やわらかな手

いっき

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一.かおりちゃんとの出会い

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 外でチュンチュンとさえずるスズメさんたちも、まだ起きていない明け方のこと。小屋の穴から、いつものようにぼくは起きだした。ヒゲをチョコチョコと動かして穴の場所を確かめて、ピョンとはねて外に出る。
 まだちょっとうす暗い中で目をこらすと、向こうのとうめいな水そうの中で一晩中動き回っていたハムスターたちは、遊びつかれてねむり始めていた。
 まどぎわにおかれているこのケージには、うっすらと黄色い朝陽がさしていて、気持ちよくってぼくはグーンとのびをした。
 おとなりのケージのモルモットは、まだねぼけてボォっとしている。
 だけれども、すっかり目がさめたぼくはワクワクしていた。今日は何だか、いいことがあるような気がして……いっつもとはちがう何かが起きるような気がして。
 人がたくさん入ってくる前から、ぼくは回し車をカラカラと走って回していた。

 いつものようにお姉さんが電気をつけて箱にヒマワリの種を入れてくれて、お店にはちらほらと人が入ってきた。 ぼくは回し車を止めてぼんやりと、入ってくる人たちをながめた。
 今日もいっつもどおり。男の子や女の子が、お父さんやお母さんと手をつないで入ってきた。
 お昼に起きているぼくが小屋の穴から顔を出したり回し車を回していると、男の子や女の子はとってもよろこんでくれる。ぼくはそれがうれしいんだ。

 今日は、どんな子と会えるかなぁ。
 そんなことを考えながら回し車を回していると、一人の女の子がむすっとしながら、お父さんに手を引かれて入ってきた。
 あんな顔をして入ってくる子は初めてで、ぼくはふしぎに思った。だって、ここに来る子ってみんな、ワクワクした顔で目をかがやかしてぼくたちを見てくれるのに。
 あの子、どうしたんだろう? どうして、あんなにおこってるんだろう?

 そんなことを思っていると、女の子はやっぱりむすっとしながらお父さんに言った。
「私のおたんじょうび、ワンちゃんがほしいって言ったのに……」
「かおり。うちでは犬が飼えないんだ。小さい動物でがまんしなさい」
「でも、小さかったらおさんぽに行けないじゃん」
 かおりっていう女の子はそんなことを言いながら、不満そうに向こうのハムスターの水そうを見ていた。
「ハムスターって、ねてばっかりで全然動かない」
かおりちゃんはつまらなさそうにほっぺたをふくらまして、こっちに歩いてきた。
そして、キョロキョロとあたりを見回してブラブラと歩いていたけれど……回し車を回していたぼくと、ふと目が合って。かおりちゃんは、いきなり立ち止まった。だから、ぼくも回し車を回していた手足を止めて、かおりちゃんの方を見た。
「かわいい……」
かおりちゃんは、すいこまれるようにじっとぼくを見て……ぼくも、そのひとみにすいこまれるように、じっとかおりちゃんを見た。
すると、ぼくたちのお姉さんもかおりちゃんの横でかがんで、ぼくを見てにっこりと笑った。
「この子は、シマリスのぼうやよ。気に入った?」
「うん! すっごくかわいい!」
「そっか。そうだ……ちょっと、待っててね」
お姉さんはそう言って、手にスプレーをシュッシュとかけて。ぼくのケージの中に、そっとその手を差し出してきた。
ぼくは、お姉さんの手が大好きだ。温かくて、いいにおいで……それに、とってもやさしいんだ。だからぼくがよろこんでその手に乗ると、お姉さんはそっとぼくをケージから、かおりちゃんの目の前に出した。
ぼくはまた、かおりちゃんと目が合って、そのひとみにすいこまれそうになった。
おどろいた。かおりちゃんって、こんなにすきとおって、きれいな目をしているんだ。
「ほら。この子はね、毎日、やさしく大切に育ててあげたら、すっごくなついてくれるの。きっと、あなたの手にも乗ってくれるようになるわよ」
「わぁ……すっごーい」
ぼくを見るかおりちゃんの目は、キラキラとかがやいていた。
かおりちゃんは、そっと手をのばしてきたけれど……小さなその手にさわられるのは、初めてで。ぼくはちょっとこわくなって、お姉さんの手首の方へにげた。
「ふふ。この子はまだちょっと、こわがりだからね。でも、あなたがちゃんと育ててくれたら、あなたのことを大好きになってくれるわよ」
お姉さんはぼくの大好きな笑顔で、かおりちゃんにそう言った。
「うん! ねぇ、お父さん。この子に決めた!」
かおりちゃんは、さっきまでむすっとしていたのがウソのように、キラキラした笑顔をお父さんに向けた。
 それが、ぼくとこの小さくてかわいいご主人さま……かおりちゃんとの出会いだった。
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