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STAGE2
第21話 女神への感謝
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「俺は狭間(はざま) 巡(めぐる)。あんたの名前は?」
「あ、し、失礼! 名乗るが遅くなりました」
俺が名乗ると、男はその場で立ち止まり自身の胸に右手を置いた。
見た目は山賊だがやはり立ち振る舞いは騎士のそれだ。
「オレは騎士見習いのルンド・アスラントだ!」
「見習い?」
「はっ!?」
聞き返すと、ルンドは慌てて自身の口を塞ぐ。
どうやら嘘を吐き通せない男らしい。
俺は咎めることなく止めていた足を進めながら、
「騎士じゃなかったんだな」
「そ、それは……すまない。咄嗟に騎士と言ってしまったことは謝る」
「別にいいさ。正体不明の男を前に見習いじゃ牽制にもならないからな」
「本当にすまない。二度とあなたを偽るような真似はしないと誓う。我が王に誓って」
ルンドは真摯な眼差しを俺に向けた。
どうやら根は非常に真面目な男らしい。
恐らく騎士という言葉も、俺に対する警戒心から出てしまったのだろう。
見習いだろうと騎士だろうと俺にとっては何ら支障はない。
「早速だが質問がある。長嶺美悠(ながみねみゆ)という女を知ってるか?」
「ながみね、みゆ……? ……いや、聞いたことがないな」
「ちなみに転移者や転生者の存在は?」
「いや、聞き覚えがない」
ルンドの顔を見る。
今までの態度から考えると、誤魔化そうとするば何か動揺を見せるだろう。
だが、目を合わせても泳ぐことはなく、全く嘘を吐いてるような素振りはない。
つまり――この世界では転移者や転生者の存在は、公(おおやけ)になってはいないのだろう。
(……どうしたものかな)
ユグド大陸の時は転移者は勇者として召喚される。
だからこそ直ぐに恋を見つけることができた。
だが今回は町に行って情報を得るということは困難だろう。
『いきなり手詰まりだな』
『ああ……』
事前にアルから聞いた話では、長嶺の転移からは一週間を経過した程度らしい。
恋の時は数ヵ月ほど経過していたが、異世界によって時間の流れは異なる。
転移者は異世界でどれだけの時間を過ごそうと、使命を全うして元の世界に送還されれば転移前の状況に戻るらしい。
その為、異世界時間経過はそれほど気にする必要はないそうだ。
唯一……異世界で死んでしまった場合は……いや、その可能性は今は考えないでおこう。
(……長嶺も転移者である以上、何か特別な力を持っているはずなんだよな)
その固有技能(ユニークスキル)を使う瞬間があれば――異転移者特有の力の波動を感じられるかもしれない。
今はそれを待つしかないか。
「難しい顔をしているな。その人は、ハザマがここにいることと関係があるのか?」
黙って歩いて行く俺を見て、ルンドはそんな疑問を向けた。
「そうだな。俺がここに来たのは人探しをする為だ」
「ナガミネ、だな。わかった。――今回の件が片付いたら、オレもできることは協力しよう! 父や母に尋ねられば何かわかるかもしれない!」
「助かる。その時はよろしく頼む」
もしかしたら何か情報を得られるかもしれない。
期待はせずに頼らせてもらうとしよう。
「あ、ハザマ――こっちだ!」
そう言ってルンドは右に曲がった。
入ったのは人が並んでギリギリ通れそうなくらいの道だ。
マグマが沸々と音を鳴らしていた場所から、少しずつ遠ざかっている。
それに応じて徐々に熱も引けて、気温も変化していた。
この辺りであればもう人が問題なく過ごせるだろう。
「そこだ! その扉の中に娘たちが閉じ込められてる」
環境が生み出した溶岩洞の先に、明らかに人が手を加えたとわかる石の扉があった。
扉の中央には鍵穴らしきものがある。
「なら救出するとしよう」
「鍵は山賊たちが管理しているんだ。まずはなんとかして鍵を奪わないと……」
「その必要はない」
俺は扉に右手で触れた。
瞬間――音もなく重厚な石の扉が消滅する。
「え……えええええええええええええええっ!?」
「そんな大声を出すな」
「ななななな何をしたんだ!?」
「消し飛ばした」
「触れただけだったろ!?」
「まあな」
だが、この程度の扉を消滅させるのならそれで十分だ。
『この程度のことで何を驚いているのだ?』
『まあ、普通じゃないってことだろうな……』
俺自身、少しずつでも『普通』を取り戻せなくてはと思う。
そうでなければ現代で生きることに問題が出てしまいそうだ。
だからおいおいとやっていこう。
「とりあえず山賊に攫われた娘たちを助けるとしよう」
「あ、ああ……そうだった! そうだ! 驚いてる場合じゃないな――みんな、助けにきたぞ!」
ルンドが扉の中に入った。
この見習い騎士の情報の通り多くの娘が拘束されている。
しかもその多くが年若い娘ばかりだった。
「あ、あなたは……」
「オレは騎士学校の見習いルンドだ。山賊の被害が多発しているという話を町の人々に聞いて、ここに潜入して……」
「わ、わたしたち……助かるの?」
疲弊しきって輝きすら消えていた少女たちの瞳に光が宿る。
今の彼女たちにとっては、俺たちの救助は信じられないほどの幸運であり、希望だったのだろう。
「……うん?」
その中の少女の一人。
薄汚れているが明らかに浮いた服装をしている少女がいた。
あれはまるで学校の制服のような――。
「ぇ……狭間(はざま)、くん……?」
確かに俺の名を呼んだ少女を見て、霞んでいた記憶が一気に蘇っていく。
長くてもふもふした癖っ毛。
優しく可愛らしく、そして利発的な印象を与える大きな瞳。
「長嶺か!?」
「うん――うん! 同じクラスの、長嶺美悠だよ。……良かったぁ、やっと知ってる人に会えた」
ずっと心細かったのだろう。
長嶺は涙を溢れさせた。
思いがけぬ邂逅。
俺はここに来て初めて、女神たちに感謝することになったのだった。
「あ、し、失礼! 名乗るが遅くなりました」
俺が名乗ると、男はその場で立ち止まり自身の胸に右手を置いた。
見た目は山賊だがやはり立ち振る舞いは騎士のそれだ。
「オレは騎士見習いのルンド・アスラントだ!」
「見習い?」
「はっ!?」
聞き返すと、ルンドは慌てて自身の口を塞ぐ。
どうやら嘘を吐き通せない男らしい。
俺は咎めることなく止めていた足を進めながら、
「騎士じゃなかったんだな」
「そ、それは……すまない。咄嗟に騎士と言ってしまったことは謝る」
「別にいいさ。正体不明の男を前に見習いじゃ牽制にもならないからな」
「本当にすまない。二度とあなたを偽るような真似はしないと誓う。我が王に誓って」
ルンドは真摯な眼差しを俺に向けた。
どうやら根は非常に真面目な男らしい。
恐らく騎士という言葉も、俺に対する警戒心から出てしまったのだろう。
見習いだろうと騎士だろうと俺にとっては何ら支障はない。
「早速だが質問がある。長嶺美悠(ながみねみゆ)という女を知ってるか?」
「ながみね、みゆ……? ……いや、聞いたことがないな」
「ちなみに転移者や転生者の存在は?」
「いや、聞き覚えがない」
ルンドの顔を見る。
今までの態度から考えると、誤魔化そうとするば何か動揺を見せるだろう。
だが、目を合わせても泳ぐことはなく、全く嘘を吐いてるような素振りはない。
つまり――この世界では転移者や転生者の存在は、公(おおやけ)になってはいないのだろう。
(……どうしたものかな)
ユグド大陸の時は転移者は勇者として召喚される。
だからこそ直ぐに恋を見つけることができた。
だが今回は町に行って情報を得るということは困難だろう。
『いきなり手詰まりだな』
『ああ……』
事前にアルから聞いた話では、長嶺の転移からは一週間を経過した程度らしい。
恋の時は数ヵ月ほど経過していたが、異世界によって時間の流れは異なる。
転移者は異世界でどれだけの時間を過ごそうと、使命を全うして元の世界に送還されれば転移前の状況に戻るらしい。
その為、異世界時間経過はそれほど気にする必要はないそうだ。
唯一……異世界で死んでしまった場合は……いや、その可能性は今は考えないでおこう。
(……長嶺も転移者である以上、何か特別な力を持っているはずなんだよな)
その固有技能(ユニークスキル)を使う瞬間があれば――異転移者特有の力の波動を感じられるかもしれない。
今はそれを待つしかないか。
「難しい顔をしているな。その人は、ハザマがここにいることと関係があるのか?」
黙って歩いて行く俺を見て、ルンドはそんな疑問を向けた。
「そうだな。俺がここに来たのは人探しをする為だ」
「ナガミネ、だな。わかった。――今回の件が片付いたら、オレもできることは協力しよう! 父や母に尋ねられば何かわかるかもしれない!」
「助かる。その時はよろしく頼む」
もしかしたら何か情報を得られるかもしれない。
期待はせずに頼らせてもらうとしよう。
「あ、ハザマ――こっちだ!」
そう言ってルンドは右に曲がった。
入ったのは人が並んでギリギリ通れそうなくらいの道だ。
マグマが沸々と音を鳴らしていた場所から、少しずつ遠ざかっている。
それに応じて徐々に熱も引けて、気温も変化していた。
この辺りであればもう人が問題なく過ごせるだろう。
「そこだ! その扉の中に娘たちが閉じ込められてる」
環境が生み出した溶岩洞の先に、明らかに人が手を加えたとわかる石の扉があった。
扉の中央には鍵穴らしきものがある。
「なら救出するとしよう」
「鍵は山賊たちが管理しているんだ。まずはなんとかして鍵を奪わないと……」
「その必要はない」
俺は扉に右手で触れた。
瞬間――音もなく重厚な石の扉が消滅する。
「え……えええええええええええええええっ!?」
「そんな大声を出すな」
「ななななな何をしたんだ!?」
「消し飛ばした」
「触れただけだったろ!?」
「まあな」
だが、この程度の扉を消滅させるのならそれで十分だ。
『この程度のことで何を驚いているのだ?』
『まあ、普通じゃないってことだろうな……』
俺自身、少しずつでも『普通』を取り戻せなくてはと思う。
そうでなければ現代で生きることに問題が出てしまいそうだ。
だからおいおいとやっていこう。
「とりあえず山賊に攫われた娘たちを助けるとしよう」
「あ、ああ……そうだった! そうだ! 驚いてる場合じゃないな――みんな、助けにきたぞ!」
ルンドが扉の中に入った。
この見習い騎士の情報の通り多くの娘が拘束されている。
しかもその多くが年若い娘ばかりだった。
「あ、あなたは……」
「オレは騎士学校の見習いルンドだ。山賊の被害が多発しているという話を町の人々に聞いて、ここに潜入して……」
「わ、わたしたち……助かるの?」
疲弊しきって輝きすら消えていた少女たちの瞳に光が宿る。
今の彼女たちにとっては、俺たちの救助は信じられないほどの幸運であり、希望だったのだろう。
「……うん?」
その中の少女の一人。
薄汚れているが明らかに浮いた服装をしている少女がいた。
あれはまるで学校の制服のような――。
「ぇ……狭間(はざま)、くん……?」
確かに俺の名を呼んだ少女を見て、霞んでいた記憶が一気に蘇っていく。
長くてもふもふした癖っ毛。
優しく可愛らしく、そして利発的な印象を与える大きな瞳。
「長嶺か!?」
「うん――うん! 同じクラスの、長嶺美悠だよ。……良かったぁ、やっと知ってる人に会えた」
ずっと心細かったのだろう。
長嶺は涙を溢れさせた。
思いがけぬ邂逅。
俺はここに来て初めて、女神たちに感謝することになったのだった。
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