洞窟姫と封印の指輪

いっき

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第ニ章 リルムの秘密

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 リルムはマグリア国の王宮で、優しい王と美しい王妃に大切に育てられた。
 幼少の頃から、リルムは王宮から一歩も外に出ることは許されなかった。王と王妃は、リルムの左の手の甲にある痣……それに気付いた時から、決してリルムを外に出すことをしなかった。
 何故なら、その痣は『太陽の魔力』を持つ者の証だから。
 しかし、そんなことなど知らないリルムは、いつしか王宮の外の世界に憧れるようになっていた。
 お外には、どんな世界が広がっているんだろう。青い空、白い雲、色とりどりのお花畑。話では聞いたことがあるけれど、生まれてから一度も見たことがなかった。
 お外に出てみたい。リルムは、ずっと望んだ。
 そのことが、取り返しのつかない悲劇を生むことになるとも知らずに……。

 ある日のこと。
 王と王妃はリルムを召使いに預け、王国内の会議に出掛けた。リルムは、その間に王宮を出ることを企んだ。
 召使いが食事を作ることに気をとられている隙に、さっさと部屋を出て衛兵達にも見つからないように門を出た。
 何しろ、そのところ王宮内は平和続きで衛兵達も毎日、だらだらと過ごしていた。そんな状態なので、居眠りや雑談に花を咲かせている衛兵達をすり抜けることはリルムにとっても容易だった。

「すごぉい、お外って、こんなんだったんだ」
 門の外に出たリルムは、目を輝かした。
 王宮の部屋にいる時には、萎れて数本が花瓶にささっているものしか見たことのないお花が、そこら中、一面に咲いていた。それも、赤、白、青、黄色……。
 鮮やかに色とりどりで、心が踊った。
 残念なことに空は曇っており青空は見えなかったが、何しろ自由なのだ。リルムは、はしゃぎながらお花を摘んでいた。

 その様子を、物陰からこっそりと窺う男がいた。その男はカヴァラ国のスパイ。
 敵国に侵入して様子を窺っていると、何と、王宮から姫が出てきたではないか。マグリア国の姫を自国の王に差し出すとなると、この上ない手柄になる。
 手に持ちきれないほどのお花を摘んでいるリルムの背後から、忍び足でそっと近づいた。
 そして……。
「んー!」
 スパイは、リルムの口を右手で塞ぎ、左手で抱きかかえた。
 やった! これで、王の重臣の座も夢ではない。
 スパイは狡猾な笑みを浮かべた。

 リルムは、何が起こったか分からずに混乱した。
 お外には悪い奴らがいて、いつ殺されるか分からない。そう、いつも国王や王妃から聞いていた。
 私、殺されるの?
 嫌だ!
 私、まだ、死にたくない!
 リルムは、スパイの腕の中で必死にもがいた。
 その時だった!
 空の雲が裂け、その間から太陽の光がリルムに向かってサンサンと降り注いだ。その瞬間、左手の甲の痣がくっきりと赤く光り輝いた。それと同時に、リルムの体が目を覆わずにいられないほど眩しい光に包まれた……。

 スパイは、何が起こったか分からなかった。
 姫の体全体から太陽のような眩しい光が放たれた……。そう認識するより速く、スパイの全身はリルムの体が放つ熱によって燃やし尽くされていた。

「私……どうしたの?」
 スパイが燃やし尽くされた後。
 リルムは、呆然としていた。悪い奴に口を塞がれ、抱きかかえられたところまでは分かる。
 でも、それから私の体が太陽の光で照らされて、私の体中が眩しく光って、それで……。リルムは、黒こげになって転がっているスパイを見た。
「もしかして……私、この人を殺したの?」
 体中がガクガクと、震えが止まらない。
 太陽が隠れた曇り空の下、リルムは先程よりさらに混乱していた。

「姫さま!」
 そんなリルムのもとへ、王宮から三人の衛兵が来た。
 何しろ、姫が行方不明になったのだ。王宮は、大騒ぎになっていた。
「何をなさっていたんですか! さぁ、王宮へ戻りましょう!」
 衛兵の一人がリルムの腕を掴み引っ張る。
 その時……また、曇り空が裂けて太陽の光が射したのだ。またしても、リルムの痣、そして全身は眩しく光った。
「きゃああ!」
 リルムは、今度ははっきりと見た。
 自分の腕を掴む衛兵が、自分の放つ熱によって燃え始め、苦しみ、のたうちながら黒こげになっていく。

 どうして?
 どういうこと?
 太陽が再び雲の中に隠れたのは、その衛兵もまた全身が黒こげになって自分の前に転がった後であった。
「ま……魔女だ!」
 その様子を見た残りの衛兵二人は青ざめた。
「違う! どうして? 私、魔女なんかじゃない」
 リルムは反論した。
 しかし、どう反論しても己の持つ『太陽の魔力』によって衛兵を焼き殺した事実は変わらなかった。

 その後、王宮は大変な騒ぎになった。
 マグリア国の姫が魔女……。そんなこと、あってはいけないことで、間違ってもカヴァラ国に漏れてはいけなかった。
 それに、魔女であるのなら、たとえ姫であっても殺さなければいけない。それは、王と王妃にとっては身を裂くような決断であった。

 リルムの処刑が決行される前の晩。王宮中の衛兵や家来達の食事に睡眠薬を混ぜて眠らせた王と王妃は、リルムに言った。
「この馬車に乗って、ハンバルの洞窟まで行きなさい」
 王は厳かな顔で言った。
 ハンバルは、マグリア国とカヴァラ国の境界。厳密にはカヴァラ国の領土であったが、両国の兵隊は滅多に近づかない場所だった。
「それで、洞窟の中で暮らしなさい」
 王妃は、涙で瞳を潤ませながら言った。
「洞窟の中?」
「ええ。リルム、いい? あなたは持ってはいけない力……『太陽の魔力』を持つ者。ここにいると、明日になったら殺されるの。だから、洞窟の中で暮らしなさい。絶対にそこから出てはいけない。洞窟でずっと、ひっそりと暮らしなさい」
 リルムは、目に涙を浮かべてうなづいた。
 父母と別れ洞窟の中で暮らさなければならないことはこの上なく辛いことだった。しかし、リルムはそれを拒むほど聞き分けのない娘ではなかった。
「もう、これでお別れよ。さぁ、リルム。馬車に乗って。ずっと、元気に暮らすのよ」
 馬車に乗ったリルムは、涙がとまらなかった。
「お父さん、お母さん、ありがとう。ずっと、ずっと忘れないよ」
 馬車に揺られて振り返り、王宮の門で見送る父母が小さくなって見えなくなるまでリルムは言い続けたのだった。
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