あとがきだけの物語

いっき

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 そんなある日。
「ねぇ。あとがき、もうかなり書けたんじゃない?」
 由麻が悪戯っぽい目をニッと猫のように細めて僕に問うた。
「あぁ、おかげさまで、かなりね」
 僕は良い意味の皮肉を込めて彼女に行った。
 すると彼女は、嬉しそうに白い歯を見せた。
「そっか、そっか。じゃあさ、そろそろ、オリジナルの作品を書きなよ」
「えっ?」
 僕が目を丸くして由麻の方を向くと、彼女はまた悪戯っぽく目を細めた。
「だってさ、もう……書けるでしょ」
 そんな彼女に僕は自然と苦笑いしてしまった。
「あぁ……そうだな」

 やっぱり由麻の方が一枚上手だった……どうやら彼女は、僕が行き詰まっていた理由に僕よりも先に気付いていた。
 僕は本を読まなくても、想像力を駆使して小説を書けていた。
 だけれども、それで本を読まなければいずれは書けなくなるんだ。だって、人の想像力なんか、所詮は限界のあるものだから。
 彼女の言う通りに『あとがきだけの物語』を書くことで僕は、ただ小説を読むだけでなく作者になりきって……作者とその作品の細部に至る感性を共有し、書いている時の想いを理解して読むことができた。そして、そのような姿勢で本を読むことは、僕には一番足りていなかったことなんだ。

 由麻は僕のことをこの世界の誰よりも、一番に理解していた。そして、ただ言葉で伝えるだけでなく、僕にとって最善の方法でそのことを理解させてくれた。
 彼女にはこれからもずっと、僕の側にいて欲しい。
 だから……僕は自分のオリジナルの作品を書くより前に、この『あとがきだけの物語』を最愛の妻・由麻に贈る。

(あとがきだけの物語・あとがき)
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