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三.かおりちゃんの手
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「ポコ。ほら、ひまわりの種よ」
ぼくが新しい家に来てから、何日かがたった。かおりちゃんは毎日、ケージのすきまからぼくに手わたしでごはんをくれた。
ぼくが両手でそれを受け取ると、かおりちゃんはいつも、
「わぁ! ポコ、かわいい!」
と言ってはしゃいでくれるので、ぼくはうれしかった。
だけれども、ぼくにはまだ、なれていないことがあった。
「ほら、ポコ。お乗り」
かおりちゃんが、ケージの入口からそっと手を入れてぼくの方に差し出してくる。だけれども、ぼくはその手に乗ることができずに小屋の方へ後ずさった。
すると、かおりちゃんはいつものようにしょんぼりとした。
「ポコ、やっぱり乗ってくれないんだ。いつになったら乗ってくれるんだろう」
かおりちゃんのそんな顔を見ていると、ぼくも悲しくなった。だけれども、やっぱりぼくはまだ、かおりちゃんの手の平に乗る勇気がなかった。だって、手の平に乗るってことは、ぼくの全てをかおりちゃんにあずけるっていうことで。かおりちゃんは新しいご主人さまで大好きなんだけれど、お姉さんよりも小さい、そのかわいらしい手にはまだなれていないんだ。
かおりちゃん、ごめんね。ぼくに勇気がなくて。
言葉では伝えられないけれど、ぼくはそう伝えたくって、じっとかおりちゃんの顔を見た。
すると、かおりちゃんの後ろからやさしい声が聞こえた。
「しかたがないわよ、かおり。だって、ここにポコが来てからまだ一週間なんだから」
かおりちゃんのお母さんのそんな声が聞こえると、かおりちゃんはちょっと元気を取りもどした。
「そうだよね。毎日毎日続けていたら、きっと乗ってくれるよね。明日もがんばる!」
かおりちゃんがお返事すると、お母さんも
「そうよ、かおり。がんばって」
と言って、ほほえんだ。
かおりちゃん、ありがとう。ぼく、明日こそはちゃんとかおりちゃんの手に乗れるように、がんばるよ。
やっぱり言葉にはできないけれど、ぼくの心は伝わったのか、かおりちゃんは目を合わせてにっこりと笑ってくれた。
次の日のこと。かおりちゃんは、真っ赤なイチゴを乗っけた手の平をそっとケージの中に入れた。
「ほぉら、ポコ。おいしいイチゴだよ」
かおりちゃんはイチゴが大好きだ。だけれどもその日は、ぼくのためにイチゴを残してくれたんだ。
そのことが分かっていたから、ぼくはどうしても、かおりちゃんのよろこぶ顔が見たかった。
ぼくはひげをひくひくと動かして、かおりちゃんの手の平を確かめた。それはお姉さんとはちがって小さいけれど、やわらかくって、とっても温かい、かわいい手。ぼくはおそるおそる、その手の上に前足を運んで……後ろ足もピョンとはねて、体ごと手の平に乗った。
「ひゃあ……」
かおりちゃんは目を丸くしておどろいた様子で……だけれども、すぐにとってもうれしそうな笑顔になった。
「お母さん、見て見て。ポコ、私の手に乗ってくれた」
「本当だ! すごぉい。やったじゃない、かおり」
そんなかおりちゃんを見たお母さんも、すごくうれしそうで。
ぼくもとてもうれしくって、真っ赤ないちごを両手でもって、かじりついた。すると、口の中にあまずっぱい味とにおいが広がって、まるでその時のぼくの気持ちみたいだった。
「このまま、ケージから出ても大丈夫かな?」
かおりちゃんはそう言って、手の平をそっと動かした。するとぼくはビクッとして、イチゴをかじったままその手からはなれてしまった。
「あっ」
かおりちゃんはまゆを寄せて、ちょっと残念そうな顔をした。
「やっぱり、まだ手を動かしたらこわいのかな」
そんなかおりちゃんに、お母さんはニコッと白い歯を見せた。
「大丈夫よ、かおり。毎日、ポコに話しかけて、ごはんもあげてがんばってたから、ポコは今日、手の平に乗ってくれたんだと思うよ。明日からもがんばったら、きっともっとなついてくれるわよ」
「そっか……そうよね、お母さん。ありがとう」
そして、かおりちゃんは目を細めてぼくを見てくれた。
「ポコも! 今日はありがとう」
そんなかおりちゃんに、ぼくもポカポカと温かい気持ちになった。
それから毎日、かおりちゃんはひまわりの種とかビスケットとかを乗せた手の平を差し出して、ぼくを乗せてくれた。
かおりちゃんの手はとってもやわらかくて、やさしくて、いいにおいがする。お姉さんの手より小さくって、ちょっと不安だったけれど、すっごく温かい。
だからぼくも、かおりちゃんがケージの中に手を差し出してくれるのがとってもうれしくて、楽しみになっていたんだ。気がついたらぼくは、乗った手の平が動いても大丈夫になっていて。かおりちゃんはそんなぼくをケージから出してなでなでしてくれるようになっていた。
「ふふっ、ポコ、目を細めて気持ち良さそう」
なでてくれるかおりちゃんの手がとってもやさしくて気持ち良くって。ぼくはいつも、うっとりとしてしまった。そんなぼくを見るかおりちゃんも、とても幸せそうだった。
ぼくはふと、かおりちゃんの手首を伝ってうでに登ろうとした。すると、かおりちゃんはあわててぼくをケージの中にもどした。
「ダメ、ダメ。ポコがどこかに行って見つからなくなったらいけないもの」
かおりちゃんはそう言って、そっとケージのふたをしめた。
どこかに行っちゃったりしないのに……。
ぼくはそんなことを思って、しめられたケージのふたをながめた。
かおりちゃんは、ぼくのことをすごく大切にしてくれて、ぼくもとってもうれしい。だけれども、ぼくはケージの中と、お姉さんかかおりちゃんの手の上にしかいたことがないんだ。
ケージの外に出て、かおりちゃんのうでによじ登ったり、知らないところへ行ったり、見たことのないものを見てみたい。
ちょっと前まではかおりちゃんの手の上にのるだけのことがこわくてできなかったぼくだけど……そんなことを思うようになっていた。
ぼくが新しい家に来てから、何日かがたった。かおりちゃんは毎日、ケージのすきまからぼくに手わたしでごはんをくれた。
ぼくが両手でそれを受け取ると、かおりちゃんはいつも、
「わぁ! ポコ、かわいい!」
と言ってはしゃいでくれるので、ぼくはうれしかった。
だけれども、ぼくにはまだ、なれていないことがあった。
「ほら、ポコ。お乗り」
かおりちゃんが、ケージの入口からそっと手を入れてぼくの方に差し出してくる。だけれども、ぼくはその手に乗ることができずに小屋の方へ後ずさった。
すると、かおりちゃんはいつものようにしょんぼりとした。
「ポコ、やっぱり乗ってくれないんだ。いつになったら乗ってくれるんだろう」
かおりちゃんのそんな顔を見ていると、ぼくも悲しくなった。だけれども、やっぱりぼくはまだ、かおりちゃんの手の平に乗る勇気がなかった。だって、手の平に乗るってことは、ぼくの全てをかおりちゃんにあずけるっていうことで。かおりちゃんは新しいご主人さまで大好きなんだけれど、お姉さんよりも小さい、そのかわいらしい手にはまだなれていないんだ。
かおりちゃん、ごめんね。ぼくに勇気がなくて。
言葉では伝えられないけれど、ぼくはそう伝えたくって、じっとかおりちゃんの顔を見た。
すると、かおりちゃんの後ろからやさしい声が聞こえた。
「しかたがないわよ、かおり。だって、ここにポコが来てからまだ一週間なんだから」
かおりちゃんのお母さんのそんな声が聞こえると、かおりちゃんはちょっと元気を取りもどした。
「そうだよね。毎日毎日続けていたら、きっと乗ってくれるよね。明日もがんばる!」
かおりちゃんがお返事すると、お母さんも
「そうよ、かおり。がんばって」
と言って、ほほえんだ。
かおりちゃん、ありがとう。ぼく、明日こそはちゃんとかおりちゃんの手に乗れるように、がんばるよ。
やっぱり言葉にはできないけれど、ぼくの心は伝わったのか、かおりちゃんは目を合わせてにっこりと笑ってくれた。
次の日のこと。かおりちゃんは、真っ赤なイチゴを乗っけた手の平をそっとケージの中に入れた。
「ほぉら、ポコ。おいしいイチゴだよ」
かおりちゃんはイチゴが大好きだ。だけれどもその日は、ぼくのためにイチゴを残してくれたんだ。
そのことが分かっていたから、ぼくはどうしても、かおりちゃんのよろこぶ顔が見たかった。
ぼくはひげをひくひくと動かして、かおりちゃんの手の平を確かめた。それはお姉さんとはちがって小さいけれど、やわらかくって、とっても温かい、かわいい手。ぼくはおそるおそる、その手の上に前足を運んで……後ろ足もピョンとはねて、体ごと手の平に乗った。
「ひゃあ……」
かおりちゃんは目を丸くしておどろいた様子で……だけれども、すぐにとってもうれしそうな笑顔になった。
「お母さん、見て見て。ポコ、私の手に乗ってくれた」
「本当だ! すごぉい。やったじゃない、かおり」
そんなかおりちゃんを見たお母さんも、すごくうれしそうで。
ぼくもとてもうれしくって、真っ赤ないちごを両手でもって、かじりついた。すると、口の中にあまずっぱい味とにおいが広がって、まるでその時のぼくの気持ちみたいだった。
「このまま、ケージから出ても大丈夫かな?」
かおりちゃんはそう言って、手の平をそっと動かした。するとぼくはビクッとして、イチゴをかじったままその手からはなれてしまった。
「あっ」
かおりちゃんはまゆを寄せて、ちょっと残念そうな顔をした。
「やっぱり、まだ手を動かしたらこわいのかな」
そんなかおりちゃんに、お母さんはニコッと白い歯を見せた。
「大丈夫よ、かおり。毎日、ポコに話しかけて、ごはんもあげてがんばってたから、ポコは今日、手の平に乗ってくれたんだと思うよ。明日からもがんばったら、きっともっとなついてくれるわよ」
「そっか……そうよね、お母さん。ありがとう」
そして、かおりちゃんは目を細めてぼくを見てくれた。
「ポコも! 今日はありがとう」
そんなかおりちゃんに、ぼくもポカポカと温かい気持ちになった。
それから毎日、かおりちゃんはひまわりの種とかビスケットとかを乗せた手の平を差し出して、ぼくを乗せてくれた。
かおりちゃんの手はとってもやわらかくて、やさしくて、いいにおいがする。お姉さんの手より小さくって、ちょっと不安だったけれど、すっごく温かい。
だからぼくも、かおりちゃんがケージの中に手を差し出してくれるのがとってもうれしくて、楽しみになっていたんだ。気がついたらぼくは、乗った手の平が動いても大丈夫になっていて。かおりちゃんはそんなぼくをケージから出してなでなでしてくれるようになっていた。
「ふふっ、ポコ、目を細めて気持ち良さそう」
なでてくれるかおりちゃんの手がとってもやさしくて気持ち良くって。ぼくはいつも、うっとりとしてしまった。そんなぼくを見るかおりちゃんも、とても幸せそうだった。
ぼくはふと、かおりちゃんの手首を伝ってうでに登ろうとした。すると、かおりちゃんはあわててぼくをケージの中にもどした。
「ダメ、ダメ。ポコがどこかに行って見つからなくなったらいけないもの」
かおりちゃんはそう言って、そっとケージのふたをしめた。
どこかに行っちゃったりしないのに……。
ぼくはそんなことを思って、しめられたケージのふたをながめた。
かおりちゃんは、ぼくのことをすごく大切にしてくれて、ぼくもとってもうれしい。だけれども、ぼくはケージの中と、お姉さんかかおりちゃんの手の上にしかいたことがないんだ。
ケージの外に出て、かおりちゃんのうでによじ登ったり、知らないところへ行ったり、見たことのないものを見てみたい。
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