は初めて、はっきりと理解する。
これは祝福ではない。
奇跡でもない。
“整え”だ。
重ならぬよう、崩れぬよう、削られぬよう。
均衡を保つための静かな力。
王都では重なる。
辺境では重ならない。
それだけの差。
夜。
王妃はアシュレイに向き合う。
「迷信ではありません」
「……証明はない」
「だが、結果はある」
沈黙。
アシュレイは窓の外を見る。
王都はまだ立っている。
だが、削られている。
「彼女は戻らない」
彼は低く言う。
「ならば、どうする」
王妃の問いに、答えはない。
辺境の空は澄んでいる。
私は遠く王都の方角を見る。
あの日、断たれた縁。
戻らなかった書状。
それでも、私は揺れていない。
二十九日目。
王都はついに、自ら均衡を失ったことを自覚した。
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