侯爵令嬢の四十日間 ――均衡が国を変えるまで

ふわふわ

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第26話 止まらぬ連鎖

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第26話 止まらぬ連鎖

王都の朝は、鈍い音から始まった。

城壁の一部が、音もなく崩れたのだ。

規模は小さい。
兵士二名が軽傷。
通行止めは半日で解除。

「また軽微だ」

報告を受けた王太子アシュレイは、疲れを隠せなかった。

軽微。
小規模。
致命的ではない。

だが二十六日目。

止まらない。

「偶然の連鎖です」

財務官はそう言う。

「補修費は増えておりますが、破綻には至っておりません」

「破綻しなければ問題ないのか」

宰相が静かに返す。

「商人の心理は、数字より速い」

王都の市場では、ささやきが確信に変わり始めていた。

「王都は流れが悪い」
「北へ行くべきだ」
「事故は小さいが、続きすぎる」

恐怖ではない。
不安でもない。

“嫌な感じ”

それが積み重なる。

聖女セシリアは祈りを続ける。

光は放たれる。
病は一旦止まる。

だが翌日、別の地区で再発。

「……私では、止めきれません」

彼女は小さく呟く。

アシュレイは何も言えない。

同じ頃、辺境伯領。

風は穏やか。
雲は整い、畑は順調。

新倉庫の屋根が完成する。

「事故なし!」
「予定通り!」

職人たちが笑う。

私は城壁の上からそれを見下ろす。

胸の奥の灯は、今日も変わらない。

強くもなく、弱くもない。

ただ、一定。

ディルクが報告を持ってくる。

「王都の城壁崩落」

「被害は」

「軽傷のみ」

私は静かに目を閉じる。

連鎖。

止まらぬ連鎖。

王都では“止まらない”。

辺境では“起きない”。

それが何を意味するのか。

夜。

王妃は再び古文書を開いていた。

――幸いの血は、災を払わぬ。

――ただ、重ならぬよう整える。

整える。

王妃は静かに呟く。

「整っていないのだ」

王都は崩れてはいない。

だが、整っていない。

一つ一つは小さい。

だが積み重なる。

それが国を削る。

塔の上で、私は王都の方角を見る。

薄い雲が低く垂れ込める。

辺境の星は澄んでいる。

私は何もしていない。

祈りも、術もない。

ただ、ここにいる。

それでも。

止まらぬ連鎖は、王都だけで続く。

二十六日目。

偶然は、もはや偶然と呼べなくなっていた。
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