おれの、わたしの、痛みを知れ!

えいりす

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第三章 王都への旅

66.動かなくていい依頼?

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平和な日を過ごした4人は翌日の朝にギルドへ集まっていた。


「エイシェルーおっはよー」

「おはよう、フルームは元気そうだな」

「私はいつも元気だよ。……まぁ今のアリスに比べたらそう思うかもね?」


エイシェルとフルームが他愛もないやりと利をしている後ろに生まれたての子鹿のようになっているアリスがいた。


「筋肉痛で力が入らない……」

「昨日は大丈夫だったじゃないの?一昨日の方が大変だったと思うけど、筋肉痛が遅れて来たとか?」

「それって歳をとったらなるやつでしょ……。たぶん、単純に昨日しゃがんだり立ち上がったりしすぎたんだと思う……。ちょっと張り切りすぎたわね」

「ほうほう……」


アリスとフラムがそんなやりとりをしてるとフルームがニヤニヤしながら近づいてきた。
フルームはアリスの背後をとりしゃがんで……


ぷにっ


ふくらはぎを揉んだ


「はぅっ!」

「くぁっ!」


油断していたアリスはその場で崩れた。
……ついでにエイシェルも膝を折り手を床につく。


「おぉ……エイシェルまで崩れると思わなかった……」

「……なんとも無かったのに急に気持ち悪い感覚が……」


フルームが予想外の展開に驚いていると、目の前でアリスがプルプル震えている。
アリスは涙目になりながらフルームをジト目で見る。


「……ふーるーうーむー!」

「ごめんごめん。面白そうだったからつい、ね」

「つい、ね。じゃないわよ!」

「ごめんってばー」


フルームはしばらくの間アリスに説教されるのだった。


「しかし、アリスが揉まれるまでエイシェルは気づかないものなの?」

「フラム!言い方がおかしいから!」


フラムはエイシェルが急に崩れたのを見て、朝とか何も無かったのか気になった為エイシェルに聞いてみた。
アリスの反応が面白いからつい端折った表現をしてしまう。
……アリスの顔が赤くなっていたのは怒った後だからだろう。
エイシェルはあえて突っ込まずに質問に答えた。


「そうだな……アリスが触られるまでは何も感じなかったぞ?」

「そう、朝から子鹿状態だったけどなんとも無かったのね」

「たぶん外から刺激されないと共有されないんだと思う」

「外から刺激……。アリス?朝起きた時にふくらはぎ揉まなかったの?」


エイシェルは推論を述べる。アリスが風邪を引いた時に考えていたことだ。身体の中から由来の痛みは共有されず、外から由来の痛みは共有されるのではないかと考えた。
それを聞いたフラムがアリスに確認をとる。


「痛いの分かってるのに揉まないわよ……」

「えー。私は揉むけどなー。なんか痛気持ち良くない?」

「よくないわよ……。そんなことはいいから!今日の依頼探しましょ?」


アリスはこれ以上ひっぱるとまた揉まれる可能性があると判断してさっさと話を切り上げることにした。


「とは言ってもそんな状態だと動き回るのはダメだよな。あまり動かなくても良さそうな依頼なんて……」

「これはどうかしら?」

エイシェルがアリスのことを気遣って山以外でなるべく動かなくても良さそうな依頼を探す。
そんな条件の依頼なんてあるのかと思ったところでフラムが何か見つけたようだ。


「魚の納品。魚を生きたまま運んできて欲しい。……ふむ、水を貯めておく桶と台車は貸し出してくれるみたい。これならいけるんじゃないかしら?」


フラムが依頼内容を読み上げて話す。この依頼ならあちこち移動しなくてもいいと考えたのだ。


「お姉ちゃん、移動しなくていいってことは魚釣りなの?そうなると南東にある湖になるのかな」

「よく分かったわね。釣りの道具まで借りられるかは分からないからギルドの方でも借りれないか聞いてみましょう」

「釣りかぁ、わたしやったこと無いのよね……」

「おれもやったことないな……。村には山ばかりだったし……」

「今度は私達の番ね。魚釣りなら少しやった事があるから教えるわ」


アリスとエイシェルは魚釣りの経験が無いため不安だったが、フラムが釣りの経験があるらしくアリスとエイシェルに教えてくれるらしい。
魚釣りをする流れになったと感じとったフルームがここぞとばかりに提案する。


「せっかくだし誰が大きな魚を釣れるか競争しようよ!」

「いいわね!やりましょう!」

「わたしたち経験無いから……お手柔らかにね?」

「大丈夫だよ。むしろ初心者の方が大きい魚を釣り上げる事もあるから」

「そりゃ極めてる人とかは技術とかあるんでしょうけど、わたしたちレベルだともう運よ。1匹も釣れない日もあったし」

「そうなのね。……それならやってみたいかも!」

「ちょっと気になったんだが、4人とも1匹も釣れなかったらどうするんだ……?」

「…………。その時はその時よ……」

「大丈夫だって!そんなこと滅多にないから!」

「……その滅多なことが起きないことを祈るよ」

「わ、私受付して来るわね!」

4人は魚納品の依頼をうけることにした。

フラムは早速受付で釣竿や針、餌などを用意できるか聞きにいった。



 
「すみません。この依頼を受けようと思うのですが、釣竿とか餌とか釣り道具一式借りれますか?」

「あら、フラムさん。今日はあなたなのね?釣り道具一式ね……。それはフラターさんに聞いてみて?どこかしらツテがあると思うから。とりあえず受け付けちゃうわね」

「わかりました。ありがとうございます。」


フラムがセラスに釣り道具の件を聞いたところ、何故か買取カウンターのフラターを案内された。
こうやっていつも忙しくなるんだろうなと心の中で叔父の苦労をしのぶフラムだった。




「おじさん、ちょっと相談があるんだけど……」

依頼の受付を終えたフラムは買取カウンターにいる叔父のフラターに話しかける。

「お?フラムか。どうした?」

「セラスさんに案内されたんだけど、釣り道具ってどこかで借りれる?」

「……またあの人は、人をなんだと思ってるんだか……。まぁ、あるから間違いじゃ無いんだけどな」

「え、あるの?」


正直フラムはセラスがフラターへ無茶振りをしたものかと思っていたがあながち間違いでは無かったらしい。


「おう、あるぞ。といっても買取で持ち込まれたのに買い手がつかなかった釣竿が10本ほどだけどな。どうせ誰も使わないし貸し出しくらいならいいだろう。ちょっと持って来るからここで待ってな。あそこの3人も呼んでくれ、選んでもらう」

「おじさんありがとう!」


フラムはフラターにお礼を言うと3人を呼びに行った。


「あんなに生き生きとしてるってことは楽しいんだろうな。……仲間を大事にしろよ?」


誰も聞いていないのにポツリと言葉をこぼし釣竿を探しに行くフラターだった。
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