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第26話 逆上は、理性の最期を告げる
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第26話 逆上は、理性の最期を告げる
拒絶されることに、人は慣れていない。
ましてそれが、
「こちらが上である」と信じて疑わなかった立場ならば、なおさらだ。
王国・王城。
謁見の間ではなく、
あえて小さな会議室が使われていた。
誰も、大きな声を出せる空気ではなかった。
「……拒否、だと?」
アルノルトの声は低く、
だが抑えきれていない苛立ちが滲んでいた。
「はい」
報告役の官僚が、慎重に言葉を選ぶ。
「公爵家として、正式に――」
「聞こえている!」
机を叩く音が、室内に響く。
官僚たちは、誰も目を合わせない。
その沈黙が、
さらに彼を苛立たせた。
「白い結婚だろう!」
アルノルトは、吐き捨てるように言った。
「形だけの関係のはずだ!
なぜ、そこまで固執する!」
――その時点で、
すでに答えは出ていた。
彼は、まだ理解していない。
「……殿下」
恐る恐る、宰相が口を開く。
「それは、我々の認識です」
「何?」
「公国側では、
公爵夫人はすでに中枢の一員として扱われています」
アルノルトの表情が、歪む。
「……奪われた、と言いたいのか」
「いいえ」
宰相は、首を振った。
「“与えなかった”結果です」
その一言で、
空気が凍りついた。
「……黙れ」
アルノルトは、低く言った。
「我々が、
あの女を追い出したとでも?」
誰も、答えない。
答えられないのではない。
答える必要がないのだ。
事実は、すでに外に出ている。
「……なら、声明を出せ」
アルノルトは、勢いで言った。
「公国は、王国の人材を不当に囲い込んでいる、とな」
「殿下、それは――」
「従え!」
反論は、許されなかった。
数日後。
王国は、公式声明を出した。
内容は、曖昧で、
だが意図だけは明確だった。
――
シュタインベルク公国は、
王国の貴族を政治利用している。
それは、外交文書としては、
最低限の礼節すら欠いていた。
当然、反応は即座だった。
「……これは」
シュタインベルク公国・外務局。
「抗議文を出すべきでしょうか」
職員が問う。
セラフィナは、文書に目を通し、
静かに首を振った。
「いいえ」
「ですが……」
「抗議は、
“対話の余地がある相手”に行うものです」
その言葉に、場が静まる。
「今回は、記録に残すだけで十分です」
「……つまり」
「彼ら自身に、
“公式に恥をかかせる”必要はありません」
淡々とした声。
だが、その判断は冷酷ではない。
合理的だった。
「すでに、
信用は落ちています」
カルヴァスが、補足する。
「これ以上、
我々が何かする必要はない」
数日後。
王国の声明は、
周辺諸国に冷ややかに受け取られた。
「……随分と感情的だな」
「内情が、相当まずいのでは?」
「“囲い込み”とは、
使う側の言葉だ」
そして、最も致命的だったのは。
誰も、王国の味方をしなかったこと。
夜。
アルノルトは、一人で酒杯を煽っていた。
「……なぜだ」
誰にともなく、呟く。
「白い結婚のはずだった……
ただの駒だった……」
その言葉は、
すでに現実から乖離している。
彼は、まだ理解していない。
白い結婚とは、
“価値を持たない関係”ではない。
――
価値を育てるかどうかを、
当事者に委ねた関係だ。
それを放棄したのは、
王国自身だった。
一方、シュタインベルク公国。
公爵邸の灯りは、穏やかだった。
「……声明、読みましたわ」
セラフィナが、静かに言う。
「気にする必要はない」
カルヴァスは、即答した。
「感情で動いた者は、
必ず次の一手を誤る」
彼女は、少し考えてから頷く。
「ええ。
もう、“ざまぁ”は始まっています」
それは、復讐ではない。
選ばれなくなった結果を、
静かに受け取らせるだけ。
逆上は、
理性が尽きた証だ。
そして、理性を失った国家は――
自ら、崩れる。
拒絶されることに、人は慣れていない。
ましてそれが、
「こちらが上である」と信じて疑わなかった立場ならば、なおさらだ。
王国・王城。
謁見の間ではなく、
あえて小さな会議室が使われていた。
誰も、大きな声を出せる空気ではなかった。
「……拒否、だと?」
アルノルトの声は低く、
だが抑えきれていない苛立ちが滲んでいた。
「はい」
報告役の官僚が、慎重に言葉を選ぶ。
「公爵家として、正式に――」
「聞こえている!」
机を叩く音が、室内に響く。
官僚たちは、誰も目を合わせない。
その沈黙が、
さらに彼を苛立たせた。
「白い結婚だろう!」
アルノルトは、吐き捨てるように言った。
「形だけの関係のはずだ!
なぜ、そこまで固執する!」
――その時点で、
すでに答えは出ていた。
彼は、まだ理解していない。
「……殿下」
恐る恐る、宰相が口を開く。
「それは、我々の認識です」
「何?」
「公国側では、
公爵夫人はすでに中枢の一員として扱われています」
アルノルトの表情が、歪む。
「……奪われた、と言いたいのか」
「いいえ」
宰相は、首を振った。
「“与えなかった”結果です」
その一言で、
空気が凍りついた。
「……黙れ」
アルノルトは、低く言った。
「我々が、
あの女を追い出したとでも?」
誰も、答えない。
答えられないのではない。
答える必要がないのだ。
事実は、すでに外に出ている。
「……なら、声明を出せ」
アルノルトは、勢いで言った。
「公国は、王国の人材を不当に囲い込んでいる、とな」
「殿下、それは――」
「従え!」
反論は、許されなかった。
数日後。
王国は、公式声明を出した。
内容は、曖昧で、
だが意図だけは明確だった。
――
シュタインベルク公国は、
王国の貴族を政治利用している。
それは、外交文書としては、
最低限の礼節すら欠いていた。
当然、反応は即座だった。
「……これは」
シュタインベルク公国・外務局。
「抗議文を出すべきでしょうか」
職員が問う。
セラフィナは、文書に目を通し、
静かに首を振った。
「いいえ」
「ですが……」
「抗議は、
“対話の余地がある相手”に行うものです」
その言葉に、場が静まる。
「今回は、記録に残すだけで十分です」
「……つまり」
「彼ら自身に、
“公式に恥をかかせる”必要はありません」
淡々とした声。
だが、その判断は冷酷ではない。
合理的だった。
「すでに、
信用は落ちています」
カルヴァスが、補足する。
「これ以上、
我々が何かする必要はない」
数日後。
王国の声明は、
周辺諸国に冷ややかに受け取られた。
「……随分と感情的だな」
「内情が、相当まずいのでは?」
「“囲い込み”とは、
使う側の言葉だ」
そして、最も致命的だったのは。
誰も、王国の味方をしなかったこと。
夜。
アルノルトは、一人で酒杯を煽っていた。
「……なぜだ」
誰にともなく、呟く。
「白い結婚のはずだった……
ただの駒だった……」
その言葉は、
すでに現実から乖離している。
彼は、まだ理解していない。
白い結婚とは、
“価値を持たない関係”ではない。
――
価値を育てるかどうかを、
当事者に委ねた関係だ。
それを放棄したのは、
王国自身だった。
一方、シュタインベルク公国。
公爵邸の灯りは、穏やかだった。
「……声明、読みましたわ」
セラフィナが、静かに言う。
「気にする必要はない」
カルヴァスは、即答した。
「感情で動いた者は、
必ず次の一手を誤る」
彼女は、少し考えてから頷く。
「ええ。
もう、“ざまぁ”は始まっています」
それは、復讐ではない。
選ばれなくなった結果を、
静かに受け取らせるだけ。
逆上は、
理性が尽きた証だ。
そして、理性を失った国家は――
自ら、崩れる。
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