1と0のあいだに

いっき

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0-れい-

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『デートに行こう』
 その言葉がいちの口から出て、私の心臓は跳ね上がった。
 恋人同士がするというそれは、楽しくってワクワクしてて、甘い。私はデートしたことはないけれど……本とかを読んで抱いていたイメージはそうだった。

「れいはどこに行きたい?」
 そう聞かれて、私は迷わず「遊園地!」って答えた。
 遊園地なんて本当は行ったことはなかったんだけれど……デートでのお決まりのコースだということは知っていて。私達が自然に恋人同士でいられる場所だと思ったから、どうしても、いちとの初デートで行きたかったんだ。
 そんな私に、いちはにっこりと白い歯を見せて頷いた。
 精一杯『恋人同士』でいようとする私を受け入れてくれる彼のそんな表情に、私はまた心をときめかせてしまったのだった。



「あれは……」
「観覧車っていうんだ。この遊園地の全体を見渡せるよ」
「そっか。あれが観覧車なんだ」
 いざ遊園地に着いてみると、私はやはり、初めて見るものばかりで、いちに教えてもらうばかりだった。

 周りのカップルは私達みたいなことはなくって、彼氏も彼女もとっても楽しそうに笑い合っていて……やっぱり私は、普通の女性とは違うんだ。
 そんなことを考えて、落胆の溜息が口から漏れそうになっていた時だった。

「なぁ、れい。メリーゴーランドに乗らない?」
「えっ、メリーゴーランド?」
「うん。ほら、あれ……お馬さんが上下に揺れながら回ってるだろ」
「あ、あれ? うん! 楽しそう!」
 本で見たことがある。それは、小さな子供達が楽しそうに乗っている、メルヘンチックな乗り物で……いつか乗ってみたいって、ずっと思ってた。
 周りのカップル達はもっと大人向けの絶叫マシンに列を作ってならんでいたけれど、私はそんな恐い乗り物よりも、笑顔で楽しめる素敵な乗り物の方に憧れていて。いちがメリーゴーランドを提案してくれて、とっても嬉しくってワクワクした。

「ほら、れい。跨って、棒にしっかりと掴まって」
「えぇ……」
「僕も隣の馬に乗るから、安心して」
「そうね。ありがとう」
 それは、子供でさえも普通に乗っているものだけれど、初めて乗る私はやはり緊張した。だけれどもいちは、私の手を取って優しく乗せてくれて、隣のに乗って微笑みかけてくれて……恋人って、彼氏って、こんなに優しくて温かいものなんだ。私の心はじんわりと熱くなった。

 パイプオルガンから流れるようなメルヘンチックな音楽とともにメリーゴーランドが回り始めた。隣の馬に跨ったいちは、とっても楽しげに笑っている。そして周りの子供達の楽しげにはしゃぐ笑い声が聞こえるとともに、私の心もまるでくすぐられるように、口からは自然に笑い声が漏れた。
「あはは、あははは!」
 今まで作り笑い……偽りの笑いしかしたことがなかった私だけれど、何だかとっても温かくって、くすぐったくて。
 楽しいって、こんな感じなんだ。人型の私は、初めてその感情を理解した気がした。


「次、観覧車に行こうか」
 いちは、初めて遊園地に来た私を気遣ってか、優しくて穏やかなアトラクションを選んで手を引いてくれる。
 私にとってはいずれも初めての感情なんだけれど……私はきっと、彼の何気ない優しさが、嬉しくって楽しくって幸せで堪らなかった。
 だから、観覧車の中で向かい合うと、私は何だか体の中がむず痒くなって、つい彼から目を逸らしてしまった。すると、彼は不安そうに眉を下げた。
「なぁ、れい」
「えっ?」
「僕とのデート、楽しい?」
 そんな彼を見ていたら、どういうわけか、私の顔は自然に綻んだ。
「えぇ、楽しいわ。楽しくって、幸せで、仕方ない」
 このデートでは初めて体験すること、初めて抱く感情ばかりで。私の口からはまるで自然に、その言葉が出た。
 すると、彼は少し目を見開いた。
「やっぱり、れい……似てるな」
「えっ?」
 不思議に思う私を見る彼の顔は、だけれどもすぐに綻んで白い歯を見せた。
「いや。そう言ってくれて、良かった。嬉しいよ」
「うん!」
 私もそんな彼ににっこりと微笑んだ。

 いちの元に来た時、これから始まるのは「偽りの恋人ごっこ」だと思っていた。
 私は所詮、商品で、いちはただ商品を「購入」しただけ。だから、彼が私を「人型」として扱っても何ら構わないはずだった。
 なのに、今日……「刻印」を追う彼の視線に気付いた時、私はどうしても、彼に「人型」だと思われたくない。何故だか、強くそう思ったんだ。
 私のそんな想いを、彼は明るく受け止めてくれた。いや、内心では複雑な想いを抱えていたのかも知れないけれど……そんなことは微塵も口には出さずに、私をデートに誘ってくれた。
 そして今、楽しくって幸せで堪らなくって……私は優しくて純粋ないちに、偽りではない想いを抱き始めているのだった。


 だけれど……今、向かい合っているこの人の心の中には、絶対に忘れられない女性がいる。だから私は何だか堪らない気持ちになった。
「ねぇ」
「ん?」
 私は恐る恐る、彼に尋ねた。
「いちは、私と一緒にいて楽しい?」
「楽しい!」
 不安気な私にいちは即座に答えてくれて……そして、少し頬を染めて目を逸らした。
「楽しいし、幸せだよ。すっごく」

 私は彼のその言葉が嬉しくて、だけれどもやっぱり、堪らなくくすぐったくなって。
「良かった」
 一言そう答えた私の全身はかぁっと熱くなって、すっといちから目を逸らした。

 そんな私を見る彼の口から、嘆息のような呟きが漏れた。
「綺麗……」
「えっ?」
 彼の言葉に振り返ると、ついさっきまで吸い込まれそうに青かった空は美しいオレンジ色に輝いていて。丁度、観覧車のてっぺんから見るそれは最高に綺麗だった。
「本当だ。夕陽、すっごく綺麗……」
 その美しさに目を潤ませる私に、彼は「違うよ」と言って席を立った。
「えっ?」
 再度振り返っていちを見た私に、彼は顔を近付けた。
「夕陽に照らされたれいが、すっごく」

 次の瞬間、私の唇に柔らかな彼の唇が重なって。このまま時間が止まって欲しい……そんなことを願う私は、体の奥からとろけてしまいそうなくらいに幸せだったんだ。
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