4 / 16
1-いち-
しおりを挟む
◆
キッチンからは、れいの作る肉じゃがのとっても香ばしい匂いが漂っていた。
観覧車から降りると丁度良い時間になっていて、「晩御飯……何にしようか?」と彼女が尋ねてきて。外食にしても良かったのだけれど、今朝、れいの作ってくれた朝食がとても美味しくて、それに何だか、懐かしい味がして……僕は思わず、玲奈の得意だった料理をリクエストしてしまったんだ。
分かっている。今、キッチンに立っているこの女性は人型で、僕の愛しくて堪らない玲奈ではない。
だけれども、どうしてだろう。
さっきの観覧車の中……れいの反応を不安に思った僕に、彼女は玲奈と全く同じ答えを返してくれたんだ。
『楽しくって、幸せで仕方がない』……そう。初デートの時、玲奈が僕に言ってくれたのと寸分違わぬ言葉だった。
不思議だ。玲奈は人間で、れいは人型。それに、玲奈とれいは見た目も性格も、正反対のはずだ。
それなのに、どうしてれいは、こんなにも玲奈と重なってしまうんだろう……。
「お待たせ!」
れいが僕の前にホカホカの肉じゃがを運んでくると、やっぱりとても懐かしい感じがした。それは、この香り……甘くて優しい香りが玲奈の作ったものを思い出させたし、それに。
「絹さや……」
そう。肉じゃがには、かつて玲奈が僕に作ってくれたのと同じように、緑色の絹さやが鮮やかに彩られていたのだった。
「へへっ、教えられたのは飾りなんてしなかったんだけど。何だか、この方が彩り的に綺麗かなって」
れいはチラッと舌を見せて……だけれども、そんな仕草も僕にはあの女性にしか見えなかった。
「玲奈……」
「えっ?」
「会いたかった……会いたかった。ずっと……」
「ちょ、ちょっと……」
僕は自分の内なる衝動に抗うことができなくて。立ち上がり、戸惑う彼女の手首を掴んでぎゅっと強く抱きしめた。
「玲奈……愛してる。もう離さない。絶対に……」
「んっ……」
無理矢理に唇を奪った僕に彼女は少しだけ抵抗したけれど……すっと目を瞑って、僕にその身を任せてくれた。
「ねぇ、いち。お願い」
唇を離して……瞳を潤ませた彼女の口から出る言葉に、僕は我に返った。
「ちゃんと、私の名前を呼んで……」
そうだ、この娘はれい。どんなに玲奈と重なっても、同じことをしていても……玲奈ではないんだ。
「ご……ごめん、れい。僕……」
すると彼女は潤んだ瞳の目を少し細めた。
「続きは……お風呂の後だね」
「えっ……」
「だって。私、せっかく作ったのに冷めちゃうじゃない」
「あ……そうだな、ごめん。せっかく、美味いの作ってくれたのに」
「大丈夫! あぁ、いい匂い。我ながら、食べるのすごく楽しみ!」
れいはにっこりと白い歯を見せて、僕の向かいに座った。
『玲奈』……僕の口からその名前が漏れても、れいは決して深く尋ねることはない。僕は彼女の、そんな何気ない優しさが愛しくて……だけれども、つい彼女を通して玲奈を見てしまう自分が申し訳なくって。堪らない気持ちになったのだ。
*
「いち。私、初めてだから……優しくして」
ベッドのれいは、まるで少女のようにあどけない微笑みを浮かべていて、透き通った水のように純粋で……触れるのさえ躊躇われた。
だけれども、悶々とした本能に抗うことができず……僕は自らの指で彼女の敏感な部分をなぞった。
「あっ……」
れいの体がビクンと微かに動いて、そんな彼女が堪らず愛しくて。僕は今度こそ間違えずに、彼女の名前をよんだ。
「れい……愛してる」
「私も、愛してる。いち……」
僕の中からは玲奈が消えてなくなることはない。だけれども、僕は……目の前にいる、何処か玲奈と重なる彼女を出会ってすぐに愛してしまった。
もう決して人を愛することはないと思っていた僕は、その日……れいと激しく深く、愛し合ったのだった。
キッチンからは、れいの作る肉じゃがのとっても香ばしい匂いが漂っていた。
観覧車から降りると丁度良い時間になっていて、「晩御飯……何にしようか?」と彼女が尋ねてきて。外食にしても良かったのだけれど、今朝、れいの作ってくれた朝食がとても美味しくて、それに何だか、懐かしい味がして……僕は思わず、玲奈の得意だった料理をリクエストしてしまったんだ。
分かっている。今、キッチンに立っているこの女性は人型で、僕の愛しくて堪らない玲奈ではない。
だけれども、どうしてだろう。
さっきの観覧車の中……れいの反応を不安に思った僕に、彼女は玲奈と全く同じ答えを返してくれたんだ。
『楽しくって、幸せで仕方がない』……そう。初デートの時、玲奈が僕に言ってくれたのと寸分違わぬ言葉だった。
不思議だ。玲奈は人間で、れいは人型。それに、玲奈とれいは見た目も性格も、正反対のはずだ。
それなのに、どうしてれいは、こんなにも玲奈と重なってしまうんだろう……。
「お待たせ!」
れいが僕の前にホカホカの肉じゃがを運んでくると、やっぱりとても懐かしい感じがした。それは、この香り……甘くて優しい香りが玲奈の作ったものを思い出させたし、それに。
「絹さや……」
そう。肉じゃがには、かつて玲奈が僕に作ってくれたのと同じように、緑色の絹さやが鮮やかに彩られていたのだった。
「へへっ、教えられたのは飾りなんてしなかったんだけど。何だか、この方が彩り的に綺麗かなって」
れいはチラッと舌を見せて……だけれども、そんな仕草も僕にはあの女性にしか見えなかった。
「玲奈……」
「えっ?」
「会いたかった……会いたかった。ずっと……」
「ちょ、ちょっと……」
僕は自分の内なる衝動に抗うことができなくて。立ち上がり、戸惑う彼女の手首を掴んでぎゅっと強く抱きしめた。
「玲奈……愛してる。もう離さない。絶対に……」
「んっ……」
無理矢理に唇を奪った僕に彼女は少しだけ抵抗したけれど……すっと目を瞑って、僕にその身を任せてくれた。
「ねぇ、いち。お願い」
唇を離して……瞳を潤ませた彼女の口から出る言葉に、僕は我に返った。
「ちゃんと、私の名前を呼んで……」
そうだ、この娘はれい。どんなに玲奈と重なっても、同じことをしていても……玲奈ではないんだ。
「ご……ごめん、れい。僕……」
すると彼女は潤んだ瞳の目を少し細めた。
「続きは……お風呂の後だね」
「えっ……」
「だって。私、せっかく作ったのに冷めちゃうじゃない」
「あ……そうだな、ごめん。せっかく、美味いの作ってくれたのに」
「大丈夫! あぁ、いい匂い。我ながら、食べるのすごく楽しみ!」
れいはにっこりと白い歯を見せて、僕の向かいに座った。
『玲奈』……僕の口からその名前が漏れても、れいは決して深く尋ねることはない。僕は彼女の、そんな何気ない優しさが愛しくて……だけれども、つい彼女を通して玲奈を見てしまう自分が申し訳なくって。堪らない気持ちになったのだ。
*
「いち。私、初めてだから……優しくして」
ベッドのれいは、まるで少女のようにあどけない微笑みを浮かべていて、透き通った水のように純粋で……触れるのさえ躊躇われた。
だけれども、悶々とした本能に抗うことができず……僕は自らの指で彼女の敏感な部分をなぞった。
「あっ……」
れいの体がビクンと微かに動いて、そんな彼女が堪らず愛しくて。僕は今度こそ間違えずに、彼女の名前をよんだ。
「れい……愛してる」
「私も、愛してる。いち……」
僕の中からは玲奈が消えてなくなることはない。だけれども、僕は……目の前にいる、何処か玲奈と重なる彼女を出会ってすぐに愛してしまった。
もう決して人を愛することはないと思っていた僕は、その日……れいと激しく深く、愛し合ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる