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「ねぇ、徹(てつ)ちゃん。大学、どこ受ける?」
砂浜で隣同士、三角座りで座っている亜弓に尋ねられて僕は正直、切ない気分になった。
だって、それを僕の口から言うことは、必然的に彼女との別れを切り出すことになるから。
でも、やっぱり僕は自分の口から言わなければならない。きっと、彼女も悲しむことになる……だけれども、こんな大事なことを他の人の口から聞いてしまうと、彼女はもっと傷ついてしまうから。
だから、僕は重い口を開いた。
「東京の海洋大学」
「東京!?」
僕の言葉に、彼女はまるで意外なことを聞いたかのように目を丸くした。
それもそのはず。彼女は地元の大学を受けるつもりで……きっと僕も、地元に違いないと思っていただろうからだ。
「どうしてよ? 関西、離れるの?」
彼女はひどく動転している様子で……でも、僕の口からこんなことを話すのも初めてのことだから、仕方ないのかも知れない。だから、僕はずっと自分の中に留めていた自分の夢を話した。
「海の生き物のことを、勉強したいんだ」
「海の生き物?」
睫毛の長い大きな目で見つめる彼女に、僕は頷いた。
「だって、こんなに広くて大きな海。ほら、ここから見るだけでも、すごく綺麗な魚が泳いでるの見えるし……この海の中には僕達の知らない生き物が沢山いる。そんな生き物の勉強をすることが、小さい時から、僕の夢だったんだ」
「すごい、素敵……」
僕の夢を聞いて目を輝かせた亜弓はしかし、目を細めて切なそうに、夕陽に照らされた青いスズメダイの泳ぐ海を見つめた。
「でも、寂しい……だって、大学になったら私達、離れてしまうんだよね?」
「うん……亜弓は大阪で医学部志望だったもんな。医学部はめちゃくちゃ難しいけど。亜弓、頭いいし、模試でもいつもA判定だし、きっと、受かるよ」
「そうね。私もずっと、目指してたから……」
亜弓は亜弓で、自分の志望を変える気はない。それは、僕も一番良く分かっていた。
「ねぇ、亜弓。二十年後、もう一度会わない?」
「えっ?」
「二十年後……もし気持ちが変わっていなければ、この場所で。今日みたいに、夕陽の照らすこの綺麗な海、一緒に見よう」
自分で別れる決断をしておきながら未練がましい……それは、自分でも良く分かっている。だけれども、僕はどうしても、彼女とそんな約束を交わしたかったんだ。
すると……
「うん、もちろん!」
自分のことを未練がましいなんて思っている僕に、彼女は爽やかな白い歯を見せてくれた。
「二十年後、絶対に会おうね。この場所……この海で!」
その時だった。
オレンジ色に照らされた海面の下……大きな大きな楕円形をした生き物がゆっくりと向こうへ向かって泳いで行くのが見えた。
「ウミガメ……」
「えっ、どこ?」
「ほら、そこ」
彼女は僕の指の先を見て。途端に目を輝かせた。
「本当だ。すごい……私、初めて見た」
太平洋に向かってゆったりと泳ぐウミガメは、とっても優雅で美しくて。夕陽に照らされた僕達は、そのウミガメが泳いで行くのをうっとりと眺めていたのだった。
「ねぇ、徹(てつ)ちゃん。大学、どこ受ける?」
砂浜で隣同士、三角座りで座っている亜弓に尋ねられて僕は正直、切ない気分になった。
だって、それを僕の口から言うことは、必然的に彼女との別れを切り出すことになるから。
でも、やっぱり僕は自分の口から言わなければならない。きっと、彼女も悲しむことになる……だけれども、こんな大事なことを他の人の口から聞いてしまうと、彼女はもっと傷ついてしまうから。
だから、僕は重い口を開いた。
「東京の海洋大学」
「東京!?」
僕の言葉に、彼女はまるで意外なことを聞いたかのように目を丸くした。
それもそのはず。彼女は地元の大学を受けるつもりで……きっと僕も、地元に違いないと思っていただろうからだ。
「どうしてよ? 関西、離れるの?」
彼女はひどく動転している様子で……でも、僕の口からこんなことを話すのも初めてのことだから、仕方ないのかも知れない。だから、僕はずっと自分の中に留めていた自分の夢を話した。
「海の生き物のことを、勉強したいんだ」
「海の生き物?」
睫毛の長い大きな目で見つめる彼女に、僕は頷いた。
「だって、こんなに広くて大きな海。ほら、ここから見るだけでも、すごく綺麗な魚が泳いでるの見えるし……この海の中には僕達の知らない生き物が沢山いる。そんな生き物の勉強をすることが、小さい時から、僕の夢だったんだ」
「すごい、素敵……」
僕の夢を聞いて目を輝かせた亜弓はしかし、目を細めて切なそうに、夕陽に照らされた青いスズメダイの泳ぐ海を見つめた。
「でも、寂しい……だって、大学になったら私達、離れてしまうんだよね?」
「うん……亜弓は大阪で医学部志望だったもんな。医学部はめちゃくちゃ難しいけど。亜弓、頭いいし、模試でもいつもA判定だし、きっと、受かるよ」
「そうね。私もずっと、目指してたから……」
亜弓は亜弓で、自分の志望を変える気はない。それは、僕も一番良く分かっていた。
「ねぇ、亜弓。二十年後、もう一度会わない?」
「えっ?」
「二十年後……もし気持ちが変わっていなければ、この場所で。今日みたいに、夕陽の照らすこの綺麗な海、一緒に見よう」
自分で別れる決断をしておきながら未練がましい……それは、自分でも良く分かっている。だけれども、僕はどうしても、彼女とそんな約束を交わしたかったんだ。
すると……
「うん、もちろん!」
自分のことを未練がましいなんて思っている僕に、彼女は爽やかな白い歯を見せてくれた。
「二十年後、絶対に会おうね。この場所……この海で!」
その時だった。
オレンジ色に照らされた海面の下……大きな大きな楕円形をした生き物がゆっくりと向こうへ向かって泳いで行くのが見えた。
「ウミガメ……」
「えっ、どこ?」
「ほら、そこ」
彼女は僕の指の先を見て。途端に目を輝かせた。
「本当だ。すごい……私、初めて見た」
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