物語の中の小さな恋

いっき

文字の大きさ
4 / 5

四. 千沙ちゃんの将来の夢

しおりを挟む
 二学期最初の学校からの帰り道。千沙ちゃんは、ほっぺを桃色にそめながら言った。
「とうとう、二人とも、椋 鳩十の物語を全部読んだね」
「うん」
 何だか、もじもじしている千沙ちゃん。僕は、そんな千沙ちゃんをじっと見つめてうなずいた。
「約束の……私の夢を言うね。笑ったりしないでね」
「もちろん。笑ったりなんかしないよ」
 何だろう?
 すごくワクワクした。
「私……将来、椋鳩十のように小さい子供をわくわくさせたり、感動させたりできる物語が書きたい。すごくむずかしいことだと思うんだけど……お話を全部読んで、やっぱり、こんなお話が書きたいって思ったの」
 僕は、その夢を聞いてはっとした。そして思わず、ランリュックからノートを取り出した。
 そう。僕だけの物語が十作書いてある、ヒミツのノート。
 いつも持って歩いていたんだ。
「亮太くん?」
 長いまつげをパチクリしてふしぎそうな顔になった千沙ちゃんに言った。
「実は、僕も物語が書きたくて、このノートに書いていたんだ。椋鳩十にくらべたら全然面白くないかも知れないけど、もしよかったら……読んでみてくれる?」
 千沙ちゃんは目をまるくした。でも、すきとおった瞳にお星さまがまたたいた。
「ありがとう、読んでみるわ。すっごく楽しみ」
 キラキラした笑顔でノートを受けとってくれた。
 僕は、家に帰ってからずっとドキドキしていた。
 あのノートに書いている物語は、今まで誰も読んでいない、僕だけの物語だった。それを読んでもらっている。そう思っただけで、体の中がかゆくなって、じっとしていられなかった。
 それに、何だか心配になってきた。僕の物語、おもしろいんだろうか。最初のお話は、ちいさなオコジョのぼうけんのお話。
 明日、おもしろくないと言われたら……いや、それよりも何も言われなかったらどうしよう……。
 次の日、学校へ行くまでずっとドキドキハラハラしていた。
 授業が始まる前の朝。千沙ちゃんは、寝ぶそくの僕にまぶしい笑顔で言ってくれた。
「亮太くんの物語、おもしろい!オコジョのポン太が最後にお母さんと会えたところ、すごく感動した」
 僕は目にじわっと涙がこみあげるほどにうれしかった。
 千沙ちゃんは、僕の物語の主人公……ポン太になりきって読んでくれた。そしておもしろいと言ってくれた言葉がすっと心にしみこんだ。

 その日から、千沙ちゃんは一つずつ僕の書いた物語の感想を言ってくれた。
 イソギンチャクとヤドカリがウツボに飲みこまれてハラハラしたこと。
 男の子のために歌い続けたカッコウのやさしさに涙が出たこと。
 ナマズ大王との約束を忘れることなく、自然を大切にすることが何より大切だと思ったこと。
 そんな言葉を聞いて、僕は物語を書いて本当によかったと思った。

 もうすぐ十作を読み終わりそうになった時。千沙ちゃんは、ほっぺを桃色にそめて僕に聞いた。
「ねぇ、亮太くんは……どうやって、あんなにおもしろいお話を書いているの?」
 どうやって……。千沙ちゃんに言えるほどの、かっこいい言葉は思いつかない。だから、僕はそのままのこと……僕が物語を書く時のそのままのことを言った。
「どうやって、とかはあまり考えたことがないんだけど。書きたくなって書いていたら、お話の中の動物たちとか、子供たちがそれぞれ、笑ったり、泣いたり、怒ったり。そうして、書いているうちに、僕もその物語の中でぼうけんしたり、走り回ったりしているんだ」
 そこまで言って、千沙ちゃんの方を見る。
「……と言っても、分かりにくいよね」
 でも、千沙ちゃんはかがやく瞳を僕の目とあわせた。
「いいえ、分かる。分かるわ」
 そして僕と目があうと、真っ赤になってうつむいた。
「分かる……ような気がする」
 僕はそんな千沙ちゃんを見て、すっごくかわいいと思った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

雪の降る山荘で

主道 学
児童書・童話
正体は秘密です。 表紙画像はフリー素材をお借りしました。 ぱくたそ様。素敵な表紙をありがとうございました。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

処理中です...