願いを叶える泉

いっき

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「ねぇ、お母さん」
家に帰ったリッツェルは、ルルに優しく話しかけました。
「ルルお母さんは……何があっても、誰がどう言っても……私のお母さんだよ」
 リッツェルの瞳に、じんわりと涙がにじみます。
「リッツェル……」
 ルルはリッツェルが真実を知ったということは知らない……しかし、リッツェルの言おうとしていることは、確かにルルの胸に届きました。
 ルルはやわらかく、リッツェルの頭をなでました。
「リッツェル……ありがとう。こんなに迷惑ばかりかけている私に、そんなことを言ってくれて……」
 ルルの瞳にも、温かい涙が浮かびます。
「リッツェル。本当に、今まで……ずっと言えずに、私の胸の奥にしまっていたんだけどね。実は、私……」
「お母さん。それ以上は言わなくていいよ」
 リッツェルは涙を浮かべながらにっこり笑いました。
「分かってる。分かってるから……お願い、お母さん。早く、元気になって」
「リッツェル……」
 その母娘……実の母娘以上に強い絆で結ばれていたルルとリッツェル。悲しくなるほどに気丈なリッツェルの胸に顔を押し当て、ルルは温かい涙を流したのでした。

しかし、リッツェルの願いに反して……ルルの病気は、日に日に悪くなっていきました。どんどんやせて、食事も喉を通らず、見るのもつらいほどで。
 毎日、町で編み物を売っているリッツェルも、ルルのことを気に病み、どんどんやつれていきました。

「リッツェルちゃん。最近、顔色が悪いけど……大丈夫?」
「え、ええ。大丈夫よ。タリムさん、ありがとう」
 お客さんに向ける笑顔も、つらそうなものになっていったのでした。
「リッツェル……大丈夫?」
 店を閉めるリッツェルは、掛けられた声に振り向きました。
「あら、リクル。久しぶりね! 元気だった?」
「う、うん! それに、リッツェルのおかげで、お父さんもすっかり元気になって、もうすぐ働くこともできるって!」
 無理して元気にふるまうリッツェルに、リクルもつとめて元気に答えました。
「そう……」
 リッツェルは少しうつむきます。
「願いを叶える泉……私のお母さんは、本当のお母さんじゃないから、叶えてくれないのかな」
 そっとつぶやいたリッツェルに、リクルはたまらない気持ちになりました。
「ねぇ、リッツェル。僕も……リッツェルの家に行っていい?」
「えっ?」
「だって、見てみたいんだもん。こんなに優しい、リッツェルのお母さん」
 リクルが赤くなりながら言うと、リッツェルはとびきりの笑顔になりました。
「うん、来てあげて! お母さん、喜ぶわ!」

「お母さん……!」
家に入ったリッツェルは青ざめました。ルルがベッドの上でぐったりと、苦しそうにしていたのです。
「お母さん……しっかりしてよ! お母さん!」
 リッツェルはルルの体を揺らします。しかし、ルルの息はどんどん苦しそうになっていき……話すこともできない様子でした。
「お母さん! いやだよ……お母さん!」
 リッツェルはルルにすがり、泣き叫びます。
 リクルは、茫然とその様子を見ていました。あまりの出来事に頭が真っ白になり……。
 しかし、ルルが虫の息だと理解すると……一つのことが頭に浮かびました。
「そうだ。お父さん……」
 過去に何があっても、自分の父、カベルにとってはルルは妹……そして、ルルにとってはカベルは兄なのです。ルルが死んでしまうのなら、その前に……お互いに、一目でも会いたいに違いありません。
 リクルは、その家を飛び出しました。
「お願い……お願い」
 カベルを呼びに走り続けるリクルの頭の中には、あの日のリッツェルの願い……『みんなが、元気で幸せにいられますように』という、天使の願いが繰り返されます。
 リクルは心の中で祈りながら、走り続けました。
 そして、リクルが『願いを叶える泉』の前を通り過ぎた時……その泉は、一面に神秘的なかがやきを放ったのでした。

「ルル、ルル!」
リクルがリッツェルの家にカベルを連れて来た時……ルルは、自分にすがりついて泣いているリッツェルの頭を優しくなでていました。
 ルルはカベルを見ると、目を丸くしましす。
「カベル……お兄さん」
「ルル。大丈夫か!? 体は、大丈夫なのか?」
「はい、どういうわけか……」
 ルルが不思議そうに言うと、リッツェルは泣きはらした顔を上げました。
「リクルが家を出てしばらくしたら、お母さんの体中がすごくきれいな光に包まれて、お母さんが目を覚まして……本当に、奇跡だわ」
「良かった」
 カベルはその場にへたり込みました。
「本当に、良かった……」
「それより、カベルお兄さん……どうして、ここに?」
「それは……子供たちが、僕達をまた会わせてくれたんだ」
 カベルはリクルとリッツェルを見て、目を細めました。

 みんなが落ち着いてから、ルルはゆっくりと話しました。
「カベルお兄さん、リッツェル……本当に、ごめんなさい。私、子供を産めないこの体が、憎くて、憎くて……。死にたい、と思ったけど、どうしても死ぬ勇気がなくて。茫然と歩いていたらお花畑に差し掛かって、リッツェルが天使のような笑顔を向けてくれて。私、全てをすてて、この娘と暮らしたいって思ったの」
 ルルの目から涙が流れ、顔を手で押さえました。そんなルルに、カベルは優しく話しかけます。
「大丈夫。ルルに悪い気持ちはなかったって、分かってたよ。だって、僕はルルのことなら、何でも分かる。僕はルルのお兄さんなんだから」
「お兄さん……」
 幼い頃のように泣きじゃくるルルに、カベルはゆっくりと話します。
「ルル。もしお前が良かったら……これからは、四人で暮らさないか? 四人で力を合わせて。そうすれば、きっと……みんなが元気で幸せに暮らせるよ」
「ありがとう、お兄さん……」
 幼い頃の兄妹に戻ったかのようなカベルとルル。そんな二人を見て、幼い姉弟はにっこりと笑いました。
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