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一. 始業式の日
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始業式の朝。
「亮太(りょうた)、すまなかったなぁ。本当は、前の学校がよかっただろ?」
お父さんが八の字まゆげを山のように下げて、すまなさそうに言った。
「ううん、大丈夫だよ。新しい学校、ワクワクする」
僕は無理に笑って返事をした。
小学四年生になる僕は、新しい学校に通うことになった。お父さんの仕事の都合で、ひっこしてきたんだ。
僕は家を出て、知らない子たちばかりの通学路を通った。いつもの友達……ケンちゃんも、たっくんも、カズくんもいない。そんな道をおそるおそる歩いて、学校に着いた。
はじめての校門から校庭へ入った僕は、その学校がものすごく大きいような気がした。いや、僕がものすごくちっぽけになったような気がしたのかな。
校庭では、サクラの花びらがお日さまの光にてらされて、ヒラヒラとゆれている。まわりの子たちはキラキラと白い歯を見せて笑いあっていた。
そんな中に、みんなを知らない……みんなも知らない僕がいる。
「あの子、知らない。だれ?」
っていう、ひそひそ声が聞こえる気がした。
僕は手をギュッとにぎり、顔を下に向けて校舎へ入った。そして、階段をあがり自分の教室に入る。
教室では、みんながワイワイと楽しく話していた。でも、僕が入ると、シーンとなる。
僕はグッと下を向いたまま、空いている席に座った。するとまた、もとのようにクラスのみんなはワイワイと話しはじめる。
チャイム……早くなってほしい。早く、早く……
僕はてのひらをにぎりしめ、心の中でお願いした。
『キーンコーンカーンコーン』
やっとチャイムがなって、僕はホッとため息をついた。
チャイムがなるとすぐに、先生が入ってきた。お母さん……というよりはお姉さんみたいな、女の先生。
「みんな。今日からね、新しいお友達が来てくれたのよ。始業式の後で、紹介するわね」
『まり』っていう先生がそう言うと、みんなの目が僕に集まってきた。
知らない子を見る目……いつものクラスに、よく分からない子が入ってきて、「どんな子なんだろう」とさぐるような、そんな目。
僕はみんなのそんな目からにげるように、始業式の間もできるだけちっぽけになるようにしていた。
始業式が終わると、みんなは輪のようになってしゃべりながら教室へ帰っていく。僕はもちろん、そんな輪の中に入れずに、何も考えずにからっぽになって歩いていた。
からっぽの僕が教室の入り口に着くと、一番前の席の女の子と目が合った。
目が大きくて、すきとおった色をしている。すいこまれそう……そう思った。
女の子はすぐに赤くなって下を向いた。僕も、すぐに目をそらした。
さっきの席に座って一番前の席を見た。その女の子も、みんなの輪の中に入っていない……というか、『迷子』になっているみたいに、一人でいる。
何だかちょっと、その女の子が気になった。
「みんな。この子が、新しく入ってきた花崎くんよ。さぁ、花崎くん。自己紹介して」
みんなの前に立って、まり先生にそう言われて、僕はおそるおそる口を開いた。
「花崎 亮太です。遠くの町の川園小学校っていう学校から来ました。本を読むのが好きで、椋 鳩十の物語が大好きです」
きんちょうしながら前を見ると、また一番前の女の子と目が合った。やっぱり、すきとおっていて、すいこまれそうな瞳。僕が自己紹介をしたとたんに、その瞳の中にお星さまがうかんでキラキラとかがやき出したように見えた。
「新しい友達が来てくれてよかったわね。みんな、仲良くしましょうね」
と先生が言い、僕はゆっくりと席に戻った。
みんな、本当に仲良くしてくれるのかな? 転校なんてはじめてのことで、どうしたらいいのか分からなかった。
学校おわり。みんなは、くもの子がちらばってゆくように教室を出て帰ってゆく。僕はゆっくりと席を立ち上がり、ランリュックを持って帰るしたくをした。
他のみんなはランドセルを持っているのに、僕は前の学校の校章のもようが入ったランリュック。みんなと同じにするのなら、お父さんやお母さんにお願いしてランドセルを買ってもらえばいい。だけど、僕は少しでも前の学校のものを使いたかった。だって、僕はやっぱり、前の学校が好きだったんだから……。
そんなことを考えていると、また悲しくなってきた。
その時だった。
「私も椋 鳩十の物語、好き」
声をかけられて、ちょっとびっくりして顔を上げた。僕の前には、一番前の席の、あの女の子が立っていた。
やっぱり、すきとおった瞳がすごくきれいで、僕はすいこまれそうになる。それと同時に、この学校へ来てから初めて声をかけられたことがとてもうれしくて、僕はとびきりの笑顔で言った。
「椋 鳩十の物語、おもしろいよね! 動物とふれあったりとか、知恵くらべしたりするお話、ワクワクする」
すると、すきとおった瞳がお星さまのようにキラキラとかがやいた。
「そうよね。楽しくて一気に読んでしまうの。私、『太郎熊』と『マヤの一生』、大好き!」
「うん。僕は『大造じいさんと雁』も好き」
「私も好き。大造じいさんと雁たちの知恵くらべ、ドキドキするわよね」
僕たちは時間がたつのも忘れて、大好きな物語のお話をした。
その女の子は、河原 千沙(ちさ)って名前だった。千沙ちゃんは、八歳の誕生日にお父さんから買ってもらった『マヤの一生』を読んだ。千沙ちゃんも犬を飼っていたので、涙がとまらなかったようだ。
その時からずっと椋 鳩十の物語が大好きだった。だから、僕の自己紹介を聞いて、うれしくなって声をかけてくれたみたいだ。
僕たちはその日、そんな話をして、すっかり仲良くなった。
「亮太(りょうた)、すまなかったなぁ。本当は、前の学校がよかっただろ?」
お父さんが八の字まゆげを山のように下げて、すまなさそうに言った。
「ううん、大丈夫だよ。新しい学校、ワクワクする」
僕は無理に笑って返事をした。
小学四年生になる僕は、新しい学校に通うことになった。お父さんの仕事の都合で、ひっこしてきたんだ。
僕は家を出て、知らない子たちばかりの通学路を通った。いつもの友達……ケンちゃんも、たっくんも、カズくんもいない。そんな道をおそるおそる歩いて、学校に着いた。
はじめての校門から校庭へ入った僕は、その学校がものすごく大きいような気がした。いや、僕がものすごくちっぽけになったような気がしたのかな。
校庭では、サクラの花びらがお日さまの光にてらされて、ヒラヒラとゆれている。まわりの子たちはキラキラと白い歯を見せて笑いあっていた。
そんな中に、みんなを知らない……みんなも知らない僕がいる。
「あの子、知らない。だれ?」
っていう、ひそひそ声が聞こえる気がした。
僕は手をギュッとにぎり、顔を下に向けて校舎へ入った。そして、階段をあがり自分の教室に入る。
教室では、みんながワイワイと楽しく話していた。でも、僕が入ると、シーンとなる。
僕はグッと下を向いたまま、空いている席に座った。するとまた、もとのようにクラスのみんなはワイワイと話しはじめる。
チャイム……早くなってほしい。早く、早く……
僕はてのひらをにぎりしめ、心の中でお願いした。
『キーンコーンカーンコーン』
やっとチャイムがなって、僕はホッとため息をついた。
チャイムがなるとすぐに、先生が入ってきた。お母さん……というよりはお姉さんみたいな、女の先生。
「みんな。今日からね、新しいお友達が来てくれたのよ。始業式の後で、紹介するわね」
『まり』っていう先生がそう言うと、みんなの目が僕に集まってきた。
知らない子を見る目……いつものクラスに、よく分からない子が入ってきて、「どんな子なんだろう」とさぐるような、そんな目。
僕はみんなのそんな目からにげるように、始業式の間もできるだけちっぽけになるようにしていた。
始業式が終わると、みんなは輪のようになってしゃべりながら教室へ帰っていく。僕はもちろん、そんな輪の中に入れずに、何も考えずにからっぽになって歩いていた。
からっぽの僕が教室の入り口に着くと、一番前の席の女の子と目が合った。
目が大きくて、すきとおった色をしている。すいこまれそう……そう思った。
女の子はすぐに赤くなって下を向いた。僕も、すぐに目をそらした。
さっきの席に座って一番前の席を見た。その女の子も、みんなの輪の中に入っていない……というか、『迷子』になっているみたいに、一人でいる。
何だかちょっと、その女の子が気になった。
「みんな。この子が、新しく入ってきた花崎くんよ。さぁ、花崎くん。自己紹介して」
みんなの前に立って、まり先生にそう言われて、僕はおそるおそる口を開いた。
「花崎 亮太です。遠くの町の川園小学校っていう学校から来ました。本を読むのが好きで、椋 鳩十の物語が大好きです」
きんちょうしながら前を見ると、また一番前の女の子と目が合った。やっぱり、すきとおっていて、すいこまれそうな瞳。僕が自己紹介をしたとたんに、その瞳の中にお星さまがうかんでキラキラとかがやき出したように見えた。
「新しい友達が来てくれてよかったわね。みんな、仲良くしましょうね」
と先生が言い、僕はゆっくりと席に戻った。
みんな、本当に仲良くしてくれるのかな? 転校なんてはじめてのことで、どうしたらいいのか分からなかった。
学校おわり。みんなは、くもの子がちらばってゆくように教室を出て帰ってゆく。僕はゆっくりと席を立ち上がり、ランリュックを持って帰るしたくをした。
他のみんなはランドセルを持っているのに、僕は前の学校の校章のもようが入ったランリュック。みんなと同じにするのなら、お父さんやお母さんにお願いしてランドセルを買ってもらえばいい。だけど、僕は少しでも前の学校のものを使いたかった。だって、僕はやっぱり、前の学校が好きだったんだから……。
そんなことを考えていると、また悲しくなってきた。
その時だった。
「私も椋 鳩十の物語、好き」
声をかけられて、ちょっとびっくりして顔を上げた。僕の前には、一番前の席の、あの女の子が立っていた。
やっぱり、すきとおった瞳がすごくきれいで、僕はすいこまれそうになる。それと同時に、この学校へ来てから初めて声をかけられたことがとてもうれしくて、僕はとびきりの笑顔で言った。
「椋 鳩十の物語、おもしろいよね! 動物とふれあったりとか、知恵くらべしたりするお話、ワクワクする」
すると、すきとおった瞳がお星さまのようにキラキラとかがやいた。
「そうよね。楽しくて一気に読んでしまうの。私、『太郎熊』と『マヤの一生』、大好き!」
「うん。僕は『大造じいさんと雁』も好き」
「私も好き。大造じいさんと雁たちの知恵くらべ、ドキドキするわよね」
僕たちは時間がたつのも忘れて、大好きな物語のお話をした。
その女の子は、河原 千沙(ちさ)って名前だった。千沙ちゃんは、八歳の誕生日にお父さんから買ってもらった『マヤの一生』を読んだ。千沙ちゃんも犬を飼っていたので、涙がとまらなかったようだ。
その時からずっと椋 鳩十の物語が大好きだった。だから、僕の自己紹介を聞いて、うれしくなって声をかけてくれたみたいだ。
僕たちはその日、そんな話をして、すっかり仲良くなった。
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