侯爵令嬢の四十日間 ――均衡が国を変えるまで

ふわふわ

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第28話 傾く主軸

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第28話 傾く主軸

王都の港は、目に見えて静かになっていた。

帆は上がっている。
船もある。
荷も積まれている。

だが、出航数が減っている。

「北路経由の契約が増えました」

港湾管理官が報告する。

「王都を中継せず、直接辺境へ流す動きです」

「理由は」

「……安定」

またその言葉。

王太子アシュレイは窓から港を見下ろす。

止まってはいない。

だが、減っている。

商人は逃げてはいない。

ただ、選んでいる。

「国は崩れていない」

彼は呟く。

だが、中心が揺らいでいる。

宰相が静かに告げる。

「殿下。主軸が傾いております」

「王都が主軸だ」

「流れが集まる場所が主軸です」

沈黙。

同じ頃、辺境伯領。

新倉庫の前に、王都の大商会の旗が掲げられた。

「正式に移転です」

家令の声が弾む。

「今月の取引量、過去最高」

城下は活気づく。

馬は落ち着き、橋は揺れず、火は暴れない。

畑では穂が揃い、風は一定。

私は塔の上に立つ。

胸の灯は、今日も変わらない。

整っている。

流れが、整っている。

ディルクが隣に立つ。

「王都が関税を強めたらしい」

「商人は」

「さらに北へ動いた」

力で止めようとすれば、流れは迂回する。

それは水と同じだ。

王都。

聖女セシリアは祈祷を終え、立ち上がれずにいた。

「……効き目が薄い」

祈りは発動する。

だが、連鎖は止まらない。

「私は光です」

彼女は小さく言う。

「ですが、土台ではありません」

王妃はその言葉を静かに受け止める。

土台。

均衡を保っていた土台。

それは戻らない。

夜。

王都の空は曇り、湿った風が流れる。

辺境の空は澄み、星が安定している。

私は遠くを見る。

あの日、断ち切られた縁。

戻らなかった返書。

それでも、私は揺れていない。

主軸は、ゆっくりと移動している。

二十八日目。

王都はまだ王都だ。

だが、主軸は傾き始めていた。
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