『偽聖女と断罪された公爵令嬢ですが、三度追放されたのは王太子でした』

ふわふわ

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 遺体は、すぐには運ばれなかった。

 教会は首を横に振った。

「破門された者に、教会の祈りは捧げられません」

 それだけだった。

 王宮にも報告は上がった。

 だが返答は短い。

「王家とは無関係の者だ」

 文書は冷たく、感情を含まない。

 かつて未来の王と呼ばれた男は、記録上すでに存在しない。

 役人は困った顔をし、肩をすくめる。

 責任を持つ者がいない。

 引き取り手もいない。

 弔う資格も、名乗る者もいない。

 荒野の端。

 街から少し離れた場所。

 そこに遺体は横たわったままだった。

 布をかける者もいない。

 花を供える者もいない。

 ただ、風が吹く。

 砂が舞い、ゆっくりと身体を覆っていく。

 誰も近づかない。

 子どもは目を逸らし、大人は足早に通り過ぎる。

 名を呼ぶ者はいない。

 かつて彼が誇った血筋も、肩書きも、王冠も。

 今は意味を持たない。

 世界は、彼を必要としない。

 荒野は沈黙している。

 数日前まで、狂笑が響いていた場所。

 だが今は、何もない。

 風だけがある。

 乾いた風が、砂を運び、足跡を消し、存在の痕跡を削る。

 その風は平等だ。

 王にも、聖女にも、平民にも。

 ただ吹くだけ。

 誰のためでもない。

 誰を憎むでもない。

 夕日が傾く。

 空が赤く染まる。

 影が長く伸びる。

 やがて夜が落ちる。

 遺体は闇に溶ける。

 祈りはない。

 涙もない。

 裁きもない。

 ただの終わり。

 それだけ。

 そして世界は、何事もなかったかのように、続いていく。
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