1と0のあいだに

いっき

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0-れい-

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「いち! いちー!」
 救急車でいちが搬送される間、私は必死で彼の名前を叫んだ。
 嫌だ……嫌だよぅ、いち……。
 自分自身が憎かった。
 彼が海に飛び込むのを……そして、テトラポットに愛しいその体が打ち付けられるのを、茫然と見ていることしかできなかった、自分自身が。

 彼が緊急手術を受けている間も私は神にずっと祈っていた。
(神様……どうか、いちを連れて行かないで下さい。私はどうなってもいい。だから、私の愛しい……愛しくて堪らない、いちだけは)
 永遠に続くかとも思われた手術の間、私はずっと祈り続けた。もし、それでいちが戻ってくるのなら……私はこの身が朽ち果てるまで祈り続ける。
 私はいちのためなら、この身を全て投げ出す覚悟もできていたのだ。

 いちはどうにか一命を取り留めて、手術室から集中治療室へと移された。しかし、医師の口から出た言葉は絶望的なものだった。
「どうにか一命を取り留めましたが……臓器の損傷が激しく、非常に危険な状態です。すぐにでも移植をしなければ、彼の命はないでしょう」
 曇った顔をした医師の言葉に、私は打ちのめされて。目の前が真っ暗になった。

 だけれども……
「私の……臓器を使って下さい」
「えっ?」
 私の口をついて出た言葉に、医師は目を丸くした。
「私のであれば、使えます。だから……」
「ちょっと、待って。冷静になりなさい。そんなことは……」
 慌てる医師に、私は手首に刻まれた『刻印』を見せた。医師は暫し、目を見開いて硬直したけれど……やがて、全てを察したようにうなずいた。

 私達『人型』は、臓器移植のドナーとして使われるものもある。試験管の中で育てられた私達の細胞は初期化されているため、レシピエントの体に馴染むのに時間がかかることはあっても、拒絶反応が起こることはあまりない。だから、移植には適しているのだ。

 私は集中治療室に入って……いちの手をギュッと握りしめた。
「ねぇ、いち。私、生まれ変わったら……普通の女の子として、あなたに出会いたい」
 そして、結婚して子供も生んで、ずっとあなたと一緒に暮らすんだ。
「だから、あなたは生きて。私の分までずっと……」
 私の目からは止めどなく涙が頬を伝って、いちの手に落ちて……それは、いちの全身に染みてゆくかのようで、彼の体はポカポカと温かくなってゆくように思えた。

 嬉しい……私の体は、今から彼の一部になって、彼の体に温かい血を送り続ける。
 それは、私の希望。私はいちのために全てを投げ出して死ぬけれど、でもそれは、死ではない。いちの中で生き続けて、いちの生命の炎を燃やし続けるんだ。

 無数のチューブをつけてベッドに横たわる彼の頬にそっとお別れのキスをして。私は医師に手を引かれて、別室の手術室へと向かったのだった。
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