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第27話 扉を閉めたのは、誰だったか
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第27話 扉を閉めたのは、誰だったか
外交とは、選択の積み重ねだ。
一つ一つは小さく見えても、
積み上がった結果は――取り返しがつかない。
王国・外務省。
朝から、執務室は落ち着かない空気に包まれていた。
「……返書が、来ていません」
若い外交官が、恐る恐る報告する。
「どこからだ」
「すべてです。
シュタインベルク公国だけでなく、
北方同盟、港湾連合、商業都市連盟……」
沈黙。
それは、拒否ではない。
無視だ。
「……あり得ない」
外務大臣が、乾いた声で言う。
「我が国は、正式な声明を出した。
抗議なり、反論なりが来るのが普通だろう」
「ですが……」
外交官は、言葉を濁す。
「“反論する価値がない”
と、判断された可能性があります」
その言葉は、
刃物よりも鋭かった。
同時刻、王城。
「……どういうことだ」
アルノルトは、報告書を机に叩きつけた。
「我々を、無視するなど!」
「殿下……」
宰相が、慎重に口を開く。
「無視されているのは、
感情的な声明のみです」
「同じことだ!」
「いいえ」
宰相は、首を振った。
「違います。
彼らは、王国そのものを否定しているのではない」
アルノルトが、睨みつける。
「では、何だと言う」
「……王国の意思決定能力です」
その一言で、
室内が凍りついた。
「責任の所在が曖昧で、
昨日と今日で方針が変わる国と、
長期的な交渉はできません」
「……」
「彼らは、
扉を閉めたのではありません」
宰相は、静かに言った。
「開けないだけです」
アルノルトは、理解しない。
いや、理解したくなかった。
「……なら、こちらから閉めてやればいい」
その言葉が、
決定打だった。
「シュタインベルク公国との定期外交窓口を、
一時凍結する」
「殿下、それは――」
「聞こえなかったか!」
机を叩く。
「向こうが応じないなら、
こちらも応じる必要はない!」
誰も、止められなかった。
数日後。
王国は、正式に発表した。
――
シュタインベルク公国との外交協議を、
期限未定で凍結する。
その知らせは、
王国国内では「強気な姿勢」として報じられた。
だが、国外の反応は違った。
「……自分で、窓を塞いだのか?」
「交渉力がない国が、
交渉を拒否するとは」
「孤立を、宣言したようなものだな」
そして、
最も冷静な評価は、これだった。
――
“もう、相手にする必要がない”
シュタインベルク公国・公爵邸。
「外交凍結、だそうです」
報告を受け、カルヴァスは眉一つ動かさない。
「そうか」
それだけ。
「……対応は?」
側近が問う。
「不要だ」
カルヴァスは、淡々と答える。
「彼らが閉めた扉を、
我々が叩く理由はない」
セラフィナは、その様子を静かに見ていた。
「……これで」
彼女が、ぽつりと言う。
「王国は、
自分で“戻れない位置”に立ちました」
「君は、どう感じている」
カルヴァスが、彼女を見る。
セラフィナは、少し考えた。
「……悲しさは、ありません」
「憎しみは?」
「それも、ありません」
彼女は、静かに首を振る。
「ただ、確認しただけです」
「何をだ」
「私が、あの国に戻らない理由は、
正しかったと」
その言葉は、淡々としているが、揺れはない。
夜。
公爵邸の書斎で、セラフィナは一通の報告書を閉じた。
そこには、王国関連の項目が、
短い注釈でまとめられている。
――
「外交ルート凍結。
今後の直接交渉、予定なし。」
(……終わりましたわね)
彼女は、ランプの火を見つめる。
王国は、誰かに追い出されたわけではない。
選ばれなかったのでもない。
自分で、扉を閉めただけだ。
そして――
閉めた扉の向こうに、
自分が戻る必要は、もうない。
静かな確信が、胸に広がる。
ざまぁは、
笑うためのものではない。
――
過去を振り返らず、
前に進めるようになるための、
終止符だ。
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外交とは、選択の積み重ねだ。
一つ一つは小さく見えても、
積み上がった結果は――取り返しがつかない。
王国・外務省。
朝から、執務室は落ち着かない空気に包まれていた。
「……返書が、来ていません」
若い外交官が、恐る恐る報告する。
「どこからだ」
「すべてです。
シュタインベルク公国だけでなく、
北方同盟、港湾連合、商業都市連盟……」
沈黙。
それは、拒否ではない。
無視だ。
「……あり得ない」
外務大臣が、乾いた声で言う。
「我が国は、正式な声明を出した。
抗議なり、反論なりが来るのが普通だろう」
「ですが……」
外交官は、言葉を濁す。
「“反論する価値がない”
と、判断された可能性があります」
その言葉は、
刃物よりも鋭かった。
同時刻、王城。
「……どういうことだ」
アルノルトは、報告書を机に叩きつけた。
「我々を、無視するなど!」
「殿下……」
宰相が、慎重に口を開く。
「無視されているのは、
感情的な声明のみです」
「同じことだ!」
「いいえ」
宰相は、首を振った。
「違います。
彼らは、王国そのものを否定しているのではない」
アルノルトが、睨みつける。
「では、何だと言う」
「……王国の意思決定能力です」
その一言で、
室内が凍りついた。
「責任の所在が曖昧で、
昨日と今日で方針が変わる国と、
長期的な交渉はできません」
「……」
「彼らは、
扉を閉めたのではありません」
宰相は、静かに言った。
「開けないだけです」
アルノルトは、理解しない。
いや、理解したくなかった。
「……なら、こちらから閉めてやればいい」
その言葉が、
決定打だった。
「シュタインベルク公国との定期外交窓口を、
一時凍結する」
「殿下、それは――」
「聞こえなかったか!」
机を叩く。
「向こうが応じないなら、
こちらも応じる必要はない!」
誰も、止められなかった。
数日後。
王国は、正式に発表した。
――
シュタインベルク公国との外交協議を、
期限未定で凍結する。
その知らせは、
王国国内では「強気な姿勢」として報じられた。
だが、国外の反応は違った。
「……自分で、窓を塞いだのか?」
「交渉力がない国が、
交渉を拒否するとは」
「孤立を、宣言したようなものだな」
そして、
最も冷静な評価は、これだった。
――
“もう、相手にする必要がない”
シュタインベルク公国・公爵邸。
「外交凍結、だそうです」
報告を受け、カルヴァスは眉一つ動かさない。
「そうか」
それだけ。
「……対応は?」
側近が問う。
「不要だ」
カルヴァスは、淡々と答える。
「彼らが閉めた扉を、
我々が叩く理由はない」
セラフィナは、その様子を静かに見ていた。
「……これで」
彼女が、ぽつりと言う。
「王国は、
自分で“戻れない位置”に立ちました」
「君は、どう感じている」
カルヴァスが、彼女を見る。
セラフィナは、少し考えた。
「……悲しさは、ありません」
「憎しみは?」
「それも、ありません」
彼女は、静かに首を振る。
「ただ、確認しただけです」
「何をだ」
「私が、あの国に戻らない理由は、
正しかったと」
その言葉は、淡々としているが、揺れはない。
夜。
公爵邸の書斎で、セラフィナは一通の報告書を閉じた。
そこには、王国関連の項目が、
短い注釈でまとめられている。
――
「外交ルート凍結。
今後の直接交渉、予定なし。」
(……終わりましたわね)
彼女は、ランプの火を見つめる。
王国は、誰かに追い出されたわけではない。
選ばれなかったのでもない。
自分で、扉を閉めただけだ。
そして――
閉めた扉の向こうに、
自分が戻る必要は、もうない。
静かな確信が、胸に広がる。
ざまぁは、
笑うためのものではない。
――
過去を振り返らず、
前に進めるようになるための、
終止符だ。
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