僕は遠野っ子

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七.僕は遠野っ子

七.僕は遠野っ子

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新学期、僕はウキウキと心躍らせて登校した。夏休みが名残り惜しいという気持ちはあったけれど、秋からもこの学校で、遠野という土地で、クラスメイトたちと一緒に過ごせるのが、楽しくてたまらなかったのだ。

 しかし……
「みなさぁん! 夏休みの宿題は、やって来ましたか?」
新田先生が開口一番に言ったその言葉で、僕たちはみんな、シーンと静まり返った。
「まずい……すっかり忘れてた」
「だよな。そういえば、そんなのもあったなって感じ……」
僕は滋くんと、ひそひそ声でそんなことを話していた。
そんな僕たちを見て、新田先生はニッと白い歯を見せた。
「……って、そんなの、遠野っ子がやって来るわけないわよね! だから、今週は君たちに、特別課題をやってもらいます」
その言葉に、僕たちはさらにざわついた。
特別課題……一体、何をやらされるのだろう?
すると新田先生は僕たちに、たくさんの原稿用紙を配り始めた。
「この原稿用紙に、あなたたちの住んでいる、この『遠野』を存分に書いて下さい!」
「遠野を……」
つぶやく僕たちを見て、新田先生はにっこりと笑った。
「あなたたちの故郷……遠野を書くことは、きっと、あなたたちにとってかけがえのない財産になる。いつまでたっても変わらないこの遠野……それを、あなたたちが大人になっても読み返して、子供たちに語りついでいって欲しいの。枚数は自由、題材も何でもいいわ。どうか、あなたたちの思うように書いて下さい」

「僕の遠野……」
僕は原稿用紙と向かい合った。
学校の宿題なんて、嫌なものだったけれど、これはワクワクする。だって……この宿題をすることで、僕がこの土地、遠野へ来て、数ヶ月の間にしたかけがえのない不思議な体験……それらを全部、もう一度体験することができるんだから。
僕は書いた。ここに来る途中で出会った白鹿に始まって、僕に水泳を教えてくれたオクナイサマのこと、滋くんが大好きな河童のリコちゃんのこと、僕の初恋のオット鳥のこと、山奥で見つけたマヨヒガのこと、そして……僕たちのことをずっと見守ってくれている、ザシキワラシのハナちゃんのこと。
とっても大事な、かけがえのない体験を僕はこの作品に書いた。

そして、これからもこの遠野で体験するであろう、かけがえのない不思議な体験に、ワクワクと胸を躍らせて。
僕はこの作品に『僕は遠野っ子』っていう題名をつけたんだ。



(了)
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