悪役令嬢に転生した“元”狂人は普通に暮らしたい

幸見大福

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幼少期編

バレンタイン特別ストーリー

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本編には少し関与してますが、読まなくても大丈夫です。

時系列的には戦いの前あたりです。よく考えてませんでした(汗)


―――――――――――――――――――――――――――――――


何がどうしてこうなった。



現実逃避気味の感想を抱いていると、隣を歩いている人が笑顔で話しかけてくる。



「どうしたんだ?マリー。もしかしてほしいのがあったのかな?それとも…私だけだとつまらないかい?」



物理的に輝かしい――ルイが、若干眉を下げてそう尋ねる。

その言葉に曖昧に返し、再びどうしてこうなったのか思いをはせた。


***



現在、私たちは王都の商店街を歩いていた。

といっても、殆どがカフェかブティックなのだが。



興味の欠片もない場所を彷徨っている理由としては、お父様と約束したピクニックが理由だ。

用意するものを探しに少し離れているが、多くの物を取り扱っている王都が丁度いいと思ったのだ。何故かルイも一緒に。



最初は一人で行くつもりだった。



授業の合間を縫って来ようと思ったのだが、そう言うとお父様の溺愛が発動して護衛を何人もつけると言い出した。



流石に目立つし、見たいものも見れなさそうなので全力で抗議をしたのだが、聞く耳を持たず。

困り果てていたところに運がいいのか悪いのか…今回の場合は結果オーライのなので良いとしよう。

まぁ、ルイが屋敷に訪問してきた。



ここまで来たら何となく予想は出来るだろうか?



予想外に私たちの声は大きかったらしく、部屋に案内されている間にルイは内容を聞いており、入室するとともに提案した。



――私が護衛代わりに一緒に行きましょうか?



ルイは世界でも数の少ないS級冒険者だ。実際に活動してるかはともかくとして、実力は護衛としてはおつりがくるほど。



そんなこんなでルイの同行が決まり、護衛という名目で二人だけで行くことになった。





ちらりと横目で機嫌のよさそうなルイを盗み見する。



「何か私の顔についているかな?」

「いえ、なんにも」



こわあい。一瞬で目が合ったぁ。

瞬時に目をそらし、少し上ずった声で答える。

先程からずっとこんな感じなのだ。少し様子をうかがおうとした瞬間に視線がぶつかる。

正直言って恐怖でしかない。



流石ヤンデレ乙女ゲー。攻略対象者以外にも影響を及ぼす。凄いね!とってもいらない!



「それで、あとマリーが見ておきたいのは?」

「あ、あと一店。小物系が売ってて、食べ物を入れる籠とかタオルとか…色々揃えたいものがあって」



最近気づいたのだが、貴族の家にはピクニック等をするための物は中々ないみたいだ。基本は優雅に茶会らしい。



ちなみにレジャーシートは存在してた。水筒も存在してた。つまり色々存在してた。

貴族だもんね。知らなくても仕方ないもんね。

だけど「ない」と断言するのは止めてほしかった!




「ルイは何か必要なものとかない?折角だからどう?」


内心で溜息を吐きながらルイに尋ねる。

買い物に付き合ってもらっているということもあってのことだったのだが、首を横に振られる。



「いや、私は特にないよ」



本当かと、遠慮しているのではないかと疑惑の目を向けると、笑顔が返ってくる。



「本当にないよ。私はマリーと過ごしている時間だけで嬉しいよ」

「…さようでございますか」



相変わらず歯の浮くようなセリフを言いますね。

とても反応に困るのでやめてほしい。



目当ての店に入り、私は店員に売り物表を貰う。

店内の椅子に座ると、早速ルイが恒例の事を始めた。



「ねぇ、この子に似合うものって――」

「ルイ」



これだ。



ルイの声を速攻で遮り、店員に用はないので行ってくださいと目で伝えるとお辞儀をして去っていった。

その後ろ姿をルイは恨めし気に見ていたが、やがて諦めたかのように私の隣に座った。



「…最後の店だし良いと思わないか?私的なものを買わないって…偶にしか来ないのに…」

「何度も言うけど、これはお父様のお金で買うから買えるわけないじゃない。特に必要なものもないし」

「必要と欲しいは違うだろう…」



新たに必要なもの、あったらいいものはないか確認しながら買うものに丸を付けながら答える。

変わらない私の返答に、ルイは呆れたように同じことを言う。



「公爵も何か欲しいものがあったら買ってきなって言っていたのに…」

「あの言葉はいつもだから。付属言葉とでも考えといて」



少し冷たかったかなと思うが、まぁこれぐらいで折れるような奴ではないので、遠慮もなく言葉を放つ。

全てにチェックを終え表を店長に渡し、店を出る。

ありがとうございましたーという声を背中で聞きながら馬車の方へ向かっていく。



「本当に帰るのか?」

「そうだね。結構長い時間いたから」



なんだかんだ言って家を出てから既に四時間近くたっている。

三時ぐらいなので、正直家に帰ってケーキが食べたい。

しかし、ルイは「うーん」と悩む素振りを見せた。

わざとらしさを感じるその動きに、なんだか嫌な予感がする。



…何か、仕組みました?



「そろそろ三時だから、ジェネシスとかに入るのはどうかと思ったんだが…」

「え?」



やけにピンポイントな場所指定に、これは詰んだかと顔が引き攣る。

その名前を出されたジェネシス…つまり、カフェの前を通る。そして、ルイが足を止めた。私もつられて立ち止まる。

そして、何故そのまま進まなかったのかと後悔をした。



店の隣の地が青く光ったと思ったら、人が現れた。転移の魔法だ。

その人物はやけにきっちりとしたかっこうをしており、私たちの目の前まで歩き、止まる。



…あ、うん。これは…



「お待ちしておりました、殿下、公爵令嬢。三時の予約よりご案内させていただきます」

「よろしく」



とんとん拍子の会話に私は一人取り残されながら心の中で絶叫をした。



――最初から仕組んでたな、この策士がーーーー!!



***



「マリー、だましたのは悪かったけど、それこそ折角だからと思って…」

「別に怒ってない」

「いや、でも不機嫌…」

「ちょっと呆れてるだけだから」



若干気まずい空気が私たちの間を流れる。



ルイに言った通り、怒ってはない。ただ少しあきれて騙したことへの不快感があるだけだ。

申し訳なさそうなルイに、そろそろ怒ったふりもいいかと溜息をしてから演技を解く。



「別に、ルイも悪気があったわけでもないからね。こうでもしないとダメだと思ったのは理解できるし。今回はこれらの料理に免じて許します」



ルイはほっと息を吐き、緩んだ表情で食事を再開した。

カフェということもあり、出される料理はおしゃれで見ているだけで気分が上がるものもだった。特に今食べているパンケーキは五段あり、若干引いたけど初めて見るので興奮した。



「…ところで、マリーってチョコ好きだっけ?」

「え?う、うん。好きだけど…」



むしろ大好きな部類だけど

特にブラックっていいよねー。ちょっと苦いんだけど美味しい。

あ、コーヒー飲みたくなってきた



思い出して飲みたい衝動に襲われていると、ここで今日一番の爆弾をルイは落とした。



「じゃあ大丈夫だね。はい、ハッピーバレンタイン」

「!?」



突然横からケーキが飛び出し、驚きにパンケーキが喉に詰まる。

ゲホゲホとむせていると大丈夫?と声がかけられ、涙目で頷く。



転移自体には驚かないけど、突然登場はびっくりだよ!なんでケーキ?チョコは好きかと聞いた意味は!?チョコケーキだ!



ていうかこの世界バレンタインってあったんだ!?



あー…確かにあったような気がする。ヒロインとのイチャラブなイベントだっけ?私は参加してないから詳しくは知らないけど。



咳が収まると、まじまじとケーキを観察する。

出てきたのは…これ何段だろう。数えるのは面倒なので放棄するけど、ゆうに五段は超えている、俗にいうイミテーションケーキの形をしている。

ところどころの模様、色の変化に工夫を感じる。特に一番上の点対称な家紋は、作ったパティシエに褒美を上げていいレベルに凝っている。



バレンタインなんてすっかり忘れていたけれど、ルイはしっかり覚えていたのだろう。…というかそのために今日ついてきたといっても過言でない気がする。





「こんなに凄いの…ありがとう」



どこから食べようかなぁ。でもイミテーションってナイフを入れるところしか本物でないらしいし。でも、ここは結婚式場とかでもないから全部本物かな…

この世界にスマホがあれば!カメラがあれば!くうう…写真撮りたかった!



「本当に、ありがとう」



目を合わせて笑うと、ルイは少し間を空けてから微笑んで見せた。



「…喜んでくれてよかった」

「うん、とっても嬉しい。ねぇ、どこまで食べれるの?ここら辺?」



私が椅子から降りて数段のところで切るジェスチャーをすると、とっても不思議な顔をされた。



「?全部食べれるけど」



マジっすか。お金持ち凄いな…。

唖然すると、ルイはスパンと一切れをお皿に乗せる。

食べてという事らしいので、座り直しフォークを手に取る。



「え、自分で食べるの?」

「逆に誰で食べるの?」



意味不明なことを言わないで。私のにほ…何語だっけ。リケイル語か。リケイル語がおかしくなったじゃないか。



私の返しに、微妙な顔をしながらルイはケーキを刺す。

そして、私の口元に運んだ。



「はい、口開けて?」



ませているな、この子供は!いつもの事だけど!



「自分で食べれます」



目の前にあるケーキを押しのけて自分のを食べる。うん、美味しい。中の果物がチョコでコーティングされているのとっても好きです。

味わっている私を見ながら、ルイは残念そうにケーキをお皿に置いた。

およよ?



「食べないの?」

「甘いものは少し苦手だ」



へえ。意外な一面。

…子供なのに甘いものが無理ってどうなんだろう。今更か。



「そこまで甘くないよ?フルーツとチョコなんて相性抜群で、単体じゃないからさっぱりした感じになってるけど」

「一度食べたよ。だけど、やっぱ無理だな…マリーと同じ経験をしたかったんだけど」



ほほう…



「食べる?」

「いい」

「遠慮しないで」

「…からかってないか?」



ばれたか。



肩を竦め、軽く謝ってケーキを食べ進める。

多分、今日一日では食べきれないので屋敷に持って帰ろう。

きっと、食べるたびに私はこの至福を味わうのだろう。いや、食べなくても刻まれたこの日を思い出す。



幸せだな。



余計なことを考えず、私はそう思った。

多分、転生して一番の幸福だった。







ちなみにこのお店の人たちは、聞いていた時大人かと勘違いしたらしい。うん、私も思った。

誰情報かって?当然、ギーアですわ。暇なのか、あやつは。大量の仕事を渡してやろうかと本気で思った。

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