悪役令嬢に転生した“元”狂人は普通に暮らしたい

幸見大福

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幼少期編

覚悟

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「これでマリとも気軽に話せる!あっ、立場的には部下と上司だけど、私たちの仲だから普通に接してね?」



きゃぴ!

シルフの言動を表すとしたらまさにそんな感じだろう。高かったテンションが更に上がっているように思える。まあそれが彼女らしいんだけど。ウザくもなく、うるさくもない。不思議だ。



っていうかそこじゃないね!?



「はぁぁぁあ!?」

「お?マリ、今日は感情豊かだね?」



その言葉に前世の自分を思い出す。感情の波がほぼない、人間らしからぬ人間。ただ大きく動くのは家族の存在。憎悪、恨み。そんな感情ばっかだが。



「あー…うん転生したから精神が凍る前ってとこ。いや、じゃなくーー」

「え?転生?」

「え?」

「え?」



二人して相手の顔を見合った。



***



「…つまり、マリはヘマをやらかして処刑、か。」



一通り、シルフと会わなくなってからの出来事を話し終えた一言が心にグサッと刺さった。



机の向かい側に座っている彼女は今、ジト目でこちらを見ている。ジュースを片手に持ち、偶に「不味い」と呟いている。自分で用意したのに何言ってるんですか。



だがそこにツッコむ資格は私にない。ヘマをやらかした、それはしっかりと警察への対策を取っていなかったということだ。…自覚は、あった。



「…面目無いです。」

「まあいつかやるんじゃないかとは思ってたけど…やっちゃいけないとこのでやっちゃったかー」

「うぅ…」



私は縮こまった。机に突っ伏し、呻き声しか出ない。

そう、私は結構詰めが甘い。大体どこか決定的な部分が抜けており、暗殺活動中でも何回も注意された。だが一向に改善せず、そのまま死んでしまった。分かっていても改めて指摘されると、心にくるものがある。

シルフは更に言葉を並べた。



「昔言ったでしょ?一度計画を振り返りなって。それをしないからだよ。若いからって許されるわけじゃないんだから。だいたいマリは自分を過信して一人で抱え込みすぎ。私に相談してくれれば良かったのに。」

「はい…」



そうですねとしか言いようがない。シルフが言っているのは全くもって正論だ。細かいところまで考えないのは私の悪い癖だ。

それから数十分ほど文句やら咎めやらお叱りやら受け、私は解放された。その時にはぐったりとしていた。



「…まぁ、私がなんて言おうと結局は本人の意思次第なんだけどね。で、マリは昔プレイしたゲームに転生と?しかも悪役に」

「まあそんなとこ」

「大丈夫なの?」



心配気に見てくるシルフになんてことないと言う視線を向けた。



「別にヒロインを虐めなければいいだけだしね。それより私は婚約破棄をどうにかしたい」

「……本当にそれでいいと思っているの?」

「どういう事?」

「マリはその婚約者を傷付けたくないんだよね?だけどマリはそんな事はしないし、愛されているんでしょう?なら継続していいんじゃない。」



一瞬怯んだ。一度は考えた一つの手。だが、瞬時に打ち消した可能性。



「――私が幸せになっていいわけがない。罪人が愛を受けて結婚なんてあってはいけないよ。」



自分に言い聞かせるように私は口に出す。そして笑ってみせた。



「それに元が市民だよ?貴族に縛られるのなんて嫌だよ。今度はひっそりと暮らす。そして自由気ままに生きるの。これが私の目標」

「…まっ、マリが良いなら良いよ。それよか目も随分と変わったねぇ」

「ん?」



突然話題が移ったことへ驚き、何を言われているのか分からず、秒で首を傾げる。目っていうのは私のことだとは思うが、変わったと言うのが理解ができない。

シルフが暖かい目で私を見た。



「うん、あんなに暗くて絶望していたのに、明るい。何か自分の生きる意味を見つけた…見たいな。」

「…そんなの無いけど。」



眉をひそめた。

確かに自分に少し似た人を見て助けたいとは思ったが、それが生き甲斐というわけでもない。まったくもって心当たりのないことだ。

だがそんな私の返しにシルフはニヤニヤと笑うだけ。



「そうかなぁ私から見たらすっごいキラキラしてるけど」

「なんで面白そうなのよ。…それより、なんで夢にシルフが出てきたの?あと夢の神の使徒って?」



神とか使徒とかありえない言葉が聞こえた気がするのだが。

…いや、そこは既に今更感がするけど。



「ああ説明してなかったね、ごめんごめん。実は私神なんだよ。」

「…うん?なんか今幻聴が聞こえた。もう一回。」

「実は私神なんだよ。」



…え?



「…はぁぁぁぁあ!?」



私が叫ぶと、シルフは説明を始めた。



「人間に興味を持ったからちょっと見に言ってたの。そしたら暗殺者っていう面白いのがあるじゃん?入団したらあちこちに殺意を形にした人がわんさか。その中でたまたまマリに会って、魂を覗いてみると、あらびっくり。愛に貪欲で、だけどそれに向ける思いは純粋で。いつまでも見守って理由もなく側に居たいと思った。でも戻らないと仕事があるから神の住む世界…神界に帰って、今日やっとマリの夢に入ることができた。まさか転生したとは思ってなかったけど。」



一気に話したシルフが息を吐いた。私はひくっと頰を痙攣らせてどうにか内容を理解しようとする。



「色々ツッコミたいところがあるのですが。え?シルフは神なの?それで視察みたいに降りてきて私に会って私の死後に神界に戻ってそれで夢に出て来たの?」

「簡単にまとめるとそーゆーこと。」

「ええええ??」



だから奇抜な見た目で、天才暗殺者なのに堕ちていなかったのか。

いや、そこじゃない。え?神?誰が?シルフが。



「まって、頭の理解が追いつかない。」

「大丈夫。分かってくれなくても、一つだけ確かなことは私たちはいつまでも友達ということだから!」

「っ…!」



その言葉に泣きそうになった。こんなに汚れきった私を友人だと思ってくれるシルフに。全てを知ってもなお私を受け入れてくれるその優しさに。



「…ありがとう」

「なんで感謝されるの?」

「シルフという存在が私を支えてくれたから。」

「そう言われると嬉しいなー」



軽口をいうシルフはきっとどれだけ私を救ってくれたか知らない。だがそれでもいい。それがシルフだから。謙遜でも卑屈しているわけでもない、ただ自分はそんな風な人…じゃなかった神じゃないと本当に思っているんだ。

目尻に僅かに浮かんだ涙を拭い、私は口を開く。



「そうだ、シルフに相談があるんだけど。」

「お?いいよー、このシルフがなんでも解決しよう!」

「小さい子が暗殺者で既に道具になっていたらどうする?」

「それどんな悩み」



珍しくシルフが本気で驚いた。目を丸くさせて、ふわふわしたツインテールが揺れる。

私は真面目な表情で、紫音シノンについて話し出した。



「私たちが入ってた暗殺ギルドみたいなところなんだけど、そこで十歳ぐらいの男の子が道具として働いてたの。生きることを諦めた目に、自分を重ねて助けたいと思った。…どう思う?」

「どうって?」

「シルフだったらどうする?」

「さてどうだろう…マリはどうするつもり?」



私は?



「…人間の感情を取り戻して、幸せを知って普通の暮らしを送って欲しい。」



私と同じ道を歩まないでほしい。

心の中で付け足す。シルフは可愛らしく小首を傾げた。



「じゃあそれでいいんじゃないの?」

「いいのかな?迷惑じゃないかな。人の幸せは他の人に分かるわけじゃないし。」



私はどうするべきか分からなくなっていた。自分の中で一度決めてもそれが最善では無いと思って。逆に傷つけてしまえるような気がして。



「…その少年がどうかは知らないけどー」



ぐいっとシルフが身を乗り出した。



「少なくとも、マリは今動かないと後悔するんじゃないの?」

「!」

「あと人の幸せを勝手に決めつけるのは悪いって言ったけど、そこにいる時点で何か事情があるでしょ。生きることを諦めるぐらいに。なら誰かが手を差し伸べてあげないと。マリ、それはきっと貴方だよ」

「……」



私は思考の海に沈んだ。

私の時はどうだった?誰かこの地獄から救って欲しかった。暗殺者なんて、一つの居場所を求めたまで。だけどそんな常識を越した生活をしていたが、“普通”に愛されて“普通”に生きたかった。

その思いをぶつけるのは間違ってる?もしかしてギィに押し付けてない?……ううん、それでも。それでも、私を同じ道を辿って後で後悔をしてほしくない。



私は私の信じた道を進む。



心の中で断固たる覚悟が出来上がったのを感じた。それが正解かは知らないけど、少なくとも悪い方には転がらないと信じて。

シルフがニヤリと笑った。見たこともない彼女の一面に、少しばかり戸惑う。



「やっと迷いがなくなったかな?」

「…うん、ありがとう。」

「おっ、今日2回目の感謝を受けたよ。私、良い子?」

「そうだね、良い子良い子」

「…その返しは少し困るなぁ」



眉を下げたシルフに、私は苦笑いを浮かべた。

そして、揺れる事のなくなった意思を持って立ち上がる。



絶対にギィをあの地獄から連れ出す



頰を叩き、気合いを入れる。



「…よし、一仕事しますか。」

「頑張ってね。神界からだけど私はずっとマリを見守ってる。勿論、あの人も。」



あの人。それだけの言葉だけで私の脳裏に一人の人物が思い浮かぶ。それは誰よりも私が敬愛していた人で、誰よりも私が尊敬していた人。



「…あの人、も?」

「そう。」



自分の目が輝いていくのが分かった。同時に、視界がぼやけていく。



「あ、あれ?」

「そろそろ目がさめるんじゃない?もう朝だし。」

「え!?私寝たの夕方なのに…!」

「そこは身体が子供だからかな?あっそうだ、目覚めたらあの人…“青龍”こと竜王の事を調べて会ってあげて!」

「………え?」

「じゃあ、また遊びに来るから!」

「あっうん、またね!」



その言葉を最後に視界が暗転した。
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