ミステリアスな転校生

いっき

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 そんなある日のこと。
 ちょっとした事件が起こった。
 それは雪のパラつく、十二月の寒~い日だった。
 そんなに寒い日だったのにも関わらず、彼はいつもの恰好……半袖半ズボンだったのだ。

 最早、誰もそのことにツッコむ勇気すらなかったのだけれど。僕はどうしても気になって、帰りがけ、彼がランドセルを持とうとしている時に恐る恐る尋ねた。
「ねぇ、どうしていつもその恰好なの?」
 すると……
「そんなこと、自由だろ!!」
 まるで廊下にも響き渡るかと思われるほどの声を出して、彼は顔を味のある黒色にして激怒したのだ。
「そ、そんなに怒ることないだろ。だって、こんなに寒いじゃん」
 僕は慌ててそう言った。
 だけれどもよく見ると、彼の引き立った白目の中の瞳は涙が滲んでいるかのようにキラキラと揺れて。ランドセルを持って、突然に駆け出した。
「あ、ちょっと、待ってよ」
 彼の様子がどうしても気になって、僕も駆け出して追いかけた。
 でも、彼はむっちりとした体型のクセに、足が速くて速くて。どうにか追いかけていたんだけど、途中で見失ってしまった。
「全く……何なんだよ」
 僕は呟きながら、彼を見失った辺りを彷徨い歩いた。
 そこはあまり来たことのない、校区の中でも割と外れた場所で。雪も葉をなくした木に吹雪いて、その枝を揺らしていた。彷徨い歩きながら、僕は少々、不安になってきた。
「もう、いいや。帰ろう」
 僕が自分の家へ歩を進めようとした時だった。
「僕はケニアに帰りたいんだ!!」
 ものすごい大声……教室から廊下にまで響いた、あの大声が聞こえた。
 それは、ひっそりとした小さな家からの声で。僕は物陰に隠れて、こっそりと盗み聞いた。
「でも、日本で暮らさないといけないんだから。ここの季節に合わせた恰好をしないと、お母さん、保護者会でも先生に怒られたんだよ」
「でも……でも、ケニアがいいんだ! ケニアに帰れるまで、僕は誰がどう言おうと半袖、半ズボンでいるんだ!」
 そんな叫び声とともに福島君は家から飛び出して。その後、彼と同じく色黒で、彼と瓜二つの顔をしたお母さんが、心配そうに家から出てきた。

 僕は……自分の背負っているランリュックに少し触れて、思わず彼を追いかけた。

 僕は、今度は福島君を見失うことはなかった。だって、どうしても彼に伝えたいことがあったから。僕も、彼と『同じ』なんだって。

 隣町との境目の河川敷……雪もうっすらと積もってとっても寒い場所に腰掛けて、彼は川を眺めていた。
 僕はゆっくりと彼に近付いて、隣に腰を下ろした。
「えっ、君? 何でこんな所にいるんだ。帰れよ」
 福島君は僕を睨みつけた。
 しかし、僕は……背負っていたランリュックを下ろし、前に置いた。
「このランリュック……転校する前の学校のものなんだ」
「えっ?」
 彼は目を丸くして僕を見た。そんな彼に、僕は頷いた。
「今の学校に来る時。みんなと同じランドセルを買ってもらうこともできたんだけど、僕は絶対に嫌だって言った。だって、このランリュックには前の学校で楽しかったこと、ツラかったこと、友達との思い出……その全部が詰まっているんだから」
 僕がそう言った途端。福島君はまるで、堰を切ったように泣き出した。
 僕にはその気持ちは分かった。だって、僕も転校した時、いつでも心の中で泣いていたから。前の学校でのことはとっても大事な思い出で……だから、決して失いたくはなくて。
 それは、彼にとっても同じだったんだ。
 きっと、彼にとっての半袖半ズボンの恰好は僕にとってのランリュックと同じ……決して失いたくはない、暑~い故郷、ケニアの思い出そのものだったんだ。
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