いっき童話作品集

いっき

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ねがいごとをたべるヤギ

ねがいごとをたべるヤギ

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健太くんのお父さんは青い短冊に「課長になれますように」と書きました。お母さんは赤い短冊に「みんなが元気いっぱいで過ごせますように」と書きました。妹のまみちゃんはピンクの短冊に「かしゅになれますように」と書きました。そして、健太くん以外のみんなは短冊をお庭の笹に飾りました。
「健太も書いて飾ろうよ。おねがいごと」
 お母さんはそう言ったけれど、健太くんは元気なく首を横にふりました。お庭の笹は風にそよそよと吹かれて葉っぱと短冊をゆらしながら、そんな健太くんを見ていました。
 今日も夜ごはんはお母さんが腕をふるって、とってもおいしそうな肉じゃがとほうれん草のごま和えが出てきました。お父さんはにこにこと笑いながらそれを食べました。
「お母さんのお料理はおいしいなぁ。これで明日も、お仕事がんばれるぞぉ」
「ええ、あなた。がんばってね。もうちょっとで課長になれるんでしょ?」
 お母さんもにっこりと微笑みました。
 まみちゃんは夜ごはんの間も大好きな歌を歌っていました。
 それはいつも通りの食卓でした。でも、健太くんはさっさと食べて、元気なく自分のお部屋にもどりました。
「おねがいごとなんて、どうせ、叶わないんだよう……」
 健太くんはボソッとつぶやきました。七夕のおねがいごと。それをみんなでやろうとしてから気分が悪かったのです。だって、健太くんのおねがいは決して叶うわけのないものだったのですから。
 次の日のことです。朝、早く目が覚めた健太くんはびっくりしました。何と、お庭に白いヤギがいたのです。そのヤギは長いヒゲを生やしていて、「メェ~、メェ~」と泣きながら、笹に飾られた短冊を次々に食べてゆきました。お父さんの青い短冊、お母さんの赤い短冊、まみちゃんのピンクの短冊……。
「ちょっと! 何してんの?」
 健太くんはあわてて庭に出たけれど、そのヤギはさっさと走って逃げて行きました。
 その日は、朝ごはんが出てきませんでした。
「おなか、すいたよぉ……」
 健太くんは言ったけれど、お母さんは寝床から起きてきませんでした。
「ごはんなんてもう、作らなくてもいいのよ。だって、みんながおなかがすいても病気になっても、私には関係ないんだもん」
 お母さんはゴロゴロして、そんなことを言うのです。
「お仕事も行かなくてもいいさ。出世なんてしなくても、どうでもいいんだから」
 お父さんもそんなことを言って、起きてくる気配がありませんでした。
「どうしよう……まみ! まみぃ……」
 すっかり困った健太くんは、まみちゃんをゆさぶりました。でも、まみちゃんも。
「まみ、なりたいものなんてないの。寝ていたいの!」
 そんなことを言って、おふとんの中にもぐりこみました。
「そんな……」
健太くんは悲しくなりました。だって、大好きだったみんなが、おねがいごとがなくなったらすっかりやる気をなくしてしまったのですから。健太くんは、そんなお父さんもお母さんもまみちゃんも、嫌いでした。
「あっ……」
ふと庭に目をやった健太くんは、あの白いヤギがまた来ているのを見つけました。健太くんは急いで庭に出ました。
「ちょっと! みんなのおねがいごとを返してよう!」
するとヤギはしわがれた声で言いました。
「どうしてだ? おねがいごとなんて、叶うわけがないんだろう? お前にも、おねがいごとなんてないんだろう?」
「あるよ! 僕にも……」
健太くんはそう言って……目からは涙が吹き出しました。健太くんのおねがいごと……決して叶うわけのないこと。それは、ずっと一緒に暮らしていた親友のチロに会うことでした。おじいちゃん犬だったチロは先週、健太くん達家族と永遠のお別れをしたのでした。
「チロ……チロ。会いたいよぉ……」
健太くんがしゃくりを上げて泣き始めると白いヤギはそのヒゲを揺らして……にっこりと笑ったように見えました。

「健太! 朝よ。起きなさい!」
お母さんにゆさぶられて、健太くんは目を覚ましました。
「あれ……ヤギは?」
すると、お母さんはクスッと笑いました。
「何を寝ぼけてるの。ヤギなんていないわよ」
健太くんは、急いで庭の笹を確かめに行きました。すると、笹にはちゃんと青、赤、ピンクの短冊がくっついて、風に吹かれてゆれていました。
叶うはずがない……そのことは分かっていたけれど、健太くんは緑色の短冊に「チロにまた、あえますように」と書いてそっと飾りました。
その朝はいつも通りでした。お母さんがとっても美味しいサンドイッチと目玉焼きを作ってくれて、まみちゃんが大好きな歌を歌って、お父さんはお仕事のしたくをして。いつも通り、健太くんの大好きな家族でした。
その日の幼稚園からの帰り道のことです。お母さんに手を引かれた健太くんは、道のわきで、ダンボールの箱を見つけました。
その箱をのぞきこんだ健太くんは、思わずつぶやきました。
「チロ……」
そうです。その箱の中にいたのはチロそっくりの子犬だったのです。それはまるで、チロの生まれかわりのようで……お母さんも目を丸くしました。
「チロ! チロ~!」
健太くんが叫ぶと、その子犬ははちきれんばかりにしっぽをふりました。
「ねぇ、お母さん。チロ……飼ってもいいでしょ?」
「えぇ。おじいちゃんだったチロと同じように……大切に育ててあげるのよ」
お母さんはそう言って、にっこりと白い歯を見せました。
それは、七夕の次の日のことでした。健太くんの家族はまた、幸せな五人家族になったのでした。
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