甘ロリ先輩の甘美なる交際条件

的射 梓

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えっちをしましょう、甘露寺くん

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 4回目のデートだし、手をつなぐのも許してもらった。
 葉室先輩も、確かに握り返してくれている。
 ――なら、2人の関係をはっきりさせないと。

「葉室先輩、僕、好きです。付き合ってください」

 葉室陽咲《はむろひさき》先輩は、嬉しげで、しかし、もの憂げに立っていた。
 彼女は最初の頃のように、凛々しさの中でほんの少しもじもじとしていて、顔をそらして悩んでからつぶやいた。

「甘露寺《かんろじ》くんは、すごくいい人だと思ってるんだけど……」

 あ、これはダメか。
 結構いい線行ってると思ってたが、勘違いか。
 しばらく冷却期間を置かないとな……。
 そんな風に先輩の返事を聞く前から、僕の頭の中で欠席裁判が繰り広げられる。

 沈黙が重い。
 風の音がとてもよく聞こえる。
 あたりがだいぶ暗くなってきているのが分かる。

 葉室先輩は、夕陽にあてられているにしても赤い顔で言った。
 ものすごく不安げな、真剣に聞かなければ聞き取れないようなか細い声で言った。

「わたし……えっちして相性のいい人じゃないと、それ以上の関係にはなれないの」

 全くありえない、と思っていたのでもないが。

「はい」

「えっちをしましょう、甘露寺くん」

 まずありえないだろうという返事に気圧されて、僕は棒読みで答えた。

「はい」

  * * *

 甘露寺くんにも心の準備がいるだろうし、と言われて、その日は何事もなく終わった。
 いや、キスはした。恥ずかしい話だが、葉室先輩に請われてようやく。
 決めるなら早いほうがいいというので、次に会うとき体を重ねあうことになった。
 そして彼女は、その日はえっちだけがいいと、言った。
 えっちだけと言いながら、友達を連れて来てもいい?と、聞いた。

 もしかして葉室先輩には、彼氏候補ではなくセフレ候補として見られているのでは、という不安がよぎる。
 それでも扉を開けてみなければ仕方がないだろう。

 葉室先輩は10人中9人が振り向く美少女、というような人でもないけれど、もちろん僕にとっては最高に綺麗だし、何より自分をかわいく見せることをいい意味でためらわない人だ。
 どこにいても絵になる。
 花壇にいれば妖精の女王。
 カフェにいればお茶会のお嬢様。

 そして自分というものをはっきりと持っている人だ。
 場を仕切るタイプではないが、自分のしたいことはしっかり主張する。
 ただわがままなのではなくて、僕、に限らず、周囲の調整にも敏感だ。
 そんな葉室先輩だから、体の関係だけではなくて、色々想い出を積み上げていきたい、と思う。

 そんなこんなで今、ファッションホテルというか、要するにラブホで休憩中だ。
 それも、僕は先にシャワーを浴び終わっていて、葉室先輩のシャワー待ちで、同伴のお友達と一緒、という、とても特殊な状況。
 ……ラブホって3人でも入れるんだな。

 葉室先輩は、そのお友達、いるざさんには、見ててもらうだけだから、と言った。
 3Pではない。
 見ててもらうだけ。羞恥プレイ。

 どちらが上なのかなんて決めようがないが、しかし、2人の初めての逢瀬にしてはレベル高過ぎるのではないか?
 いったい先輩の望む体の相性とはどれだけなんだ、と悩むが、悩んでも仕方ない。
 無心で待つだけだ。

 いるざさんは黒いシャツとスカートの上にタータンチェックのベストを着ている。足元は黒タイツだ。
 首元にはやはり黒赤チェックのネクタイ、暗めの赤毛に黒いミニハットが挿されている。
 葉室先輩に聞いたところ、ゴシックパンクというジャンルらしい。
 見ててもらうだけだから、という話だが、見てもいない。
 部屋に入ってからこの方、ずっと漫画を読んでいる。

「何、読んでるんですか?」
「『異域之鬼《いいきのき》』」

 いるざさんは抑揚のない声で答える。
 喋るときに表情をあまり交えない人だ。

「どんな話なんですか?」
「えっと……男の悪魔が、美女の体に入って、子どもを産んで母性に目覚める話」

 僕の知らない世界が、世の中にはまだまだたくさんあるようだ。

「新鮮だな。今度読んでみたいです。どの辺の話が面白いですか?」
「貴方、私に興味があるの?ごめんなさい、今これ読んでるから話しかけないで」
「すみません」

 この状況で話しかけたら変な風に思われても仕方ないなと今さら反省した。
 気を取り直して大きいディスプレイに目を向ける。
 スクリーンには、ラプンツェルが映っている。

 ラプンツェルを選んだのは葉室先輩だ。
 そのときは経験豊富そうな先輩はどんなスゴいものを観るんだろう、とわくわくしながら見ていた。
 実際に選ばれたのは、ラプンツェルだった。
 カラオケで童謡を選曲するのは上級者と聞いたことがある。
 多分、似たようなことなんだろう。

 僕はテレビを観てはいるが、内容が頭に入らない。
 しかし、気晴らしにはなる。
 そうやって暇をつぶしていると、いるざさんがこちらに来た。

「キヨハル君。ちょっと手を見せて」
「あ、はい」

 手のひらを差し出す。
 いるざさんはその手をくるんと返して、手の甲側をじっと見つめる。
 何も悪いことはしていない筈なのに、息が重い。
 彼女には、会ったときからずっと睨まれている気がする。

「僕、失礼なことしてました?気づかないですみません」

 いるざさんの目が僕に向く。
 日本人のものとは誰も思わないであろう、紅い目で睨まれる。

「もしかして、目つき、キツい?」
「キツい、というか。怒られているようには、感じました」
「ごめんなさい。今日のカラコン、度が入ってないの。私近視だから見づらくて」
「ああ、そうだったんですね」

 いるざさんは再び僕の手を一覧すると、僕の手の先をなぞった。
 しなやかな指に触れられると、息が詰まりそうになって苦しい。
 一通り確かめたら、彼女は眠たげな目で言った。

「合格。……私のことは気にしないで」

 何が合格なんだろうか。
 気にしないで、と言われると、余計に気になるのだが。
 いるざさんは元の位置に座りなおして、先ほどの漫画を読みはじめた。
 僕は葉室先輩早く出てきてくれと思いながら、全力でラプンツェルに集中しようとする。

「お待たせー」

 やがて出てきた葉室先輩の姿は、シャワーの前とは明らかに違いはするもの。
 ライトブラウンの頭は、桃色チュールレースのハーフボンネットで縁取られる。
 桃色のサンドレス代わりのジャンパースカート。
 その肩とウェストにはリボンがあしらわれていて、オーバースカート部分にはお菓子や宝石がプリントされている。
 ジャンスカの上は白いレースボレロ。足元の白いレースソックスが可憐で艷やかだ。

 つまり、脱いでいない。
 着替えただけ。
 葉室先輩は涼しげな甘ロリ姿で立っていた。
 上級者の先輩が、バスローブを見つけられなかったとも思えない。
 ソロモン・グランディ、これでおしまい?

「お帰り」

 口調の上では落ち着いて答える。
 内心は既に反省会ムードだ。

 が、葉室先輩は僕の前まで来ると、そのまま真横に座った。
 先輩の柔らかい肩が、僕の肩に触れる。
 そっと先輩の肩に手を回して、指先でその峰に触れる。
 目と目が合う。
 そのまま肩を抱きしめると、彼女は僕の方へとほんの少し体を傾けた。

「くれは……」

 先輩の呼び名を、半ば無意識につぶやく。
 お友達同伴の約束とともにされたお願いが、今日は「葉室先輩」でも実名の「陽咲」でもなく、「くれは」と呼ぶことだった。
 僕の呼び方はそのまま、つまり清春《きよはる》でいいらしい。

「清春くん。何?」

 くれは先輩は顔を背けながら聞いた。
 その先は考えてないから、少し戸惑う。

「ラプンツェル、くれはがシャワーに行く前まで巻き戻します?」

 ですます調はもういいよって言われていたのに、また出てしまう。
 彼女はまた目を合わせて、少し残念そうにして言う。

「このままでいいです。観てると落ち着くだけだから」
「それと」
「それと?」
「……キスしてもいい?」

 くれはは、ふふっと笑いながら応えた。

「がんばれー」

 2人きりのときぐらいにしか見られない、くれはの最上の笑顔。
 その微笑みが愛おしくて、ほんのりとチークの乗った頬に自然と唇が引き寄せられる。
 くれはは、目を閉じてくすぐったそうにそよぐ。

 一度引かれ合ってしまえば心も軽くなるもので、耳元や唇の脇に、一つずつ確かに、でも軽やかにキスを落とす。
 そして辿り着いたこのはの唇。
 もったいなくて、柔らかく重ねるとそう長々とそのままにせずに、離してしまう。
 
 再び目を開けたくれはを見ると、愛おしさがあふれてくる。
 つぶらな瞳の彼女をぎゅっと抱きしめると、その言葉を口にせずにはいられない。

「くれは、大好き」
「ええ……ありがとう。ゆっくり、いちゃいちゃしたいな」
「僕もくれはといちゃいちゃしたい」
「清春くん、背中から抱きしめて?」
「はい」

 そう答えると、くれはから僕の胸の中に移ってきた。
 僕のモノははちきれんばかりに硬くなっていて、だからそっと腰を引く。

「引いちゃ嫌」

 そう言ってくれはは、逃げる僕にお菓子と宝石の柄のジャンスカを押しつける。
 プリントされているものと違って、ジャンスカ越しの感触はとても柔らかい。

「ゆっくりがいいけれど、我慢しづらくなったら、言ってね」

 なんていうことを、振り向きながら言う。
 その体からは甘い芳香が漂って僕の鼻孔をくすぐる。
 くれはの肩越しにそっと抱きしめると、彼女は白くて細い手で僕の腕につかまった。

「ゆっくりくれはを抱きしめたい」

 言葉通りにゆっくり包みたいという気持ちと対になって、僕の中にもうひとつの気持ちが大きくなる。
 刀の中の鬼が叫ぶ。
 えっちして相性がよくなければお別れだと、くれはは言ったから。
 なら、セックスをさせてもらえるときに思い切り奪ってしまえばいいと、鬼は言う。
 くれはの返事など気にせずに、欲望のままに彼女の柔らかい肢体を貪って、滅茶苦茶にしてしまえと、鬼は言う。

 だから、僕はくれはを抱きしめる手にぐっと力を入れて――

 僕らの目の前を黒い影が通った。
 いるざさんは歩いて端末を取ると、ピッピッとオーダーを重ねていく。

 なので結局、いるざさんのオーダーが届くまで待つことになる。
 その間は例の、ラプンツェルの続きを2人で観た。
 そう、2人で観た。いるざさんは漫画を読み続けているから。

 くれははよく観ているようで色々と話してくれるのに、僕は表層的な答えしか返せない。
 頭が冴えなくて、答えるのに少し時間がかかる。
 画面の流れを追うだけでやっとだ。
 しかし、ストーリーを追うのに精一杯だから、ゆっくりと待てる。

 くれはの頭を撫でり、肩を撫でると、彼女の感触はとても暖かい。
 もしこうして抱きしめていられるならと思うと、エッチをして、体の相性を確かめるのが億劫になる。
 ここまできて何もなしでは、くれはに対して不誠実だし、百戦錬磨の彼女はきっと満足しない。
 そんなことを考えながらだと、彼女への返事がどうしても、遅くなる。

 しばらくくれはとゆっくりくつろいでいると、部屋のチャイムが鳴った。
 いるざさんが入り口まで歩いていく。
 くれはから離れたくないが、しかし、気になる。
 彼女を抱きしめたまま、振り向く。

 いるざさんは入り口脇の小窓からオーダーした料理を受け取っていた。
 持ちきれないらしく、2往復して運ぶ。
 それを見て、僕より先にくれはが声をかけた。

「多いの?手伝おうか?」
「いい。私は気にしないで」

 と言って、いるざさんは1人で運びきると、そのままつまみ出した。
 ……マイペースな人だな。

 僕もくれはもいるざさんに顔が向いていた。
 丁度いい感じだったから、僕はくれはの淡く赤めいた頬にキスをする。

「んっ……」

 くれははくすぐったそうに目をすがめた。
 耳元、うなじにも口づけて、少し待つ。
 夢見心地な目で振り向いてきたくれはと、長すぎない程度に唇を重ねる。
 彼女の唇は、とても柔らかい。

 くれはの体にもっと触れたくなる。
 僕は肩から抱きしめている右腕のひじをそっと内側に回し、こっそりとくれはの胸に当てた。
 くれは先輩の性格とは逆で、自己主張の少ない胸。
 慎ましやかな胸。だが、僕にはとても気になる、その胸。

 すると、くれは僕の右腕をつかんで、言った。

「そういうの、セクハラっぽくって嫌」

「ご、ごめん!」

 慌てて両腕をくれはから離して、体の脇に下ろした。
 だのに、くれはは僕が離れた分だけ後ろに倒れてくる。
 僕は体勢を崩して、そのまま背後に寝てしまう。
 そうしたら、くれはも僕の腕の中に寝転んだ。

「はっきり言ってくれたほうが嬉しい」

 と、くれはは顔をそむけながら言う。
 だから僕は、迷わずに、とはいかずに、疑問形で聞いてしまう。

「くれはのこと、抱いてもいい?」

 くれはは、僕の手を握りながら答えた。

「ゆっくり、優しく……してね」

 経験豊富そうなくれはだからどんなスゴいお願いが出るかと恐れていたが、普通の女の子、と思っていいのか。
 これも彼女の罠なのかもしれないと、疑ってしまう。
 その手を握り返して、指を絡めながら、確かに返事をする。
 しなやかな指が少し、震えていた。

「約束する」

 ベッドの縁で体勢がつらいので、2人でごろごろと中心の方へ転がる。
 桃色のフリルで彩られたくれはの柔らかい体を、ぎゅっと抱きしめた。
 角度を変えて、何度か彼女の凛とした唇に僕の唇を重ねる。
 もう少し待ってもいいか、と思いながらも、その味を確かめたくて、くれはへの浅く長いキスを味わう。

 その口づけにまどろみながら、僕は考えていた。
 どうせ変に奇策を練ったところで良い方には転がらない。
 しかれば平常心で、いつも通りに望むだけだ。
 と、思うのだが、どうしても、臆病になってしまう。
 このひと度の逢瀬でくれはと付き合えるかどうかが決まると思うと、一つ一つのことが気になってしまう。
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