悪役令嬢に転生した“元”狂人は普通に暮らしたい

幸見大福

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幼少期編

交渉

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前半マリーベル、後半リーダー視点です


―――――――――――――――――――――――――――――――


「時間外なのにありがとう」



私がお礼を言うと、料理人らはぺこぺこ頭を下げた。



「いえ!こちらこそそのような言葉を言ってもらえて光栄です!」



良い人たちだなと思いながら、厨房から退室する。片付けもするといったのだが、流石にお嬢様にはやれせられないと断られてしまったためだ。

申し訳ないという気持ちを振り払い、顔を廊下に向ける。



「さて、腹も膨れたことだし…」



行きますか。



私は部屋へ向かいだす。ちなみに時間はお昼だったので、ランチのメニューだった。美味しかったぞ、流石我が家の料理長直々で作ってくれただけある。



そう、料理長が作った



本来なら料理人が作り料理長がゴーサインを出すのだが、私に出す前に料理長が味見したとき、地面にたたきつけた。比喩じゃないよ?「こんな薄い味をお嬢様に出せるか!」って怒鳴ってた。怖いと感じたのは私だけじゃない。いわれた料理人の目が涙目になって思わず同情してしまった。



まあ色々あったけど、無事に私の失態は無かったことになり、空腹は満たされた。



それでは…



紫音シノンに行きますか。」



前回買った服に着替え、窓から飛び降りる。



「跳躍」



タッ



僅かな音が鳴るが、怪我はしない。普通なら骨折は必須の高さ。だが魔法を使ったしまえば簡単だ。無傷で降りられる。

無属性魔法“跳躍”を応用した結果だ。一つの魔法でも様々な活用法がある。奥が深いことです。



「って早くいかないと。」



ダッと駆け出し、私はギィの元へ急いだ。



***



「…でなんであんたが待ち構えているの。」



「ん?何かおかしいことでも?」



本当頭が痛い。

私はこめかみが痛くなっているのを感じ、目の前のオッドアイの少年を見た。



ギーア



こちらを面白いという目で見てくる、会って間もなくても苛つく奴だ。顔が歪められるのが抑えきれない。というかこの世界の精神年齢高くない?



そんな風に現実逃避まがいなことをしている私は、|現在紫音シノンの目の前まで来ている。だが階段へ行こうとしたとき、ギーアが突然立ちふさがりおった。なんなん此奴。



「…私はギィに用があってきたのですが。」

「勧誘だろう?」



此奴わかってて邪魔してきているのか。



「…はあ」

「おい今なんで溜息した」

「この頭痛がする現実に」

「…面白い奴。」

「……」



何でそうなるかな?思考回路が理解できない。

うんざりとした視線を向けるも、意味もないこと。笑顔はほんの少しも動かない。



「あの、いい加減どいてもらえませんか?」

「ねえ、ギィよりもオレの方が役に立つから、オレを雇わない?」

「それよりも私の話を聞いて?」



いや、君の実力は知っているよ。だけど人の話は聞こうぜ。

思わず遠い目になっていると、すっとギーアが半身避けた。



「おっ、話し通じるじゃ――」



言い切る前にギーアと同じように私も身体を翻す。

直後、複数本のナイフが視認するのもやっとな速さで飛び出してきた。



「……ほお、避けるか」



その声はリーダーのものか。



「この暗殺ギルド物騒すぎるって」

「逆に物騒じゃないところってあんのか?」



その割にはお喋りじゃんとは言わないでおいた。

私は今のうちに空いた扉の中に入り込む。後ろから「あっ」って声が聞こえた気がするけど気の所為だ。

目を動かして広い部屋を見渡すが、ギィの姿は見えない。



「アイツなら今は中だ。」

「そう」



リーダーを見ずに私は返答する。皮肉な台詞には皮肉を。苛立った雰囲気が肌を刺激した。

しかし仕事か……ふざけるな。



「どれくらいで帰ってくる?」



硬い声。気付いたギーアの息をのむ声が横でした。私は目もくれず、今の表情を見られないように少し俯いた。



「さあな、だが少なくとも出たばっかだから数時間は留守だぜ。」

「じゃあ今のうちに交渉をしましょうか」

「はっ!そんなんで本当にするわけ――」



リーダーの目の前にナイフが突きつけられる。勿論私だ。最大限まで強化を施し、目に留まらないほどの速さで移動したのだ。



「黙れ。貴様らに『否』の言葉はない。いいから私の言う通りにしろ」

「っ……!」



唾の飲む音。冷え切るような私の声。正直自分でも驚くぐらいだ。

そしてこの声色と同じように、きっと今の私はとても冷たい表情をしている。おびえた様子が伝わってくるが、私の理性はあまり仕事をしていない。



静かな怒りに支配された…いや、激動を抑えきれない私はどうにか冷静になろうと努力しようとするが、無意味だった。



――どうしてここまで私が憤る必要があるの?



――私はギィをここから解放をしようとした。だがこいつらは邪魔をしようとしてくる。しかも私が最も嫌うやり方で。



――そうだよね。それなら何をしても問題ないよ



――だよね



湧き上がる怒りはそのままに、心の中でギィに謝っておく。きっと彼はこんなやり方は嫌がるだろうから。無理やり、だなんて。

本来なら納得してもらい、少しでも心がこちらに傾いたら連れ出すつもりだった。だがそんな暇はない。一刻も早く動かなければ、ギィは完全に道具となってしまうだろうから。



無表情だった顔を不敵な笑みに変える。



「…ギィを私に寄越しなさい。私が望むのはそれだけ。」



暗殺者たちが分かりやすく殺気立つ。リーダーは一番に殺意を当ててくるが、ギーアを経験してからだと、風を受けているかのように流すことができた。



「そのことなら前に断ったはずだ。」



大量の冷や汗をながしながらも拒否を言うリーダーは自分が置かれている状況にまだ気づかないのだろうか。

滑稽だ。実に滑稽だ。滑稽すぎて笑えてくる。



実際に私は声を上げて笑った。ナイフも下げる。隙まみれな私に、リーダーが刃を向けてくることは無かった。

不気味そうに暗殺者一同が見えたが、気にせず嗤う。

やがて視線を向け、影の落ち切った、ある意味汚れがない目でリーダーを見る。



「そうだね、だけど私一度言ったことには責任を持つ人だから。言いたいことはわかるよね?…私は絶対に自由にさせて私の庇護下に置く。ギィを道具には絶対にさせない」



正面から私たちは睨み合った。



***



何でこんなガキがいるんだ



これが最初に抱いた俺の感想。今思えば恐ろしいと思ってしまう。そんな可愛らしいものではなかった。この目の前で威圧を出しているのは。



マリー



そう名乗る貴族の令嬢だと思われる少女は一人前の暗殺者を圧倒した。まるであの赤い悪魔のように。いや、それ以上だ。何故ならこの少女は複数人を相手にしても圧倒的だからだ。



これでも頭をやっているからかなりの実力を誇っている。それでもまるで赤子をひねるようにやられた。鳥肌が立ち、背筋にいやな汗が伝った。



俺らが死んでいないのはコイツにその意思がないから。もしも本気を出されたら無事では済まないだろう。生き残れはできるだろうが、それでもどれだけの人が死ぬのか。



それにしても“アレ”が仕事に行ったと言った途端の豹変ぶりには驚かざるをえない。それだけの価値があるのかと思うが、それでも隣にいるギーアの方が強い。昨日だって「オレがあの姫さんに仕える」と宣言していたから(理由は全くの謎であるが)単純に強さを求めるなら…コイツの実力からその必要なんぞないだろうが、ギーアの方がはるかに強い。この得体のしれない娘よりも。



執着にも似た何か。何かは分からないが俺は恐怖を感じた。



それにしても不思議だ。これだけの実力を持っていながらもどこにも属していないのだから。



そんな風に思いながら天使の姿をした化け物と絶対勝ち目がないであろう交渉をオレは開始した。
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