侯爵令嬢の四十日間 ――均衡が国を変えるまで

ふわふわ

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第27話 削られる信用

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第27話 削られる信用

王都の商業区では、帳簿の数字より先に、表情が曇っていた。

「また輸送が遅れた」
「馬が足を滑らせたらしい」
「怪我は軽いが、商品が濡れた」

損失は小さい。

だが“また”が増えていく。

商人たちは損失額よりも、予測不能を嫌う。

「北は予定通りだそうだ」
「事故がないらしい」

その言葉が、静かに信用を削る。

王城。

「信用の低下が始まっております」

財務官の声は冷たい。

「税収は維持されていますが、先物契約が減少」

「恐怖ではない」

宰相が補足する。

「“避けたい”という心理です」

王太子アシュレイは机を強く叩く。

「国は安定している!」

「数字上は、です」

その返答に、彼は言葉を失う。

安定しているはずなのに、安定していない。

聖女セシリアは祈祷後、膝をついていた。

「……効き目が、さらに短くなっています」

「限界か?」

「いいえ。ただ……何かが足りないのです」

足りない。

その言葉が、重く響く。

同じ頃、辺境伯領。

倉庫の拡張が終わり、商人たちが新たな契約を結ぶ。

「北に集めよう」
「安定している」

家令が報告する。

「商会十二、正式に拠点移転」

ディルクは地図を見つめる。

「物流の主軸が動いたな」

私は静かに頷く。

流れは、形を持ち始めている。

畑では豊穣が確定し、診療所は平穏。

事故報告は今日もゼロ。

胸の灯は、変わらず一定。

夜。

王都では、ついに一つの噂が公然と語られる。

「均衡が崩れた」

誰も“幸いの血”とは口にしない。

だが、意味は共有されている。

王妃はアシュレイに向き合う。

「殿下。戻らぬと決めたのは、あなたです」

「国のためだ」

「今も、ですか」

沈黙。

辺境の塔。

私は遠くの雲を見つめる。

王都は崩れていない。

だが信用が削られている。

信用は、橋より脆い。

崩れれば、戻らない。

二十七日目。

王都はまだ立っている。

だが、削られるのは石ではなく、信頼だった。
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