悪役令嬢に転生した“元”狂人は普通に暮らしたい

幸見大福

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学園編

入学式

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「桜の花が咲き始め、温かい日差しが降り注ぐようになりました。新入生の皆様、この度はご入学おめでとうございます。在校生一同、心より歓迎申し上げます。みなさんと一緒に学生生活を送れることを、とても楽しみにしていました――」

生徒会長の言葉が右から左へ通り抜けていく。
ぽかぽかとした陽だまりの中に心地よい声は音楽も同然で、夢の世界に誘われてるかのよう。

こんなこと思っていたら、ちゃんと聞けや!と言われそうだが、そもそもで台詞セリフの練習相手にされたので耳にタコが出来そうなぐらい聞いているから別にいいんです。

それでもちゃんと聞いた方が絶対良いので、良い子は一度聞いたことあっても上の人の言葉は聞きましょう。

それでも退屈にはなるというもので、生徒会長の言葉が進むたびに目が自然と伏せられてしまう。
なんとか普通の目をキープしつつ『早く終わらないかなぁ』と考えていたら、隣の椅子に座っていた少年がおもむろに立ち上がった。

「…」

ちらっと半ば反射的に目だけ動かしてみてしまう。

失礼かと一瞬で戻したのだが、どうやら私の視線に気づかなかったらしく少年は壁際に沿って歩いて行った。

軽く安堵の息を漏らす。

実はそろそろ学生になるということで、一週間ほど前からあの令嬢らしからぬ生活から離れていくようにしていたけれど、悲しいことに長年染みついた癖は全然抜けていない。

全く、明日からは本格的に学園生活が始まるというのに…テスト勉強を一週間前から始めてもあまり意味がないのと同じだよ。私の一週間の努力は意味がなかったということだ。

伝わりにくい例えだったらごめんなさい。

それはさておきの、さっきの少年は何故ステージの方向に向かっているのだろうか。あれかな、新入生代表なのかな。プログラム的に次だったはずだし。

ぼんやり見ていたら何となく視線を感じてステージに視線を戻す。

…何も見なかったことにしよう。

生徒会長――ルイが私の方を見ながら小さく手を振っていたなんて見ていない。そう、きっと気のせいなのだ。

ていうかさっさとやめんか!小さくてもずっと手を振っていたら隣にいる校長先生に気付かれる!?
あとルイ目立つから。ルイを見た人が私の方を向いてくるから。

目立ちたくないのになんで私はこんなことになっているのかと、内心全力で叫んでるから!

心の中で悲鳴を上げていたらさっきの少年が台に登っていくのが視界に映る。

どうやら私の予想通り新入生代表だったらしい。
この人の挨拶は当然ながら一度も聞いたことがないからちゃんと耳を傾けておかないと。

周りの好奇心溢れる目を気にしないよう努め、顔を前に向ける。

代表の男子はお辞儀をしながら顔を近付け、なんと無表情のまま話し出した。
いや君営業スマイルって言葉知ってる!?

「春の息吹が感じられる今日、私たちは本校に入学いたします。本日は私たちのために、このような盛大な式を挙行していただき誠にありがとうございます。新入生を代表してお礼申し上げます――」

そんな貴族いるんかい!と心の中でツッコんでいたが、ホールの隅まで届くハキハキとした声にはっとする。

とても聞き覚えのある声。そして代表に選ばれたということは高名な貴族。いや、貴族という言葉は失礼かもしれない。

今年は王子が二人いるから、その二人を差し置いて誰かが上に上がれるわけではない。
知らない人が大役を任せられるはずがないなんて考えるまでもない。

さっきまで隣にいて、しかも少しとはいえ何で気付けなかったのか、自分で自分が信じられない。今すぐ自分を殴っても良い。

この声は『恋音』のメイン攻略対象者クリス・リケイルのものだ。

頭をハンマーで叩かれたような衝撃に今度はしっかり顔を見る。

「これまでは両親を初め、多くの方々の力を借りて日々を過ごしてきました。まだまだ――」

間違いない。まごうことなきクリス・リケイルだ。
さっきも思ったことだけれど、何故顔を見ても分からなかったのだろう。

まあ何でって言っていますけど、思い当たることしかないんですけどね。
何故なら『恋音』の世界だ!と気づいてからからその事実さえも忘れるぐらいおかしな生活をしていたからさ!

…この言葉遣い、令嬢としてはかなり末期を迎えている気がする。

さて今までを振り返ってみよう。

まず、赤竜の集いの戦いから何度も衝突しては最後には必ず途中で下がっていくミライたちに首を傾げ、戦闘を繰り返すうちに魔力が増えいつの間にか一回だけならギリギリ【集団転移】を使えるようになったり。

リュウ様が明後日の方向を向きながら笑っていたのは面白かった。乾いた笑いということに目を瞑ればだけれど。

あとは属性を測ってもらってからあの国内全回復が私の仕業だとばれて、ヒロインから滅茶苦茶感謝されたりもしたっけ。

なんと間違って【ライト・オブ・ヒール】を発動してしまった時、丁度お母様がご病気だったらしいのだけれど、あの魔法に直されちゃったらしい。

我ながらいいことしたなぁと償いを出来たことを喜んだのだけれど、どうもいいことばかりではないみたい。
天真爛漫という言葉が真っ先に浮かんできたヒロインを思い出す。

『マリーベル様、あの時はお母様を助けていただきありがとうございました!』

…あんなにグイグイ来る子系の子だっけ、ヒロイン。
なんかもうちょっと哀しみを抱えているけれど他人にはばらさないで、自分の事より人の事をーって感じだった気がするんだけど。

『恋音』では孤児院に通っていたはずなのに、紫音シノンからそんな情報貰っていないし。
しっかりギーアに見つけたら私の教えてと頼んであるから、見落としたということはないハズだ。

多分、ヒロインのお母様の死をきっかけに教会に行きだしたから、私の所為で機会がなくなってしまったんだろうな。

結論を言うと私が悪いということだ。ごめんヒロインちゃん、恋路を思い切り邪魔してしまいました。

それで思い出した。
割と前にルイに『恋音』の話をしたんだよね。

こうだから、こんな子がいるんだけど把握だけしといて―的なことを説明するために。
悪役令嬢について説明していた時は怖いぐらいの笑顔になったけど、話を説明したり設定を紹介したりすると、

『全然違うから心配ないな』

らしくルイの中では大丈夫の案件になっているらしい。

…私がそっちの婚約破棄からの追放ルート狙っているだなんて言えない。言ったら私がいじめられていたと思う。

既に転生してからも年がたっていたからかなり大雑把でうろ覚えだったんだけど、よくルイ分かったよね。流石としか言いようがない。

他にも色々あったけど大体がどうでもいいから端折るとしよう。
他国のファッションモデルになっとか超どうでもいいし。

てかあれキッズ時代だけでなく大人になってからも継続するとは思わなかった。この入学式の少し前にも撮影をしたし、数週間後には刊行されるんだろうなぁ。お菓子用意して心を立て直す準備をしておこう。

そんなこんなで色々ありましたが、取り敢えずは無事に十五歳になれました。

ルイは二年前に入学して現在は最高学年の三年生となり、生徒会長をやってします。
最初聞いたときは他国の人がいいの!?とか思ったけど王太子だから許されたのかなと自己完結した。

その前の会長は兄貴で、これは素直に納得した。
彼奴は無駄に天才だし、悔しいけど人をまとめたり指示を出すのも得意としているから適任だろう。

そんな風に思っていたのだが、学園から帰ってくるたびにげっそりとした顔で帰ってくるので私が思っているよりも会長というのは大変らしい。

ルイも作り笑顔が段々と適当になってきそうだーとか言っていたし、一度生徒会長の仕事量を見直した方がいいと思う。
というか教師たちが任せてるんだよね?全員有罪!

と言いたいのだが、労働基準法の適応外というのが憎たらしい。残念ながら裁判を起こすことは出来ない。そもそもでこの世界に労働系の法律がないので労働者でも起こせないとは何て悲しい世界だろうか。

話がかなり脱線してしまったが、私は説明するまでもない。現在進行形で入学式を迎えていて、それもそろそろ終わりそうだ。

いつの間にか下がっていた視線をステージの方に持ち上げる。

「――以上をもちまして、新入生代表の挨拶とさせていただきます

そう言葉を締めくくり、髪をかき上げながら礼をして下がると割れんばかりの黄色い悲鳴が沸き上がった。
不遜と取れる仕草だと思うのだが、目を瞑れるぐらいにクリス殿下はやはり人気らしい。令嬢たちは皆目をハートにしてみている。

昔から既に分かれていた派閥もクリス殿下の方が優勢だと例の如くリオンから聞いたし、実際にそうなんだなと感じる。
同じようにハートのエフェクトが見えてくるような隣の令嬢を冷めた目で一瞥し、ヒロインの姿を探してみる。

実は選択したルートによってヒロインの位置がちょっと変わっており、窓際だったりど真ん中だったり…今回はギーアルートのはずだから窓際だと思うんだけ、ど…

紫音シノンと関わってから一度もギーアとヒロインが接触したところ見てないのだが?
本当にギーアルートに入っているのか不安なのですが?

「――以上をもって入学式を閉会いたします」

教頭の宣言と共に担任と紹介された人たちが立ち上がり、私たちの前に立つ。

「今から各教室へ案内します」

学年主任なのかな?代表するように言った目の吊り上がったお婆さんが私たちを見回す。
そして私と目が合うと動き回っていた目が止まる。

…私、何かしましたか?

ポーカーフェイスを保ちながらも内心では眉を顰める。
私が心当たりを探しているとまたすぐに隣へ移し少し停止した。

…隣って殿下だよね?

私が気になった行動もそこで終わり、正面に視線を戻した。
正直今のは気になる行動だけれど、何か目を付けられるような点に心当たりがないので何も考えないことにした。

いやまあ昔だったら沢山掘り返せますけど絶対違いますからね!?

「クラスを言われるまでは静かに座っていてください」

言いたいことは全部言ったのかお婆さんが口を閉じると、教師陣が生徒たちを引き攣れて退出していく。

クラスはどうやら適当らしくてみんなこの席からこの席までの人はーと言いながら分けている。
もしくは最初からこのために席を決められていた、という可能性もあるけれど…別に席は指定とかじゃなかったし適当という方が可能性としては高そうだ。

「――ではこの列からこの列までの方はご起立願います」

手前で男性の声が響く。

どうやら私の方の振り分けまで来たらしい。
指示通りに立ち上がり前の人に合わせて歩き出す。
丁度列の隙間からルイが見えるが、例の通り視線がかち合い慌てて逸らす。

何年たっても慣れないこれは何時いつ慣れるのだろうか…いやまあ慣れなくてもいずれ別れ離れるんだからいいんだけど。

と、いつも通り私がスルーして終わるかと思っていた。
まさかこの場で、移動中に、入学式に話しかけてくるとは流石に思わなかった。

「…私がご案内しましょうか?」

突然話しかけられ引率の教師がぎょっとしたようにキョロキョロする。

さっきルイをいた場所を見たら自分の立ち位置を確認し、頬を引き攣らせる。
僅かに光を纏っているルイは純粋無垢な少年を演じるように笑顔で小首を傾げた。

理由分かってるくせに…と思いながら、それよりも強く教師への同情を向けた。

そうだよね、そうだよね。
普通の人はホールの端から一瞬で傍までやってこないもんね。

私も昔そうだったなぁ。転移魔法を私よりも先に使えるようになったからいつの間にか隣にいて何度悲鳴を上げたことか…。今でも時々驚くし、慣れていない先生方は余計に驚愕なんだろう。

一人納得していると、困惑しつつも承諾する声が聞こえてくる。

「あ、はい。王太子様が言うのであれば…」

それでいいのか教師!もっと粘れよ!

盛大なツッコミは誰も察してはくれず、むしろ他の人たちは喜びの笑顔を浮かべている。
そうだね、絶世のイケメンが物理的に光るイケメンが代わりに引率してくれるって言ってるんだもんね。
何も知らない人なら純粋に嬉しいイベントだね、こんにゃろう!

さて、ここまでハイテンションだとそんなにか!?とツッコミが来そうですね。
その理由を説明したいのはやまやまだけど…いう前に分かりそうなんで黙っておきます。
…この勘が外れていると信じたい。

「さ、マリー。隣においで」

外れないね。

恐ろしいまでの美貌の悪魔が私の方に手を伸ばす。
シンクロして子息令嬢が道をあけ、さあどうぞと言いたげな目で私を見つめる。

…まぁこうなるよね!目立ちたくないのにいっつもこうなるんだよね!

でも悲鳴は上げれど驚きはしない。なぜならいつだって君は私の願いを打ち砕くんだかr嘘です。それは嘘なのだけれどでもそろそろ私のこっち方面の希望が叶って欲しいと思ってもいいじゃんか。

不自然に上がった口角だが、手を引かれた瞬間ににっこりとした笑みに変わる。
…来てって言っておきながら自分で行動するんだよね。慣れてる自分が嫌になってくる。

「…ルイ、何故一番前に行かないといけないのですかね」
「私の婚約者だから」
「理由にはなってませんよ」
「”には”としか言っていない。つまり反論はないという事で、ではみんな私たちの後ろについてきて」

私のツッコミも虚しく、何もなかったかのように歩き出すルイ。
カリスマ性の高さもあり、全員が納得したように頷く。

絶対納得できるような内容はなかったと思うんだけど。何も理由は言われていないと思うんだけど。

反論したいのはやまやまなのだけれど、この空気の中意見を言えるようなメンタルはしていないので、やむを得なく私も前に進む。

背後ではたくさんの生徒が動き出す気配を感じ、少しだけ溜息を吐きたくなった。
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