紅い月の堕ちる夜 -病み上がりのコペルニクス的転回-

的射 梓

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 日が暮れかけて執務を切り上げた頃には、ほとほと疲れ果ててしまっていましたわ。
 トマス様成分を補給しませんと、翌日の執務に差しさわりが出ましてよ。
 そしてわたくしは燭台しょくだいを持ってトマス様のお見舞いへと伺いましたわ。

 火の明かりに照らされるトマス様は穏やかな寝息を立てていらっしゃいましたわ。
 だのにわたくしは、ほんの少しならとおそばに寄ってしまいましたの。
 規則的に奏でられていたトマス様の呼吸が途切れて、まぶたがまぶしそうに動きましたの。

「……アストリッド?」

 目を開いたトマス様は、自分のひたいに手の甲をお乗せになりましたわ。

「御免なさい。起こしてしまったかしら」

「いや、構わない。僕もアスタの顔が見たかったからね」

「……っ……!」

 わたくしはトマス様に顔を見せたくなくなってしまって、暗い部屋をぼうっとながめていましたの。

「……またぶり返すといけないし、今日は君の声が聞けただけで良しとするかな。その方が治った後のことが楽しそうだ。アスタ、調子はどうだい?」

 トマス様のかたわらに、静かに腰を下ろしましたわ。
 彼と同じ温度に温まった布団はとても心地よくて……けれど、わずかばかり熱いのが気にかかりますの。

「おかげさまですっかりよくなったわ。お気になさらず、休んで頂戴」

 熱を帯びた額に手をかざしましても、ねばつきはしませんでしたわ。
 どなたかがトマス様のお体をおきになったと存じますの。
 トマス様のご健康のためにも必要なことし、当然のことですけれど……わたくしとしては面白くなくってよ。

「アストリッドの手は冷たくて気持ちいいな」

 目を閉じて心地よさそうにするトマス様は、おかわいらしく存じましたわ。

「少し熱があるわね。お体、お拭きして差し上げましょうか?」

「それはアスタにさせるようなことではないよ」

「わたくしがするとお困りになることでもあって?」

「困るようなことは、ないといえばないが……召使いのようなことをさせていると知れると、君の名に傷が付く」

「お付きの者には下がってもらったから大丈夫だわ。トマス様とわたくししかいなければ、問題ないでしょう?」

 遠慮気味のトマス様を押しきって、タオルを用意し清拭せいしきを進めましたの。
 熱にだる彼の顔つきは色気があって、とても眼福でしたわ。
 もちろん調子の悪いトマス様の身を案じて、静かにお清めするだけ……の、はずでしたのに。

「おうっ!?」

 お拭きする手を少しずらしすぎてつっかえたそれは、ヘブンに向かってそびえ立っている状態の背徳の塔でしたの。
 寝ているところを起こしてしまいましたから……朝勃ち、という現象なのだと存じますわ。

「トマス様、おつらくていらっしゃたりしていらしたりして?」
「いや……アスタに拭いてもらってさっぱりしたし、そろそろ肌寒くなってきたのでもういいよ。アスタも暖かくして休んで」
「こんなところを見られたりしたらどうなさいますの? メイドに処理でもさせるつもりかしら?」
「大人しくしていれば収まるし見られる心配はしていない」

 トマス様は病人なんですのよ。
 だからわたくしは、トマス様の気の休まるように気遣きづかわないといけないのに……。

「なら……」

 「召使いのようなことをさせている」っておっしゃると、お手つきの子でもるのではないかと疑ってしまって……。
 だって、かわいげのないわたくしと違って気立ての良い子なんていっぱいいるのですもの。
 それに、トマス様ぐらいのお家ともなりますと、下級貴族の子までお仕えに来るのですわ。
 ともすれば恋のお相手だって務まるような、家柄も良くて綺麗で働き者の子たちなんですもの。

 それにトマス様はわたくしにばかり優しいのですわ。
 けれど、わたくしはトマス様のあの、執務中の生き馬の目を抜くような瞳で見下げられてみたいですの。
 昼間のトマス様は男ですけれど、夜も男でいらして欲しい、というのはわたくしのわがままなのでしょうかしら。
 わたくしはきつけないと向けていただけないあの眼光で、もしかしたら他の子が愛されてるのではないかって……。
 わたくしの寝込んでいる間にあったのかもしれないと考えると、いらいらして止まらなくて。

「今すぐしずめてくださいませ」

 トマス様はしばらく困った顔をして、こちらを見つめていましたわ。
 わたくしは表情一つ変えずに威圧していたのでしょうと存じますの。

 やがてトマス様はおずおずとその手を、そびえ立つ塔へと伸ばしましたの。
 ご自身で処理なさるおつもりなのだと存じますわ。
 わたくしはその手を、はたいて止めてしまいましたの。
 乾いた音がトマス様の手を打つと、彼は驚いた様子で腕を引いたんですの。

「命じて」

「アスタに、何をさせてあげればいいだろう?」

「わたくしに、鎮めるように命じて」

「……分かった。アスタ……すまないが、君の手でしてくれないか」

「承知しましてよ」

 トマス様のお召しものをくつろげて、窮屈きゅうくつになっていたご自身を失礼いたしましたの。
 ぴんと上を向き、硬く大きくなっていて、ひくつくその小さないきものはどこかトマス様に似ていてなんだかかわいくて。
 風邪を引く前は何度も愛し合ったところですのにずいぶん久しぶりな気がして、うっとりと見つめてまって……。
 はっとして、蒸しタオルでその大切なものを綺麗にお拭きいたしましたの。
 次に戸棚から出した瓶の液体を塗りこみますと、トマス様は驚いて腰をはね上げなさったんですの。

「うあっ!? すまない……アスタ、何を塗ってくれているのだろう?」

「風邪に効く、塗り薬よ。粘膜に直接塗るのが一番なの。丁度良いから、今塗ってしまったわ」

「そうか。いつもの潤滑剤と違って少し刺激があったから、何かと驚いてしまった。ありがとう、アスタ」

 本当は嘘なのですわ、トマス様。
 トマス様にお塗りしたのは、男の方のそういう匂いを抑える果実の香りの香料の混ざったものですの。
 気持ちよくご奉仕できるようにして、トマス様をもっとよく愛せるようになるためのものなのですわ。
 けれど今はえっちをいているのでなく、トマス様の生理的なご不便の解消……ということにしておきたかったのですの。
 だから、えっちのためのものとは申せなかったんですの……。

 まんべんなくトマス様のまわりに塗りたくりますと、かぐわしい芳香がただよいましたの。
 き出しになったトマス様から立ち上がる香りに……変な気持ちではなく、食欲を誘われますの。
 くんくん、とかいでしまったのは、けしてわたくしがいやらしいからではありません……わよね……?

「アスタ……やりづらい……だろうか。無理はしなくていい」

 トマス様がたいそう気にしていらっしゃる様子でわたくしに問いかけましたの。

「綺麗に拭けたか確かめただけだわ。変な匂いなんてしなくってよ」

 おいしそうと、聞こえないようにこっそりつぶやいてしまいましたわ。
 少し落ち込んでいるトマス様に元気を取り戻してもらいたくって、その尖端をぺろりとめ上げたんですの。

「うぁっ!? 手、でいいよアスタ」

 トマス様にはサプライズだったようで、裏返った声を上げて、ぴくん、と感じなさったんですわ!
 ご奉仕に感じ入ってもらえて……胸の中がほっこりとしてしまいますわ。
 そっとトマス様のご自身を手で包みますと、彼の熱がじんわりと伝わって来ましたの。
 もちろん、手だけ、なんてもったいないことはいたしませんわ。

 トマス様のふもとの宝石袋を指先で探って……止めましたの。
 彼は寝込んでいて、今は愛の営みではなくて処理を手伝わせていただいているだけですの……。
 ご体調を損ねないよう、ゆっくりと楽しんでいただくものではなく処理として済ませてしまうことにいたしましたの。
 ……寂しいけれど。

くわえるわよ」

「……っ!」

 はむ、とトマス様の舳先へさきを咥えると、反発力のあるベッドがぼふんと揺れましたの。
 かわいらしくて、思わずちゅ、ちゅと口づけてしまいますわ。
 トマス様からは、青い果実の味がしましたの。
 なんだか、いけない気分になってきて……。
 トマス様から見えないようにと、深く咥えこんで顔を隠してしまいましたの。

 ミーアキャットのように直立していたトマス様は、お口の中で暖かく包むと更に大きく膨張しましたの。
 表皮をしたたる蜜は瑞々みずみずしい果物の味わいなのに、バゲットよりもずっと硬いのですわ。
 いつもより、口の中がはしたなくいっぱいに満ちてしまいますの……。
 満ち満ちたままトマス様を深く含んだり、出したりいたしますと、水音が立って……恥ずかしいですの。

 トマス様に気持ちよく感じていただきたくて、ちろちろと舐め進めていったんですの。
 けれど、見上げた先のトマス様は、気持ちよさそうというよりは、苦しそうに見えて……。
 早く出したくて苦しいのかしら、と思い、いつもトマス様の気に入ってくれるところを狙ってよくしていきましたの。

「ぁ、……んぁ、ん……!」

 トマス様の息遣いが荒くなってきたのが聞こえて……うまくできてるのかなって感じて、うれしくなってきたのですの。
 トマス様、気持ちよくなっていらして?
 なんだかぽわぽわしてきて、一生懸命におくちを動かしてご奉仕していきましたの。
 えっちじゃなくて、トマス様のご不便を取り除くだけの行為と自分に言い聞かせますの……。

「アスタ、出そうだ……!」

 余裕のない上ずった声で、トマス様は終わりの近いことを伝えてくださいましたわ。

「口の中でよろしくてよ」
「ふぁ……ッ!!」

 くちのなかで、トマス様の鳴らしたラッパのおとが白く響き渡りましたの。
 トマス様に愛されて、命令していただいたときなら、高揚した気分のまま飲めてしまいますのに……。

「ん……」

 トマス様の欲望が、なかなかのどに下りていかなくて……。
 しばらくこらえて口に含んでいたのだけれど……タオルに、出してしまいましたの……。

「……」

「我慢できなくてすまない」

「いいのよ。……我慢なんてしたら……許さなかったわ」

 お体を冷やしてはいけないので、汚れてしまったところをお清めして、暖かくしていただきましたの。
 ……拭くときのトマス様のご様子が、少しかわいかったですの。
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